単発短編 | ナノ


▽ 花占い


*76543Hit御礼:朱里様リク






だいすき…だいきらい…だいすき…だいきらい……。


「やっぱり…だいすき…」




放課後湖のほとりで、私は花を片手に恋占い。
やっぱり、何度占っても答えは同じ。だいすき、で花びらがなくなってしまう。
こんな占い、花びらの数で決まるって事は解ってる。解っているけど、何度も占ってしまって、止められない。

だって、私はあなたの事が大好きなんだもの…。




その気持ちに初めて気がついたのは、魔法薬学の授業でだった。
先生が、スリザリンの生徒と私をペアにしたのだ。いつもなら私は、親友のキャサリンと一緒なのだけれど、彼女は今風邪をこじらせてお休み中だった。
なのであぶれた者同士を、先生はペアにしたのだ。


彼はスリザリン。グリフィンドールの私と組むなんて嫌だろうな……。彼の綺麗な黒髪をぼんやりと眺めながら、そう思った。
彼は私と組む時、特に拒否もせず、淡々と調合をしていった。
彼の手さばきはとても慣れていて、生徒というよりは教師のそれと同じだった。私は気後れしてしまう。
足を引っ張るかもしれないけれど、仕方ない。薬草を刻む事にしよう……。私がそう考えてナイフを持って薬草を刻もうとした時。
そっと、けれど意外に力強い手が私を遮ってきた。邪魔ってことなんだろうか?

じっと彼を見つめる私に、言ってきた言葉。


「それは僕がやる。そのままじゃ…カンザキの手が荒れてしまう……」


彼はそう言って私の手からナイフを奪うと、丁寧に薬草を刻みだす。
私はぽかーんとしてしまった。
だって今のって……私を気遣ってくれた?女の子扱いしたってこと…だよね?
胸がほんわかとして嬉しくてたまらない。彼って実は―――。

「……どうした?手が止まっているぞ。鍋の具合を確認してくれ。僕は今手が離せない」

黒曜石のような瞳が、私をじっと見つめてくる。
胸がトクン、と音を立てた。頬に熱が集中するのを感じる。
私は彼を見つめ、そうして言った。

「う、うん…ごめんね、ありがとう…スネイプ君…」




一度気になりだすと、止まらない。

それからの私は、目に磁石が付いたんじゃないかってくらい、気が付くとスネイプ君ばかりを目で追っている。
朝起きてから夜眠るまで、考えるのは彼のことばかり。
いつも常に、熱に浮かされたような状態になっている私を、退院してきたキャサリンが不思議そうな顔で見ていた。


彼ってとっても紳士なんだわ…。さりげなく優しいし。
読んでいる本は魔法薬学ばかりだけど、他の教科の成績も良いみたい。
うちの寮のいたずら4人組みからは、いっつもちょっかいをかけられてるけど、我関せずって感じだし。
好き嫌いが激しいのね、よく食事を残しているみたい。だからあんなに痩せていて、顔色も良くないのね。
好きな人は……いないみたい。噂とかは特にないようだけれど……幼馴染らしいリリー・エバンズとはよくお話をしているみたい。
彼女と話している時、柔らかく微笑むスネイプ君は…いつもよりもっと素敵。


これって完全にストーカーよね。けれど止められないの、自分では…。
これは明らかに…間違いなく、“恋”よね。


確かに素敵な人だけれど、どうしてよりによって“彼”なんだろう。私は一人頭を抱えた。
だって彼はスリザリン。私の寮とは長年敵対関係にある。そんな状態で、私を好きになってくれるはずがない。
しかも幼馴染のリリーとは…なんだか怪しい雰囲気だし。
ジェームズ・ポッターがリリーにアタックしているみたいだけれど、リリーはいつも足蹴にしているし。どちかっていうとスネイプ君との関係の方が…なんだか怪しいような、気がするんだけれど…。

私の恋は前途多難みたい。

「この花占いは、きっと大ハズレね……」


花びらにまみれながら、私は切ない溜め息をつく。
誰にも言えないこの気持ち。切なくて辛い…。私はぼんやりと湖を見つめた。
ここは誰も来ない私の秘密の場所。ここで切なくスネイプ君のことを想ったり、読書をしたり…少し転寝したりして過ごしている。
ここから見える景色は、とても綺麗だから……。

そんなことを考えていたら、足音が聞こえてきた。どんどん近づいてきて、そして―――。

「ス、スネイプ君…?」

「……カンザキ、お前か……一体何をしていた」

スネイプ君は本を片手に持っていた。ひょっとしてここで読書なんてしようと思っていたのかも。私は慌てて膝に散らばっている花びらを手で地面に払いながら言った。

「えへへ……実は、花占い…なんてね……」

するとスネイプ君は目を見開いてきた。

「好きな奴でもいるのか?」

どき。本人にそんなことを言われるとどう答えたら良いかわかんないよ。ああ、胸がドキドキしてきた。

「いる…けど……。その人は別の人が好きみたい……」

すると何故かスネイプ君は眉を顰めてきた。そんな表情も格好良いな…。

「別な奴が好きだなんて、何故わかる?」

「何故って……いっつも楽しそうに話してるし。その人と話している時は、普段見られないような顔をするんだもん…」

「腐れ縁みたいなものだ…きっと何とも思ってない…」

「私には……笑いかけてくれないもん…」

「照れているんだ…おそらくな。きっとそいつは、凄く照れ屋なんだ…」

「それにしたって……もうちょっと、私に振り向いてくれてもいいなって、思っちゃう…」

「………お前は馬鹿か?」

スネイプ君は何故か呆れた声を出してきた。どうして?馬鹿って酷い!
私がムッとした顔をしてスネイプ君を見ると、彼は何故か少し頬を染めて…目線を私から逸らしているみたい。そうしてぼそっとこう言った。


「僕は知ってるぞ、いつも、僕のことを見つめている子のこと。初めは、からかわれているのかと思った。奴らのように、いたずらをするつもりなのかと…。
だがその子の視線は…とても優しくて……。僕を心地良い気分にさせたんだ。だから僕も…その子のことが気になって…見てた。僕だってずっと見てた。
ここでこうやって……花びらをちぎり、占いをしていたことも。本を読んだり、転寝をしていたことも…」

え…?それって…それってつまり―――

「え?え??そ、それってもしかしてもしかしなくても―――」

驚きのあまりぽかんとした顔をしていたかもしれない、私。そんな私を見てスネイプ君は一言。

「その花占いは……アタリだ、レイ」





あわあわとする私を見て、スネイプ君は呆れ顔。だって、驚くでしょ?普通はさ。

「それってつまり……スネイプ君は私のことを……」

「セブルス、だレイ……」

「わわわ……あ…の……セ…セブルス…君は……」

「セブルス、でいい、レイ…」

「…………セブルス……は…」

「なんだ?」

「あ……私のことが…好きな…の……?」

どきどきの瞬間。私の心臓、破裂しそうです……。
息詰まる数秒の後、スネイプ君はニヤリと笑ってきた。そうしてそっと囁く。

「僕は同じ事は二度と言わない。どうしても知りたいか…?」

私は立ち上がった。そうしてスネイプ君へ近づく。だって声が小さくて、よく聞き取れないんだもの。

「知りたい!……ねぇ、教えて、スネイプく―――?!」

私の言葉は遮られた。スネイプ君の唇で。
冷たい唇の感触を感じたとたん、私の顔はボンッと音を立てるんじゃないかってくらい真っ赤になった。

?!?!?!?!

口をパクパクさせる私を楽しそうに見て、スネイプ君は言った。

「僕のことをそう呼んだら、その唇、またこうやって塞ぐぞ。フン、覚悟しろよ?僕はスリザリン……僕に気に入られたら最後、死ぬまで離さないからな」

そう言ってスネイプ君は、私を抱きしめてきたのだった。




花占いって…当たるかもしれない…。
スネイプ君に抱きしめられながら、私は身をもってそれを実感したのでした。

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