どれにしようかと赤い髪がきょろきょろする。
ショーケースの後ろに立つ愛嬌のあるお姉さんがにこにこして、あらあらまあまあとおっとりしている。
ウルビダと晴矢は眉をひくつかせながら、ヒロトの行動を見守っていた。
ウルビダが腕時計を一瞥して溜め息を吐いた。
文字盤を晴矢の方へ見せると、彼も溜め息を吐き眉をひくつかせた。

「ヒロト」
「なあに」
「早く決めてくれねえかなあ」
「だってどれもおいしそうなんだもん」

色とりどりのケーキ達を眺めてヒロトはうっとりとする。

「お前は女子か。横の女よりよっぽど女々しいわ」
「やかましい」

声に不穏な色を含ませたウルビダが頭を叩いた。
あらあらまあまあ、お姉さんが笑う。

「年に一度のクリスマスですものね」
「はい!」

屈んでヒロトに視線を合わせてくるお姉さんに、彼は礼儀正しく返事をした。
元気ねー、と言っていますがそいつは中学2年生ですお姉さん。
晴矢は心の中だけで突っ込みを入れると、ジーンズのポケットの中で携帯電話が震えだした。
メールではなく電話のようだ。
ディスプレイを見ると、風介からである。

「はい」
『まだ?』
「もうちょっと」
『さっきもそう言ってた』

不機嫌そうな口調で風介は言う。
唇を尖らせているだろう。想像して苦笑いする。

『31のアイスケーキがいい』
「だから余計に帰るのが遅くなるって」
『それは困る』
「また今度な」

ぷす、と電話の向こうから空気が抜ける音。
楽しげな女の子の声。
頬を膨らませている所をアイシー辺りにつつかれたらしい。

『バーン様、早く帰ってきてあげてくださいね』
『何言ってるんだ!』
「わかったから、切るぞー」
『腹が減った!』
「はいはい」

急にぎゃいぎゃいとにぎやかになった家との通信を切る。
ウルビダがヒロトを急かすために背中を叩いていた。

「早く決めろ馬鹿」
「だって」
「もうこれでいいだろう!」
「あ、だったらフルーツ系がいい!」

ショーケースを前に体をひっつけ合いながら言い争う姿を傍から見れば微笑ましいが、はじかれてしまった晴矢は少し寂しく思いながらそれを眺めていた。

「兄弟仲が良いんですね」
「兄弟ではないです!」
「えー兄弟同然じゃない、ひどいよウルビダ」
「少し黙っていろ! その苺のショートケーキとレアチーズでお願いします!」
「はあい」
「フルーツ系がいいって言ったのに! あ、上にサンタさんとトナカイ乗せてください!」







ーキの予約はお早めに










ショートショートで突発なんだ。
クリスマスケーキを買いに来ました。
ケーキの予約をしなかった結果、帰るのが遅くなって皆に怒られる。
でもケーキを選んでいる時が誰だって一番楽しいんだ。
ちなみに皆の携帯は家族割りだという設定。だといいな。
2009.12.25 初出


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