ふわふわ体が宙に舞う。
夏の夜風が髪をすり抜け、煌々と輝く月光が降り注ぐ。
空を飛ぶ心地が、バーンは好きである。
人類の夢――空を自由に飛び回る。
向かい風を突き進み、追い風に乗って、重力に逆らう。
この優越感。たまらない。
特に弾を避けている時が一番。
バーンの上空を飛ぶ影から青い弾幕が弧を描きながら展開させられる。
叫ばれる言葉は風の音で聞こえない。
大方バーンに対する侮辱の言葉だ。
懲りないもんだ。
バーンは迫りくる自分の身長ほどの中玉の隙間を縫いながら進む。
不規則な弾幕は弾が多くとも、簡単に避けられてしまう。
最後に大玉の群れを突っ切り、バーンはガゼルと同じ高さまでくるとじっと相手を見据える。

「怒りに任せた弾幕なんて美しくないぜ」

風にかき消されないよう腹から大声を出すと、うるさいと甲高い声で怒鳴られた。

「貴様なんてわたしのよりよっぽど酷いだろう!」
「センス悪いなお前!」

顔を真っ赤にさせ、ガゼルは肩を怒らせた。
あっかんべえ、と舌を出してやると相手は懐に手を入れる。

「君には教えてやるべきだな! 凍てつく闇の冷たさを!」
「もう聞き飽きたよ!」

ガゼルの腕が歪にかけた月の光を浴びながら、上へ伸ばされた。
指に挟まれたのは暗い色のスペルカード。
鋭い声が静かな夜に響き渡る。

「細氷『ノーザンインパクト』!」

宣言されたスペルカードが手の中で光りだす。
ぱん! と空気が弾ける音がしたと同時に青いレーザーがバーンの周りを撃ち、それが氷の礫となってガゼルの方へ集まっていく。
後ろから来る弾を避けつつ前に注意すると水色の中玉と大玉が規則正しい配列で現れ始めた。
発射音と共にそれとガゼルの方へ向かっていった礫達が高速でバーン目掛けて飛ぶ。
ノーザンインパクトを避けるのはもう何回目だろう。
初めて見た時よりも確かに美しく完全なものに進化したが、面白みが足りない。
弾が固定すぎる。攻略しがいがない。辺りが寒くなるのは勘弁だけど。
前に受けた時より狭くなった隙間に体を捩り、ガゼルを睨めば相手も負けじと眉を寄せた。

「可愛げがないの」

ここまで一切弾で応戦をしなかったバーンがスペルカードを掲げる。

「紅炎『アトミックフレア』!」

スペルカードから炎が溢れ、散らばる氷が溶けていく。
夜だというのに朝日を髣髴させる光が照らし、閃光を放つ小さな弾が紅炎を描く軌跡を作る。
その上をバーンを中心に発生した炎から生み出される火の弾が滑っていく。
絶える事なく軌道を変え、生きた炎がガゼルを襲う。
必死に避け続けるガゼルが作り出した氷塊がバーンを撃つが、中心に届く事はなかった。

「残念だな! これは耐久スペルだ!」
「くそっ」

悔しそうに顔を歪め、空に散り散りとなる弾達を慎重に体を動かしてできるだけバーンから離れようと後退した。
このスペルカードで40秒相手が耐え切れなければバーンの勝ちだ。
そうでなくとも今初めて使ったスペルの他にあと2枚用意はしてある。
勝利は決定だ。
残り15秒。
弾の発生速度も増し、閃光は万華鏡の如く姿を変えていく。
その変化に追いつけず、ガゼルの目の前には赤く輝く弾が迫っていく。

「俺の勝ちだ!」

そう本能で感じた。
しかし辺りに浮いていた弾が一気に消え去る。
バーンがきょとんとする中、闇を支配していた小さな太陽が消え失せてスペルは終了する。
弾の雨を避け続けるのに体力を酷く消耗しただろうガゼルの手で、霊撃用の符が効力をなくしていた。

「霊撃隠してやがったのかよ。準備良いな」
「貴様のスペルなど力を見せ付けるだけで優雅さがないな! スペルカード戦は美しい方が勝ちなんだ!」
「俺からしたらお前のなんて寂しいブリザードだよ。湖にいる氷精の方がもっと勇ましき冷気を見せてくれるぜ」
「わたしを侮辱するのか! 貴様だって炎なんてありきたりなスペルじゃないか! 一体何番煎じだろうな!」
「お前も人の事言えないじゃんか!」

ぎゃいぎゃい麗しい夜空の下で意味のない言い争い。
いつもの喧嘩に近くに棲む妖怪達も手を出さない。
悪い意味で二人だけの世界だ。
この日常を二人は正直満更でもないと感じていた。
喧嘩以外何の興味も持たなかった二人は気づいてはいなかったのだ。
夜が終わらない事を。

そして横から襲う御札にも気づかず、二人は被弾して地上へ落下した。
落ちる途中、森の木々のせいで服が破れ、汚れ、みっともない状態になったのを苦く感じながらバーンとガゼルは空を見上げる。
その頭上を悠々と紅白の巫女と隙間妖怪が飛び去っていった。









夜に二人で落下する程度の能力











喧嘩ップルぽく弾幕ごっこ。
弾幕表現なんて文で書けない。
夜が終わらない永夜の術に気づかないほど喧嘩に必死な二人。
それを華麗に博霊アミュレットで撃ち落とす紅白巫女。
東方知らない人にはさっぱりな話。
反省しているが、後悔はしていない。
タイトルは「月夜に二人で〜」シリーズから。

2009.12.28 初出

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