小説
子蓮二(中1) / 高1の柳姉がいます / 続く

「ナマエさん」と言って遠慮がちにこちらを窺っているのは友人である柳の弟で、名前を蓮二くんという。同級生の方を柳と呼んでいたので、自然と弟くんの方を名前で呼ぶようになっていた。この蓮二くんがもうとにかく可愛くて、柳家に遊びに行くたび私は蓮二くんを自分の弟であるかのように猫かわいがりしている。

「蓮二くんっ!さぁお姉さんのお膝においで!」
「じゃあ、ちょっとだけ……」

柳は飲み物を取ってくると言って階段を下りて行ったので、今この部屋には私と蓮二くんしかいない。正座している膝の上に蓮二くんがちょこんとお尻を乗せる。後ろから抱き締めてほっぺたをスリスリさせてもらう、すべすべモチモチ。頭を撫でると髪から花の香りがした。
柳は私からショタコンの気配を感じるのか、弟に近づくなとか危機感を持った方が良いとよく注意してくる。決してショタコンじゃないし、何なら好みのタイプは高身長スパダリ系だし、だから犯罪者になる危険なんてないから心配無用なのにな。
私は1人っ子だから、実際の弟の可愛がり方なんて知らなくて、つい我が家の猫を可愛がる時みたいに頬擦りするとか匂いを嗅ぐとかしてしまう。

「んっ……ナマエさん、くすぐったいっ…!」
「イヤ?」
「…いやじゃないです、けど……っ何か…」

とんとんとん、と柳が階段を上がってくる足音が聞こえる。すると蓮二くんは私の膝から降りて、「部屋に戻りますね」と足早に柳の部屋から出ていってしまった。あーあ。蓮二くんは去り際に柳と鉢合わせたようで「蓮二、どうしたの?」と言う柳の声がした。しばらくしてお茶の乗せたお盆を持つ柳が部屋に入って来る。

「ナマエ〜〜」
「な、なに?」
「あなたねぇ、うちの弟たぶらかすのやめてくれるかしら?」
「たぶらかしてなんかないよ可愛いものを可愛い〜可愛い〜したいだけだよ」
「余計たち悪いじゃない」
「だってあんな可愛い弟いるとか羨ましい」
「本音はそこなのよね……」
「蓮二くん欲しいよぉ」
「ナマエホント気を付けなさいよ?我が弟ながらやる時はやる男だから」
「ええ…急に身内自慢ずるい…私も弟マウントやりたい」
「ちゃんと聞きなさい。あの子もう中学生だしあんな見た目だけど男の子なんだからね、分かってる?」
「分かってるって、入学祝い渡したし」
「も〜〜絶対分かってないじゃない」
「分かってるってば」

さすがに私だってそろそろ駄目かな、とは思っている。柳が言う通り、蓮二くんはもう中学生でそんな彼を膝の上に乗せて喜んでいていいわけがない。本当は中学生になる前にはやめようと思っていたのに蓮二くんが素直に乗りに来てくれるので気付かないフリをしていただけ。私が蓮二くんを甘やかしていたのではなくて、私が蓮二くんに甘えていたのだ。本当は嫌だったのかもしれない、年上のお願いなんて蓮二くんだって断れないだろう。

「そろそろ私も蓮二くん卒業しなきゃね、さみしいけど」
「え…?」
「テキトーに彼氏でも作ろっかな」
「な、なんでそっちに行くのよ!?違うのよぉそうじゃなくて……」
「??」
「ナマエが本気なら私は別にいいと思ってたのに…弟が気の毒でならないわ……」

実の姉にまで気の毒がられているほど、私は蓮二くんに酷なことを強いていたらしい。可哀想なことをしてしまった。深く反省した私は、この日以降めったに柳家へ訪れることはなくなった。

200628 / A→
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