短編 | ナノ


▼ 人を呪わば穴二つ



ついに、ついにこの日がやってきた。
この日のために計画を練り、周到に準備をしてきた。協力者も得た。
あとはこの復讐が成功するよう、私は細心の注意を払って行動するのみ。
そう、今日は待ちに待った日。
私の可愛いハーマイオニーをあんなに泣かせた奴、ロン・ウィーズリーに復讐をする記念すべき日なのである!



その日は私の復讐を歓迎するかのように晴れ渡った良い天気だった。私はニンマリとしてしまった。う〜んいい天気!復讐日和(?)だね!
いつものように朝食を食べにハリー、ロン、ハーマイオニーがやって来た。

「おはよう!皆」

にっこりと笑顔で挨拶をする。ハリーが、

「どうしたのさ?朝から元気だね?」

と言ってきた。ええ、そりゃあね?これから楽しいことが待ってますので。ロンよ、覚悟したまえ。
ロンがコップにジュースを注いでいる。よし、今だ!

「あれ?あそこにあるのは新しいニンバスシリーズの本じゃないか?」

横を指差して大きな声を出す。ロンは驚いて、

「なに?ニンバスに新しいシリーズが出たの?どこ?どこさ?」

と言い探しに言った。皆もそちらに注目している。私はポケットから例の物を取り出すと、ロンのジュースに入れた。よし、準備完了。

「あれ〜?それってば去年のやつかなぁ」

私がロンの興奮を地に落とす発言をすると、ロンはええ?って顔をして、

「な〜んだ、レイったら酷いよ!僕をからかってるのかい?」

と言ってきた。いいえ、ロン君、からかってるんじゃなくって罠にはめてるんです。

「ごめんごめん見間違えたんだね」

ごめんね〜とにっこり笑顔つきで返事をすると、ロンはもう、という顔をしていたがコップのジュースを飲んでいた。
やった!飲んだよ成功!ふふふ、これから君の身には恐ろしいことが起こるのだ!
私はルンルンでクロワッサンをちぎって食べだした。
ハリーとハーマイオニーはそんな私をみて訝しげな顔をしていたけど。


異変が起こったのは午後を過ぎたあたりからだった。薬の効果が出るまで結構時間かかるんだな。
午後の授業はマクゴナガル教授の変身術だった。皆が教授の講義を聞いている。
めずらしくマクゴナガル教授が生徒を当てた。生き物を無機物へと変化させる際の理論についての話だった。
さらにめずらしいことにロンが当たった。いっつも答えられないのに。たいてい違うことしてるからね、君ってば。

「ええと…よくわかりません」

ロンが立ち上がって答える。マクゴナガル教授ったら、額に青筋立ってるよ。

「たった今話したばかりですよ?あなたはなにを聞いているのです!」

ははは、怒ってるよ。ロンは口を開いた。

「すみません…聞いていませんでした。その理論は『どこに書いてあるのでしょうな。我輩には解りかねる』」

ロンの声だったのが、途中からスネイプ教授の声になってる!やった〜!大成功!しかもこんな狙ったようなタイミングで!グッジョブ、私!
ロンは目をまん丸に見開いて両手で口を押さえた。
教室中水を打ったような沈黙が……。全員が固まってるよ。マクゴナガル教授もだ。
や〜すごいインパクトだもんね!びっくりするでしょう、うんうん解るよ皆の驚く気持ちはさ。
でも、それが狙いさ!
マクゴナガル教授がショックから立ち直った。

「どうしたのです?さっきの声はまるで、まるで…スネイプ教授のようでしたが。いたずらもほどほどになさい!」

ははは!このいたずら薬、クリスマスにもらったフレッドとジョージのいたずらグッズに入ってたのだ。
二人に事情を説明して少し改良してもらったのだけど。

では種明かしをいたしましょう。じゃじゃ〜ん!このいたずら薬の名前は“声を変える薬”。
二人にお願いして大嫌いな人の声になるように改良してもらったのだ!
ふふん!ロンの一番嫌いな人は教授だったのか。ドラコ坊ちゃまかと思ったけど。意外だな。
あの二人は兄弟を罠にはめることになんの罪悪感も抱いていないみたいだった。それはそれで問題ありのような気もしますが。
ロンは必死で否定している。

