単発短編 | ナノ


▽ 気付いたら駄目






陰険薬学教授が大好きと公言するグリフィンドール生、レイ・カンザキ。

両親が日本人である彼女は、黒髪に黒目、オリエンタルな顔立ちと容姿に恵まれており、入学当初から噂になっていた。

ああ、それなのに―――。



「スネイプ先生今日もカッコイイですねッ」


「Ms,カンザキ…席に着きたまえ」


「だぁって…こんなに素敵なんだもん、側で見たいじゃないですか…」


「食事風景がそんなに素敵か?」


「やだぁ、スネイプ先生が、に決まってます!」


瞳をきらめかせ、頬をピンクに染めたレイは非常に愛らしい。そう、見た目は。
しかし言っている台詞は凄まじい。相手はあのスネイプである。レイの台詞にスネイプは飲んでいたゴブレットの中身を吐きだした。


「ゴフッ……きょ、教師をからかうのは止めろ!」


「からかってないのに…」


からかってないって……お前、正気か。



スネイプを含め、大広間で食事をしていた教師と生徒全員の心が一つになった瞬間だった。


そんな皆の心を知ってか知らずか、レイは瞳を潤ませると、とびっきりの笑顔をスネイプに向ける。それが、どれほどの破壊力を持つのか知らないままに。



「あぁ…残念だけど、私も食事をしてこなくちゃ。スネイプ先生、サラダもちゃんと食べて下さいね?」


じゃあ、また後で!


レイはそう言うとスネイプに向かってバイバイをし、席へと戻って行った。岩のように固まったスネイプに気が付かないまま。




「ホッホッホ……セブルスよ、君は変わった食事の取り方をするのじゃなぁ〜」


ダンブルドアの楽しそうな声に、スネイプは我に返った。レイが、スネイプに向けた笑顔のショックからやっと立ち直ったのを見て、ダンブルドアは髭を揺らしながら笑っていた。


「校長、どういう意味ですか」


訝しげなスネイプに、ダンブルドアは指で示してきた―――スネイプの胸元を。
そこは、見事なまでにスープがこぼされていたのである。スネイプは動揺のあまり、スープを盛大にこぼしていた。しかもそれに気が付いていなかった。

自分の胸元を見て目を見開いたスネイプは、懐から杖を取り出すと呪文を唱えた。一瞬で汚れを取ったスネイプは、乱れる心を落ち着かせる。


「……我輩だとて粗相をすることはあります」


「最近多いようじゃの。さて、それは何故かのぉ〜?」


のほほんとした顔でスープを頬張るダンブルドアに、スネイプは言った。


「気のせいです」


「そうかのぉ、ワシの気のせいじゃったか…」


「どうやら、そのようですな」


「そうか……ときに、セブルス」


「なんでしょう」


ダンブルドアの瞳がキラキラと輝きだした。まるで、いたずらを見つけた子供のような顔だ。スネイプは嫌な予感がした。校長がこんな顔をする時は、ロクなことがない……。


「レイは可愛いのぉ」


「人並みでしょう」


「笑顔がなんともキュートじゃ」


「まぁ……それなりには」


「どうやら最近、レイ告白した生徒がおるようじゃぞ?」


「!……思春期です、色恋沙汰など珍しくもないでしょう」



スネイプは気が付いていない。眉間のシワが増していることに。
ダンブルドアは楽しそうな笑い声を上げると、遥か彼方に目線を移す。つられたスネイプの視線が見たもの、それは、



「ウィーズリーの双子が、どうかしましたか?なにか、問題でも…?」


スネイプの言葉に、ダンブルドアは答えた。楽しくて仕方ない、とでも言うように。


「どうやら、あの双子がレイに告白したようじゃぞ?レイもモテモテじゃのぉ〜」


「………………」


双子に絡まれながらも楽しそうに食事をするレイを見ながら、スネイプは無言だった。その眉が大きく顰められている。



(本当に、楽しみになってきたのぉ)


ダンブルドアは髭を揺らして笑うと、ゴブレットに口を付けた。





*****



別に良いではないか、我輩の知ったことではない。

カンザキが誰から告白されようがなんだろうが…我輩には一切関わり合いの無いことだ。


そう思いながら、スネイプは先ほどから何度も自室の中を行ったり来たりと歩き回っている。
自分が密かに動揺していることには、一切気がついていない。


「大体、我輩の下着をこっそり盗むような変態だぞ?双子も趣味が悪い…」


口ではそう言いながら、顔は不機嫌で……指先はトントンと不随意な運動を繰り返していた。


「口を開けば我輩への好意か求愛の言葉しか言わぬ奴だ。あやつは頭がオカシイのだ…」


一人、自室で呟く。


「そんな奴が双子を好きになるはずがない……そうだそのはずがない…からだいじょう…ぶ……だ……?」




今、我輩は何と言った?


何か……有り得ない言葉を言ってしまったような気がする。激しくそう感じる。
そこまで考えるとスネイプは強制的にその考えを止めた。


「仕事そうだ仕事だ仕事をせねば…ッ」



誰に言ってるんだという言い訳をすると、スネイプは専門書を取り出した。赤くなった耳には、一切気が付かないスネイプだった。


(ニガヨモギの煎じ方については諸説あり―――)


(H24,06,08)


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