※教授×生徒


「部屋とワイシャツとわたしぃ〜♪愛するあなたのためぇ〜♪まいにち〜♪みがいてぇ〜いたいからぁ〜♪」

静寂しかない地下室のある部屋で、似つかわしくない歌を歌いながら、ハタキを手に、掃除をしている生徒がいた。
スネイプは完全無視を決め込んでいたものの、その歌の歌詞に我慢できず突っ込む。

「なんだその歌は」

「新婚さんの歌ですよぅ」

生徒はスネイプの言葉に満面の笑みを浮かべながら振り返る。すると、可愛らしいフリルのエプロンが動きに合わせて揺れる。
罰則として部屋の掃除をさせたスネイプは、激しく後悔していた。
大抵の生徒であるならば、今まではこの罰則を言い渡そうものなら、嫌そうに、やりたくなさそうにやっていたからである。
スネイプの部屋にはおどろおどろしい動物や植物の干物がぶら下がっていたし、ガラス瓶に詰め込まれている薬品からは、得体の知れないものが見えている。おまけに、この寒さだ。魔法を使うことを禁じる罰則なので、冷たい水を浸かって、拭き掃除もしなければならない。

当たり前だ。悪い事をした罰なのだから、反省させるためにさせているのだ。
断じて、陽気な歌を口ずさみながら、楽しそうに行うものではないはずなのだ。

なのにこの生徒は、スネイプが罰則を言いわたした際に目を輝かせ、その内容を告げた際には飛び上がって喜んでいたのである。
周囲の生徒は、おかしな者を見るような目でこの生徒のことを見ていたが、それはスネイプも同じ気持ちだった。
どうみても、喜んでいるようにしか見えない。スネイプは眉を顰める。
完全にスネイプの予想の範疇を超えていた。一体、どういうことなのだ? 羽ペンが動揺で震える。羊皮紙にインクの染みがついていることにも気がつかないスネイプは、生徒に注意を向けた。すると――、


「浮気はゆるさないぃ〜♪ クル〜シオで一撃〜♪ あなたが〜♪跪く〜日までぇ〜♪」

そんな物騒な妻がいるか馬鹿者。
スネイプの羽根ペンが、握力の力で折れる。

「…罰則はもういい」

深いため息の後、スネイプは呟いた。
その言葉を聞いた生徒は、眉をハの字に下げながらスネイプを見つめる。

「もう寮に帰れ」

「えー。続きがあるんですよ?2番にいくとね、なんと奥様は旦那様に――」
「いいから帰れ馬鹿者!」

生徒の言葉を遮ると、スネイプは杖を振った。
生徒を、魔法の力で強制的にドアまで追いやる。自分で罰則に呼びつけておいて、ひどい扱いである。
しかし、生徒は抗議の声を上げなかった。あろうことかスネイプに向かってこう言ったのだ。


「ダーリンまたね〜♪」

バタン、とドアが閉まる。
生徒を追い出したドアを茫然と見つめながら、スネイプは呟いた。

「だ、だーりん?」



(スネイプ先生かっこよかったな。今度は罰則じゃなくて、質問をしがてら、あの歌の2番を歌ってあげようっと♪)
(なんなのだ…急な悪寒戦慄が…?)

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