私をぎゅっと抱きしめながら、彼は甘く囁いてきた。
「気がつかないとでも思ったのかい?君が最近、悩んでいたのは知ってる」
「…ホント?」
「私を甘くみてもらっては困る。君のことなら、何でも知ってるし…解りたいんだ……」
「アラン…」
そんな甘い声で囁かないで……キスを何度もされて、上がっていた息がやっと整ったのに。また切なく疼くじゃない…。
「私は最近、不安だったんだ…。君が悩んでいたのは知っていたけど、その悩みを聞くのが怖かった…」
「アランが…怖かったの?」
「そう、怖かったんだ…。だって、私が受け入れられない悩みだったらと思うとね」
「アランが、受け入れられない悩み?」
「うん、そう…。アイネ、笑わないと、約束できるかい?」
なんだかアランが恥ずかしそう。私は頷いた。
「笑わないわ」
「う…ん……あのね、私は、君の悩みって、故郷に帰りたいんじゃないかって思ってたんだ」
「日本に?」
アランの意外すぎる台詞に、驚いてしまう。だってそんなことアランが考えていたなんて…!
「そう、日本に。ご両親に会いたいのかなぁって…思って…」
やだ、アランったらそんな深読みして!私は可笑しくて思わず笑ってしまった。
「あ…笑ったな〜」
「ご、ごめんなさい。だって、有り得ないから」
今度はアランが驚いた顔をしてる。私は微笑むと、アランの頬にチュッとキスを一つ。
「だって私の故郷はもう此処しかないもの。アランと一緒に居る場所……それが私の故郷だから…」
「アイネ……」
私は可笑しくてたまらない。だって私達、随分と時間を無駄にしたもの。
「私達、随分と時間を無駄にしたわね?アラン」
「そうだね、酷く無駄にしてしまった…」
私は甘い声で囁いた。
「チョコレートフォンデュ、食べましょ?私が旦那様に、食べさせてあげるから……」
アランの唇を人差し指でなぞりながら、私は妖しく微笑む。
「だから、全部食べて頂戴ね?きっと蕩けるくらいに美味しいから……」
アランも妖しく笑うと、私を引き寄せてくる。
「では頂こうか。蕩けるのは、チョコだけじゃないかもしれないな」
「そうね。フルーツも沢山買ってきたし……明日まで時間はたっぷりあるし…」
「フフ……楽しみだよ……」
アランはそう言うと、私にもう一度熱いキスをしてきたのだった。
次の日、朗読会に時間ギリギリに着いたアランが、エージェントに大目玉を食らうのはまた別のお話……。
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