「『わ、我輩はそのようなことはしておらぬ!マクゴナガル教授、我輩を疑うのかね?我輩がそのようなことをするわけがなかろう!…な、なんなのだこの声は!そしてこの語り口…ええい!いまいましい奴の声と一緒だ!』」

ロンが混乱している。
皆は驚いていたがこのシュールさを理解してくれたらしい。大爆笑となった。もう授業どころではない。
マクゴナガル教授は額に手を当てて溜め息をついていた。
私も皆と一緒に大いに笑ってしまった。

ロン、女の子を泣かせた罪は重いのだ!




その後ロンはすぐにマダムポンプリーの所へ連れて行かれたが、声は元通りにはならなかった。そうなんだよね〜この薬、時間が経たないと元に戻らないようになってるのだ!
マダムは溜め息をついて、

「だめですわ…わたくしのお薬ではこの症状は治せないようです。薬の効果が切れるのを待つしかありませんわ」

と言ってきた。ロンは必死に、

「『我輩にこのままでいろと言うのかね?なんたる屈辱!我輩の我慢にも限度があるのだぞ!…何とかならないのかね…』」

と言っていた。最後は自分の声にぐったりとしていたけど。

マダムはポンと手を打つと、

「そうですわセブルス!あの方なら解毒剤を調合できるかもしれませんわね!」

と恐ろしいことを言ってきた。
はわわわわ、まずいよ!まずいってば!まさか教授の所へ話が行くとは思わなかった。はは、絶対にばれそう。そしてものすんごい怒りそう…。ど、ど〜しよ…。
私は慌てて、

「いやそんな…スネイプ教授のお手を煩わせる必要もないでしょう。時間が経過すれば元に戻るのでしょう?それならばこのままでも…」

なにより面白いし。教授にもばれなくて済むし。そうだよそうしてよ!
ロンも必死でうなづいている。

「『あのような輩の世話になるなど、ごめんこうむる!我輩はこのままで良い!話さなければ良い話なのではないか!』」

ははは、ロンったらものすんごい必死。うん、教授にばれたら…血を見るぜ。
その時だった、医務室に響く恐ろしく冷たい声が聞こえたのは。

「そのような非常に不愉快な状態が続くと思うだけでこの我輩が耐えられん。これはどういうことだね?説明したまえ」

ひ〜え〜教授!何で!何で呼んでいないのにやって来るわけ?どっかから噂を聞きつけてきたのだろう。まずいなぁ。
教授、ものっそい不愉快な顔をしていますが。こ、こわい。火山が爆発する前みたいだ。ううう、どうしよう。ばれるかなぁ。
教授は不本意だ、という顔をしていたがロンに向き合うと事情聴取を始めた。

「そのような不愉快な状態になったのは、何かを飲んだか、食べたかしたからであろう。本日起床してから一体何を食べたのかね?さあ言いたまえ」

と教授が言うと、ロンはためらっていたが、教授の気迫に押されて話し出した。

「『わ、我輩は…起床後にまずカエルチョコレートを2つ食べた。その後大広間で朝食を食べたが、ジュースとバターロール、ベーコンであったと思う…。その後は授業があったゆえ、何も食べておらぬが。ああ、昼食はサンドウィッチと牛乳であった』」

わ〜我輩合戦になってるよ面白いなぁ。

私は思わず噴出してしまった…カエルチョコを教授が食べたみたいに感じてしまって可笑しかったのだ。教授にじろりと睨まれたけど。
だってねえ?カエルチョコって…いや、ツボに入った。
教授は眉間にシワを盛大に寄せて考えていたが、

