小説
微裏 / 高3の柳姉がいます / 続く

柳とは中学からの付き合いで、高校でも仲良しのつもりなのだけど、高校生というものは複雑で、クラスも部活も別々だと幼馴染という関係はかなり希薄になってしまうらしい。高2になってクラスが分かれた私達は高2のまるっと一年間ほとんど話していなかった。すれ違いざまだとか行事や体育で一緒になるときだとかにほんの少し、その程度。そして高3で同じクラスになって、また自然と一緒にいるようになったのだ。

「ねぇ柳、蓮二くん元気?」
「あら?うちの蓮二は卒業したんじゃなかった?」
「よく覚えてるね…。まぁさすがにもう前みたいにベタベタする気ないよ、ただ元気かなって気になっただけ」
「…元気よ、今は生徒会やテニス部のレギュラーとして頑張ってるわ」
「そっか、良かった」
「それだけ?会いたいくらい言っても良いのよ」
「あはは、もう蓮二くんを困らせないから大丈夫だって」

懐かしいな、蓮二くんをお膝抱っこしていた日々を思い出す。蓮二くんが可愛くて仕方がなくて周りが見えていなかったけれど、今思えばあの距離感はいけなかった。弟みたいだと言っても弟ではないし、年もそんなに離れていないから、私はそうとう蓮二くんに無理をさせていたことだろう。会いたいか会いたくないかでいったらそれは会いたい、でも会わす顔がない。柳の忠告通りにしていればよかった、そうすれば今すぐにでも蓮二くんに会いに行けるのに。

「あと“テキトーに彼氏でも作る”んじゃなかったかしら?できた?」
「ほんっとによく覚えてるね……。できてません」
「あら意外だわ。ナマエって実は結構モテるじゃない」
「どうだろ…?高1の時はそんな気もしたけど高2以降はそういうのないなぁ」
「……嘘」
「嘘じゃないって」

高1のときに理想高すぎるって話してたし拗らせ地雷女オーラが出ているのかもしれない。そもそもテキトーに彼氏でも作る発言は、蓮二くんに会えないさみしさを埋める方法の1つとしてとりあえず言ってみただけだ。実際には蓮二くん関連の話はシャットアウトして蓮二くん断ちを心掛けていたので、さみしさを感じる余裕がなかった。

「嘘っていうのはナマエに対して言ったわけじゃなくて…ああ、もう」

柳は自分の髪をぐしゃとかき回した、たおやかな柳には珍しい仕草だ。「駄目ね、ちゃんと言葉にしないと拗れるだけなのに」「でもこればっかりは本人たちの問題だし……」独り言なのか私に話しかけているのか判別できなくて黙って聞く。しばらくすると柳の中で考えがまとまったのか「そうだナマエ!」と手を叩いた。さっきまでのは独り言だったらしい、黙っていて良かった。

「あなたにピッタリの男を紹介してあげるわ」
「急にどうしたの?私、今は彼氏ほしいわけじゃないけど」
「でもあなた好みの背が高くて頭が良くて優しいイケメンよ」
「自分で言うのも何だけどその人実在する?」
「してるから安心しなさい」

ニコニコと機嫌のよい柳の提案を断ることは、私にはできなかった。



放課後、私は柳によってある場所へ連れてこられた。その場所は私もよく知る……。

「柳の家じゃん……」
「そうよ?いらっしゃい」
「お邪魔します……え?何で……私好みのイケメンは?」
「この部屋で待っていれば会えるから、そうね5分くらいかしら」

そう言って柳は私を一室へ押し込めた。その部屋は柳の隣の部屋、つまり蓮二くんの部屋にあたるはずだ。察しの悪い私でも分かる、柳の言っていた“私好みのイケメン”が誰を指すのか。私はまた柳に弟マウントをかまされたらしい。私はとりあえずテーブルの前に座った。甘んじて受け入れるのは、私にピッタリの男を紹介するというのは建前で、これは柳なりの私への気遣いなのかもしれないと思ったから。
部屋からは白檀のような落ち着いた匂いがするのに、心臓は柄にもなくドキドキしている。蓮二くんは中3だから大きくなっているだろうな……。柳がわざわざ引き合わせてくれるくらいだから嫌われてはいないはず……。じっとしているだけだとそんなことをグルグルと考えてしまうので、他のことを考えようと部屋を見回す。卓上のカレンダーを見て、今日は蓮二くんの誕生日だったことを思い出す。あと、枕元に何か……。

