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キラリ、鎖骨のあたりで光る輪を最後に鏡で確認して、急いで家を出た。黒塗りのセダンの助手席に乗り込むと、先に運転席に乗っていた彼がエンジンをかけて、車を走らせる。

「ねえ、今日はどこに行くの?」

「着いてからのお楽しみだ」

“二人で行きたいところがあるから予定を空けておけ”、そう言われた通りにしたけれど、結局行き先は教えてくれない。まあきっと今日は日が日だから、ちょっと特別なデートとかそんなところだろうか。ハンドルを切っている彼の横顔を盗み見る。

真直ぐにすくすくと育ったら彼は一体どんな人物になるのだろう、そう密かに期待していた私は見事に裏切られた。
ちょっと離れていた間に、遅れてきた厨二病を盛大に拗らせた彼は、まあなんだかんだ紆余曲折あって、ご覧の通りの、昔と大差ない感じのキャラに落ち着いてしまった。……時の流れって、偉大だね。

「何を笑っている」

「ん、別に」

信号待ちの間、にやにやしていたのがバレる。ふと私の方に目を向けた彼が、一瞬首元に視線を注いだので、いよいよ私のにやにやも最高潮になった。

「お前、それ」

「ふふ、オビト覚えてる?もうこれ、十年以上前なんだよ」

私の首元で輝く、シンプルな銀色のリング。もらった日からずっと大事にしていたけれど、彼が恥ずかしがるから、あまり身につけなくなって久しい。でもたまに今日みたいに、元の指輪としてではなく、こうしてネックレスにして身につけていた。

「…忘れたくても、忘れられないさ」

確かにそうだろう、あの日、顔を赤くしたり青くしたり、忙しかったオビトを思い出し笑ってしまう。

「ほんと私たち、カカシには頭が上がらないね」


十年以上も前の今日、ある日のホワイトデー。
私たち二人を巡り合わせたラブレター(仮)の差出人は、カカシその人だった。

私が告白してからというもの落ち着きのないオビトにしょっちゅう絡まれ、いい加減私たちの関係が鬱陶しかったカカシは、ひと肌脱いで、発破をかけてくれたというのが、事の真相だった。

そもそもオビトの方は“お前宛だ”とカカシから直接あの手紙を渡されており、私と鉢合わせた時点でそのことを悟ったらしいのだが、後の祭り。終わってみれば、全てカカシの思惑通りに決着がついてしまったわけである。


それだけに収まらず、結局そのホワイトデー当日にバレンタインのお返しを用意していなかったというオビトが、翌週の月曜日に私によこした何の変哲もないクッキーの包みから、銀色のリングが出てきたものだからさあ大変。

これから付き合うかどうかという初々しい二人が、恐らくそれなりに手頃なお値段のものとは言えいきなりシルバーリングかあ、とちょっと驚いていたら、それを渡したはずのオビトの方がもっと驚いた顔をして目を見開いていたから、何も言えなかった。

『あんのバカカシ…!』なんて、拳を握って肩を怒らせていたオビトに、私はなんとなく察した。後日予想通り、あのお返しはオビトがカカシに頼み込んで一緒に選んでもらったものだとわかって、カカシも中々やるなあと、他人事のように思ったものだ。



今日というホワイトデーの日に、それを思い出さずにはいられなくて、このリングを久しぶりに身に着けてみたのだ。けれど思ったより、オビトからの反応は芳しくない。

「……それはもう、外してとっておけ」

なんで、と私が言うより先に、オビトが車を止める。
するとこちらに手が伸びてきて、首元のリングを男らしく長い指先がなぞった。
気が付けばもう目的地に着いたのか、車はどこかの駐車場の片隅に収まっていた。


「今日は、新しいのを買ってやる」

「名無子」と、名前を呼びながら。不意に、運転席から身を乗り出して、私の襟元に手をやっている彼の姿に、既視感を覚える。けれど、重なったあのときとは正反対に、今、私の中は喜びに満ち溢れていた。

「……それってつまり、」

「これからも傍にいてほしい、そういうことだ」

「一生な」、ぶっきらぼうな口調で続けた彼に、ふふ、と自然に笑みが溢れる。


「あんたなんかについていけるのは、私くらいのものよ」


あんたは馬鹿だからね。
私が死ぬほど想っていたって、わざわざ生まれ変わってまで、面と向かってチョコ差し出して、丁寧に真心込めて好きだって言ってやらなきゃ、ずっとずっと寄せていた好意にだって、ちっとも気付きやしないんだから。

でも確かに、あなたには好いた人がいると、自分は報われないのだと、ずっと決めつけて、勝手に悲観的になって、最初から思いを伝えようとすらしてこなかった、努力さえしてこなかった、そんなもっと大馬鹿者がいるの。

そんな馬鹿はやっと治ったけど、あなたを追いかけ続ける馬鹿は、死んでも治らなかったから。
“一生”どころか、多分きっと、次巡り会うとき、あなたがまた別の人を思っていたって、私は。


生まれ変わってもまた
何度でもあなたを愛する



END

(2015/03/13)



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