女王の髪飾り



 艶やかな髪にきめ細かな肌。少しだって汚れを知らない彼女の滑らかな体に触れる権利があるのは、私たち、レディー・アルビダ様親衛隊のみだ。

 アルビダ様の身の回りのお世話。それが私たちに課せられた仕事だ。朝、彼女を起こすことから始まり、お休みになられるまでの身の回りの世話。本来だったら私のような下っ端も下っ端な者が彼女と直接話すことなんてありえないのだけど、彼女から直々に選ばれた私たちは部屋に入ることすら許されている。
 背が高く美しい美貌をお持ちになったアルビダ様は私たち全員の憧れだ。

 とある日の早朝、私はいつものように彼女の部屋へと出向き、身の回りの世話をした。
 少し眠そうなアルビダ様は、ふかふかの椅子に腰かけて、私にされるがままに髪を梳かされている。
 彼女の髪に櫛を入れる度、えも言えぬ幸福感に満たされる。愛する者が無防備に、触れられることを許しているという事実。私が彼女の生活の一部であるという感覚。全部がまぜこぜになって、優越感にも似た幸せが私の中で膨らむのを感じた。
「あんた、髪梳かすの上手だね。やっぱりあたしの目に狂いは無かったよ」
 アルビダ様は上機嫌そうにそう言った。
「ありがとうございます」
「うちの船員の中で、あたしの次に髪が綺麗だと思ってたんだ」
 まるで、自分のものを自慢するように、彼女はそう言った。
 彼女が自分で選んだアルビダ親衛隊は、美しい彼女の一部なのだから、彼女のように堂々と過ごさなければならない。と言ったのは親衛隊の隊長だったか。
 私は、自分自身がまるでその言葉を理解していなかったことを思い知った。
 どうか、今振り向かないで欲しい。平静を保ちながら髪を梳かす私の手とは裏腹に、私の顔は今真っ赤になっている。
 彼女のようになるには、まだ程遠い。


女王の髪飾り//2020.9.28

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