小説
続く

「真田君!腕、痛い…!」
「すまん…!!」

私が悲鳴を上げる頃には、真田君の手が二の腕に食い込んでいた。真田君は慌てて手を離してくれたが、きっと赤くなっている。色が変わった肌を見ると、真田君はとても申し訳なさそうな顔をするので見せないようにしないと。
いつもそうなのだ。最初のうちは良くても、途中から真田君がどんどん力んで、その握力の前に私の方が屈してしまう。今日もイチャつこうとして断念したところ。

「ナマエを見ていると、辛抱たまらなくなるのだ…すまん」

しゅんとする真田君が可愛くて、抱き締めて頭を撫でた。制服を着ているので、いつも被っている黒色の帽子はない。だから前髪が下りているのだけど、私は真田君の額が大好きなので、手のひらで前髪を除けて彼の額にキスをした。大人みたいな顔をしている真田君をこうやって甘やかすのも良い。

「私は大丈夫だよ?真田君」
「しかし、またナマエを傷つけてしまった…」
「うーん、確かにこのままだとエッチはできないね」
「えっち」
「そう。キスもまともにできてないくらいだし」
「きす」

オウム返ししかしなくなった壊れた真田君をよしよしと撫でていた。

「処女だから痛いのはやだなあ」
「しょ、じょ」

多少の痛みなら我慢できるけど、真田君の握力は半端ではなく、多少の痛みに収まるどころか下手をすると本気で骨が逝く。大人しくしていた真田君が、私の身体をぎゅうと抱き締め返した。これくらいの強さなら気持ち良いのにな。やっぱり握力が強すぎるらしい。

「ナマエ…俺は必ず克服する。だから……」

真田君は縋りつくように私の髪に顔をうずめていた。心配しなくてもちゃんと待つのに。でも腰の辺りにあたっている硬くなった真田君のソレが、待つことを許してくれない気がした。



テニス部の部室から少し離れたところで真田君を待つ。今日はテニス部が早く終わる日なので途中まで一緒に帰る予定なのだ。普段、茶道部の私とテニス部の真田君とでは部活が終わる時間は全く違う。以前は遅くまで部活があるときも待っていたのだけど、心配させたり家の前まで送ってくれようとしたり、むしろ気を使わせてしまうことが分かったので下校はほぼ別々。久しぶりに一緒に帰れることが嬉しくて、意味もなくネクタイを触ったり、部室のドアへ視線を移したりと落ち着かない。
それからしばらくすると部室のドアが開いた。真田君は……と彼の姿を探すと、幸村君と柳君の後に真田君が出てくるのが分かった。向こうもこちらに気が付いて手を振ったのだけど、

「え、なに…?」

にこにこと笑っている幸村君と表情が読めない柳君までこっちに来た。真田君も冷やかされるのは嫌だろうとあえて少し離れたところで待っていたのに一体どういうことだろう。

「ねぇミョウジさん」
「なぁに?幸村君。それに柳君まで……」
「真田のことよろしくね」
「う、うんそれはもちろん」
「五感奪っても良かったけど、それはさすがに可哀想でしょ?」
「…何の話してるの?」

話が見えてこず首を傾げた。見かねたのか柳君が口を挟んでくれた。

「弦一郎から相談を受けた」
「相談?」
「…む、睦事の際に自分の力が強すぎてミョウジを傷つけてしまうと」
「ああ、その話ね」

柳君が言いづらそうに言った。顔が赤くなっている、可哀想に、隣の幸村君は腹を抱えて笑っている。幸村君、柳君に言わせるためにあえて要領を得ない言い方をしたな…?幸村君を責めるつもりでじとりと見つめていると、幸村君はひいひい呼吸を整えながら「ごめんごめん」と謝った。

「真田君、幸村君に相談したのは失策だと思う」
「俺は蓮二だけに相談したのだが……聞かれてしまった」
「いやいやミョウジさんも悪いって。あの蓮二がこれだけ恥じらってるのにミョウジさんまったく動じないんだから」
「それで相談の件だが、ミョウジ」

柳君はいつも通りの表情に戻っていた。幸村君より柳君の方が可愛げがあるね。

「そうだね。何かいい案ある?結構困ってるんだ」
「弦一郎の感情が高ぶるとミョウジの手や腕を握りつぶしそうになると聞いたが相違ないか」
「そうそう。真田君握力すごいよね」
「弦一郎の奥義はあの握力がないと成立しないからな。…ミョウジとのことは弦一郎が自制できない以上、まずは弦一郎からミョウジに触れないようにすれば良いのではないか?」
「!」

目から鱗とはまさにこのことでは。

「柳君すごいね。考えたこともなかったよ」
「でもねミョウジさん、真田は君に触れられないのは嫌みたいだけど?」

そう幸村君が言った通り、隣にいる真田君はどこか不服そうだ。ただ、何も言わないところも見ると不服さを飲み込んで何とか納得してくれているみたい。私的には柳君の発案は良いと思う。

「じゃあ私が真田君の分までたくさん触ってあげるね?」
「「「!!!」」」
「わあっ!?」

3人が同時に目を見開いたため、思わず悲鳴を上げてしまった。

「何でそんな顔するの……?」
「ミョウジさんそれって天然かい?」
「弦一郎、ミョウジはこう言っているが……弦一郎?」
「あ、ああ……ナマエ、そろそろ行くぞ」
「え?うん分かった。幸村君、柳君。色々相談乗ってくれてありがとう、また明日」

真田君に手を引かれつつ、空いた方の手で2人に別れを告げた。やっぱり幸村君はにこにこ笑いながら手を振ってくれていて、柳君の面持ちは分かりづらいながらも笑っていたような気がした。



「真田君、真田君」
「ナマエ……」
「急に帰ろうってどうしたの?」
「お前が……」
「お前が?」
「可愛すぎるのだ……」

ぎゅう、と握られている手のひらが痛くなってきた。あ、そうだ。

「……真田君、手離してくれる?」
「…ナマエ!」
「うん、だから。手を繋ぐんじゃなくて、こうすれば良いでしょ?」

真田君が嫌だったとしても、とりあえず当面は柳君の案を採用してみたい。手を握り合うのはだめだから、私は真田君の腕に抱き着いた。

「ああ!そうだな」
「手を繋ぐのも良いけど、たまにはこういうのも良いね。真田君にたくさんくっ付けるし!」
「……」
「あ、照れてる」

やっぱり真田君って可愛いな。

200601 / →A
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