「可能性として考えられるのは…朝に飲んだジュースの中だ。この手の薬は牛乳とは相性が悪いのでな。もしそうであるとすればあとは…」

「『あとは何なのだね?早く言いたまえ!』」」

ははは、教授が二人いるみたいだ〜可笑しい!でもやば〜い!ばれるのも時間の問題って感じ。

「あとは犯人を捜すだけですな。この中にいるようだが」

と言ってきた。ええ?どうして解るわけ?教授はニヤリと笑うと私の方を見てきた。

「…犯人にも猶予をやろう。本日17時までに我輩の部屋まで来ること。さもなければその時は…」

教授はフッと笑うと、

「薬を調合する。すぐにできるゆえ、しばし待ちたまえ」

と言うと部屋を出て行った。

……………ばれてる。絶対にばれてる!私だって解ってる!何で?どーして?
ロンは皆を見回した。

「『この中に犯人がいるというのかね?誰だ?正直に言いたまえ!』」

と言ってきた。ハリーやハーマイオニーはお互いを見て困惑するばかり…。
おもしろかったけど、やりすぎちゃったなぁ…どうしよう。



その後、ロンを医務室へ残して私達は談話室へ戻った。皆はロンの身に起こった不思議な現象について興奮して話している。
あ〜やっぱり教授の所へいかなきゃ駄目かぁ。もともとはロンが悪いとは言え、やりすぎたような気もするし。
私は教科書を部屋に置きに行くとこっそりと教授の部屋へ向かった。




「……やはりな」

「…ご、ごめんなさい…」

私は教授の部屋のソファーで小さくなっております。
うわーん怖いよう。教授、ものっそい怒っておりますよ。

「何故あのようなことをしたのだ」

教授が睨んでくる。だって…だってさ、

「だって、ハーマイオニーを泣かせたから…ちょっと恥をかかせてやろうと思ったんだもん。やりすぎちゃったけど…」

そう言うと教授はハン、と笑って、

「グレンジャーか…。レイ、お前はそんなにグレンジャーが大事かね?」

と言ってきた。は?何言ってるの教授ってば。

「大事に決まってるじゃないですか!だって彼女は僕の大切な……んんっ!」

友達、と言おうとした時だった。教授は何の前触れもなく突然キスをしてきた。何するのさ!びっくりするでしょうが。

「その後の言葉は聞きたくない…」

教授、声が悲 し げ…?何で?

「どうしてです?ハーマイオニーは僕の大切な…きゃ!な、何するんです?」

教授私話してるんですけど!どこ触ってるんですか!

「セブルス、ちょっと僕の話を聞いてよ?…あっ…んんっ!なに…誤解してるの?大切な友…達だから、…はぁん…泣かせたのが、許せ…なかった、だけだってばぁ」

抵抗しても教授の方が一枚上手だ。教授のエッチ!人が真面目に話ししてるのにい〜!
すると教授の愛撫が突然止んだ。遅いよ教授!

「…友達?」

「そうですよ!ハーマイオニーは僕の大切な友達です!ロンったらあんなに泣かせるんだもん。いつか仕返しをしてやろうと思って…」

教授がはぁーっと脱力している。

「…友達。なるほど友達、だったのか…」

やーっぱり教授ったら誤解したんだ。もう、どこまでいくんだろうこの我輩。

「でもやりすぎちゃいました…。ごめんなさいセブルス…許してください」

私がそう言うと教授はしばらく脱力していたが、不意に私をみるとニヤリと笑った。
あ、これってばやばくない?

「我輩がミスグレンジャーを泣かせたわけではなかろう。なのに何故あんな被害を被らなくてはならないのでしょうな?」

ううう、その通りです。

「どうしたら許してくれるの…?」

言うのも怖いのですが。教授はフフンと笑うと、

「そうですな。我輩は精神的被害を被ったのだ。慰謝料を請求することにしよう。レイ、勿論お前には拒否権はなしですぞ?」

そう言うと教授は私のおでこにキスをし、私は教授の膝に抱き上げられてしまった。
この体勢って非常にやばいような気がしますが…。

「日本では『人を呪わば穴二つ…』と言いますな?よく憶えておきたまえ」

教授は私を後ろから抱きしめると、耳元で妖しく囁いてきたのでした。


結局、いたずらの犯人はわからずじまいということになった。教授がそうしてくれたのだ。その代償は大きかったけどね…。
もう!教授のエッチ!
それにしてもどうしてばれたんだろう?いくら考えても解らないや。



(馬鹿者…大方クリスマスのプレゼントに貰ったという忌々しい双子の品を使ったのであろう。行動がバレバレだぞ:教授)


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