「ノート?……私の名前が書いてある」
「ナマエさん!?」

ノートの表紙を確認したところでドアが勢いよく開けられた。蓮二くんが帰ってきたらしい。

「おかえりなさい、蓮二くん」
「た、ただいま…どうしてここに…」

蓮二くん、と呼んだわりに私は彼の変わりように心底驚いていた。私よりも小さかった背は伸び、手足も長くなり、一方でお人形のようだった髪型は短く切り揃えられている。部活で鍛えているのだろうか、身体も随分と分厚かった。可愛い可愛いしていたあの頃とのギャップがすごすぎる。弟マウント、これは取りたくなっても仕方がない。蓮二くんは鞄を床に置いて私の隣で膝をつく。視線が近づくと、幼い頃の面影を残しつつも大人の男性の顔になりつつあることがよく分かった。

「突然ごめんね、柳に連れてこられたの。多分仲直りしたら?ってことだと思う。あはは、別に私たち喧嘩してるとかじゃないのにね?」
「……」
「また会えて嬉しい。蓮二くんは迷惑かもしれないけど……!?」
「ナマエさんっ……!」
「ど、どうしたの!?」

蓮二くんに抱き締められている。お互いの頬が触れ合って首筋に蓮二くんの鼻が当たる。かつて私が蓮二くんにしていたことを彼になぞり返されているのだと分かった。仕返しなのかしれない。それから蓮二くんは私を膝の上に乗せて、また抱き締め直す。私は蓮二くんに身体を預けてされるがままになっていた。蓮二くんは私になんでもさせてくれたから。それに不思議と蓮二くんには何をされても嫌じゃない。抱き締められても頬をくっつけても膝の上に乗せられても。

「蓮二くん…?」
「すみません…ナマエさんが自分の部屋にいるということが信じられなくて……」
「ふふ、蓮二くんでもそんなこと言うんだ」

小学生の時点でかなり現実主義的だった蓮二くんだから、そんなことを言い出すのは意外だ。私は夢じゃないよ、とでも言うように調子に乗って蓮二くんの身体をぎゅうっと抱き締め返す、蓮二くんから抱き締めてくれたくらいだから嫌ではないのだと思う。頬をスリスリして、髪を撫でるとふわりと蓮二くんの髪から花の香りがした。そしてこの匂いが大好きだったことを思い出す。蓮二くんの匂いだ。それがあまりにも懐かしくて少しだけ涙が出る。私はきっと、自分が思っていたよりもさみしかったのだ。

「蓮二くん……ホントに会いたかった」
「……ん、はぁ…はぁ…ナマエさん……そ、んな…」

このままだとしめっぽい気分になってしまうので、明るい話題……蓮二くんの誕生日の話をしよう。私は抱き締めていた身体を離す。ずっとくっついていて暑くなったのかもしれない、蓮二くんの顔が赤かった。膝の上からも降りようと思ったけれど、それは蓮二くんが腰を掴んでいて降りられなかった。私は蓮二くんがお膝の上に乗っているときはその重さも含めて愛しく思っていたけれど、きっと今の私は重いんじゃないだろうか。

「蓮二くん、今日誕生日だよね?」
「はい、そうですよ」
「欲しいものある?何でもいいよ」
「本当に何でも?……後悔しませんか?」
「うん、私に用意できるものなら……んんっぅ」

蓮二くんに口を塞がれた、キスをしてしまっている、そう理解して慌てて後ろへ逃げようとしたけれど腰と後頭部を抑えられていて逃げ場がない。一度唇が離れて蓮二くんの目を見つめる、その目はたしかな欲情を孕んでいた。じっと蓮二くんの目を見ているとまた唇が重ねられる。隣の部屋に柳がいるのに。何度も何度も。

「姉なら俺の帰宅と同時に外出している……だから、…はぁ…ナマエさん……」
「…んっ…ぅん…ぁ、んんっ…」
「ずっと、こうしたかった……あの頃からずっと好きだったんだ」

酸素を求めて開いた唇の隙間から蓮二くんの舌が入り込んできて口の中を貪られる。制服越しにぐり、ぐりと擦り付けられる蓮二くんのソレがすごく硬くて、擦れ合うたびに下着の奥がじんじんと甘く痺れる。頭はふわふわするし身体は熱くて溶けそうで、溶け出したらきっと溶け残らないに違いないと思った。

--------------
柳姉の「…嘘」発言は、夢主が誰とも付き合えないように蓮二が根回ししていることを察してその拗らせ具合にドン引きしたから。
ただし柳姉は自分のせいで2人が疎遠になったことを理解しているので罪滅ぼしとして中3の誕生日に夢主を献上。

200628 / B→
- ナノ -