アラン・映画夢 | ナノ

2 許されない恋




人はみな、愛されるために生まれてくる。

そう、この子もそのはず。たとえ騙されて、踏みにじられた後に生まれてきたとしても、私は、君を祝福しよう。




「上手ですね、ブランドン大佐」

マリアの養い親である友人、エイモスが意外だ、という声でそう言ってくる。私は苦笑すると返事をした。

「マリアを育てたからね。途中まで、だが…」

「そうでした…。大佐、あの子は今……」

エイモスの顔が、声が暗い。スヤスヤと眠る赤子をメイドに預けると、私はエイモスに向き直る。
メイドが部屋を出て行くと、私は溜め息をついた。

「泣いてばかりいるのだろう。かわいそうに…」

「見ていられません。私達が付いていながら、こんなことになって…本当に申し訳ない……」

エイモスの疲れた顔を見て、私は苦笑する。

「お世話になっているのは私の方だ、エイモス。私こそ、君にまかせっきりにしていたのだ。すまなかった。今回のことは、私にも責任がある…」

「そんなことは―――」

恐縮するエイモスに、私は首を振る。いくら友人とはいえ、頼りきりすぎだったのだ。エイモス達のせいではない。彼らの子供と一緒に、ごく普通の幸せな家庭で暮らした方が、マリアのためだと思ったのだが、それは間違いだったのだ。

いや、それは建前だ。そろそろ自分に正直にならなければならないだろう。




マリアには、生まれたばかりなのに、既にエマの面影があった。


私はそれを見ているのが嬉しい反面、辛かった。
マリアにエマの面影を見るたび、私の胸は苦しくなる。エマのその死の瞬間を思い出し、そしてもう二度と、彼女に逢えないのだということを、思い知らされる。


だから、私は逃げた。
あのままマリアと一緒に暮らしていたら、私はおそらく、狂ってしまっていたに違いない。
今となっては、言い訳にすぎないが………。




もう、逃げることはできない。いや、もうしない。
エマ、君に託された子だ。私はあの子を、幸せにしてやりたい。いや、親として、幸せにしてあげなければ。今更だが…。


あんな男に引っかかるとは、マリアは寂しかったのだろう。それもこれも全て、私のせいだ。

あの男は、ちゃっかりマリアンヌをものにした。彼女のことが心配だが、なに、彼女にはしっかりした姉がついている。エリノアがいれば大丈夫だろう。
あの男は軽蔑に値する人物だ。私としては、いつか、しかるべき報復をするつもりでいる。
私の愛しい子を不幸にしたのだ。絶対に許さない……。




私は扉の前に立ち、緊張しながら、ノックをした。
すると中から返事はなかった。かわりに聞こえてくるのは、すすり泣くような泣き声……。
私の胸は、悲しみで震えた。いてもたってもいられず、扉を開ける。

するとそこにいたのは――――、




ベットに横たわり、すすり泣いているマリアだった。


「マリア………」

「み、見ないで……」

泣きながら、私から顔を背けるマリア。
ズキンと痛みが胸を駆け抜けた。



しばらくぶりで逢うマリアは、さらに美しくなっていた。



泣きはらして真っ赤に腫れた、大きな菫色の瞳。
卵型の顔。
流れるような、ブロンドの髪。
華奢な体つき。




その姿は、恐ろしいほど、母親のエマに瓜二つだった。




こんな苦しみが、あっていいのか………?
そして、こんなときめきが、あっていいのか………?




捨てられ、そして身ごもり、望まない子を産んだばかりの、不幸な、可哀想な我が子に対して、こんな感情を持ってはいけない。
第一、 この感情はマリアに対して失礼だ。



マリアに対して、エマへ向けるような、愛情を感じるなど…。




私はぎゅっと手を握る。こんな感情は、捨てなくては。
私は、泣きじゃくるマリアを、優しく引き寄せることもできない。その涙をぬぐい、抱きしめ、大丈夫だと囁けば……そうしてしまえば、私はきっと――――。




マリアを二度と、手放せなくなる。





マリアを避けていた本当の理由が、今、明らかになるとは。


そう、私は恋をしているのだ。マリアンヌに対する感情よりももっと大きく、深く、激しい感情を。

私は一体、どうしたらいいのだろう………。




(H23,6,8修正)
(H24,1,7移転)

prev / next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -