Aldebaran | ナノ



02





「えっへへ」
「気持ち悪い笑い方すんなよ…」
「だって…」

だって、だ。
まさか石川さんとこうやって肩を並べてて歩く日がこんなに早くやってくるなんて思いもしなかったんだから。
店長は俺が石川さんに告白した時に隣のレジに入っていた。
俺の恋を知っているし、俺の目標も嫌ってくらい聞いていた。
半分面白がっているのもあるだろうけど、この間急なシフトの変更に俺がカバーに入ったことで今日は石川さんと同じ上がりにしてもらえたのだ。
石川さんからすればいい迷惑だろうけど、店長からも途中までくらいなら歩いてやってもいいじゃないか、なんて言ってもらえて、念願かなって石川さんの家まで二人で歩くというデートをもぎ取った。

空はきれいに晴れて、いつもより星がキラキラ輝いているように見える。
みんな俺の味方してくれた、なんて馬鹿なことを考えてうれしくなった。

「ほんと馬鹿みてぇだな。そんなに嬉しいか」
「嬉しいよっ!俺、びっくりするくらい石川さんのこと好きなんだよ?」
「ははは、どうも」

どうも信じてもらえてないのか、嘘くさい笑い声を返された。

「あれ。もしかして石川さん信じてないとか?」
「えー…、まぁ、なぁ…男同士、だろ?それは憧れとかさ、友達になりたいとか、そんな延長じゃないの」
「違うよ」
「うーん。本当の恋とか、知らねぇからじゃね?」
「石川さんは知ってるの?」
「うーん」

うーんうーん、と唸る石川さんと歩くだけでこんなに幸せだ。
本当の恋?もちろん人を好きになったことなんてない。人を好きになることなんて考えられなかった。
何より先を考える事をしなかったからだ。考えるとどこかで躓いてしまうから…。
なら、なんで石川さんなら告白しちゃえるかって…。
正直俺にもわからない。ほんと衝動的だったし。
先を考えるよりも今だった。ただそばに居たいとか、そこに石川さんの意見はいらなかったかもしれない。
ほんと一方的な思いでしかないけど、俺は今これを本当の恋だと思う。
なんで女じゃなくて男なんだろうとか、そんなこと悩むこともなかった。
この恋に変化があったら考えるかもしれない。けど今の俺には目の前の石川さんと少しでも長く過ごすことしか考えてない。

「で、この後お家…お邪魔させてください!」
「はぁぁぁぁ?お前何言ってんの」
「良いじゃないですか、せっかく一緒に歩いてるんだし、このまま勢いに乗っちゃいましょう」
「乗れねぇよ!」
「乗りましょう、乗ってください!」

半ばあきれ顔。
このままいけば嫌われるかもしれない。
俺のこと嫌って離れるなら、それでもいいかなってくらいには思ってる。
中途半端な関係よりは、嫌われて、顔も見たくないって避けられるくらいの方が俺にはいいかもしれない。
人より感覚がずれてることも、空気が読めないことも知ってる。

石川さんの家の前、石川さんが家の中に入って、部屋の電気が付くまでここで見てます。
そう伝えると、石川さんは深い眉間のしわと盛大な溜息をついて、

「一瞬なら上げてやる、でも一瞬だ。すぐ帰れよ」

って言って家に上げてくれた。
やっぱり優しい。俺みたいなやつにも情けをかけてくれた。
石川さんの家は戸建てで、玄関入ってすぐの階段を上がって一番奥に部屋があった。遅いから静かに上がって静かに帰れ、と言われた通り足音を立てないように歩いた。
石川さんの部屋は物は大してなく、家具などもシンプルなものしかないのに変わっていた。
電気から釣り下がる紐の先には卵がついていて、紐の調節でヒヨコが生まれる仕組みだったし、二つある窓のブラインドのうち、一つには上からカレンダーが貼られていたし。
シルバーラックに置かれてる大量のデニムはデニム好きなんだな、と思わせるのに部屋にかけられてる数枚のTシャツは熊がこちらを向いていやらしく笑ってたりする。
机のライトはどこに売ってるのだろうか、花の形をしていて、花芯の部分がライトになっている仕組みだ。
予想外の部屋に興奮が抑えられなくて思わず携帯を取り出した。

「なにすんだよ」
「写真を撮るだけっ!…一枚だけでいいからっ」
「お前なんかストーカー入ってんじゃねぇの?」

一枚、と言いながら正面と左右の計三枚をカメラに収めた。
今日は嬉しすぎて寝れないかもしれない。

「また、上がらしてください…今日は、これで帰るけど」

石川さんのあきれた顔に、少し笑みが乗っていた。
俺の幸せにつられて笑ってくれたのならうれしい。

時計を見ると石川さんを引っ張ってだらだら歩いていたせいもあって、零時を回ったところだった。
ここから家に帰ればちょうどいい時間になるだろう。

「遅くにすいませんでした…」
「あぁ…つうかお前なんでいつも零時半とか、一時の上がりでシフト組むわけ?遅すぎない?」
「石川さんは遅いシフトだと十時とか、最低十一時ですよね。早いと九時上がりだし」

自由にシフトを組ませてくれる今のバイトはありがたかった。

「学校終わってから入ってるだろ?勉強する時間とか寝る時間とか足りなくなんねぇ?」
「…俺あれだし、かなりの馬鹿高だし。勉強しなくても…学校さえ、行ってればって感じで…帰って、風呂入って…寝るだけ、だから」
「安立?」

石川さんに名前を呼ばれるのは久々だった。
いつもおいとか、お前とか…だから、本当に今日は幸せな日で。
一瞬でも自分の世界を垣間見て暗い気持ちになっても、建て直せた。

「ではまた明日バイトで」

そういってまた足音を立てずに、物音は最小限で、石川さんの家を後にした。
暗い夜空を見上げながら、緩んだ頬をさすりながら自宅まで歩いた。




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