※微裏表現・暴力表現あり。苦手な方は回避してください!
あんなことをされるなんて…!
私の胸のときめきは、治まりそうもない。
だって、今まで素敵だなぁって思っていた人に、攫われ、囚われ、挙句の果てに……む、胸を愛撫とか…っ
あの時は怖さよりも、快感が勝ってしまった。私、本当にオカシイかもしれない。
誘拐犯に、こんな感情を抱いてはいけないのよ、ヨウコ!
そう、この人は犯罪者なんだ。
今だって、私の手を拘束したままだし。服なんてはだけちゃって滅茶苦茶。ストッキングなんて、電線しまくって網タイツかって感じになってるんだから。
そうよ、この状況に流されちゃ駄目。
さっきまで、意地でも言うものかって思ってたのに、簡単に白状してしまったし。
パンツに手をかけられちゃった時、このままヤられちゃうって思ったら、怖くなってしまってつい本当のことを言ってしまったけど……信じてくれるのかしら?私の説明を。
ベッドに導かれ、二人して座った。
男の瞳からは何も伺う事はできそうもなかった。大きな、ヘーゼルの瞳。さっきまでは私を鋭く見ていたけど今は少し視線が柔らかいような気がした。気のせいかもだけど。
私って人を見る目がないみたい。だから今、こんな目に遭ってるんだわ……。
「さて、ヨウコ…詳しく話を聞こうか」
じっと私を見つめてくる男のその視線に、私の心臓はまたバクバクしだした。だってすごく距離が近いんだもの。
何故か片手は私のウエストに廻されているし。逃がさないため…?
「話って…」
「管理人の話だ。もう一度、初めから……」
えっと、あの話をもう一度すればいいの?さっき話した事が全部なんだけれど。
男の瞳があまりに真剣で、私は気圧されてしまいそうになりながらも話し出した。
「えっと……管理人さんは、何でかわからないけれど私の気持ちに気づいてて。それで、贈り物を贈ってみたらって言われたから贈ったんです…」
「確認するが、その贈り物を私のアパートメントの玄関の前に置いたのは本当に君じゃないんだな?」
なんでそんなこと聞くのかしら。私は頷いた。
「だって……私には貴方が何号室に住んでいるかまでは知らなかったの。彼にそう言ったら、“じゃあ私が届けてあげる”っていうからお願いしました。私、恥ずかしかったから丁度良かった、って思ったからよく憶えています…」
男は何かを考え込んでいるようだった。しばらくすると、彼はまた聞いてきた。
「君は……私の名前を知っていたね。本当に彼から聞いたのか?」
私は男のその言葉に頷いた。
「ええ、そうです。彼からフルネームを聞きました……それが、どうかしたんですか?」
私の言葉に男は平然と言ってきた。信じられない台詞を。
「私の名前は、ごく一部の者しか知らない。管理人が知っているのは明らかにおかしいのだ。あのアパートメントを借りた時は、別の名義で借りたのだ。それに……」
「そ、それに…?」
「あの贈り物には、君の指紋しか検出されなかった。これがどういうことか解るか…?」
!それって…。
「管理人さんが、指紋を拭き取った……?」
「もしくは最初から手袋をはめて指紋が付かないようにしていたか…のどちらかだろう」
「…………と、いうことは……」
「君の言葉を信じるのなら、君は……管理人に嵌められたことになるな」
!!
私がこの状況に陥っているのは、管理人さんのせいなわけ?!
どうして?なんのために……?
私はきっと、訳が分からない、という顔をしていただろう。
「何故…?どうして……?」
男は肩を竦めた。
「私には敵が多い。君はいわゆる恰好のカモだったんだろう。君なら、私も油断するだろうと奴は踏んだのだろうが……甘いな…」
「そんなっ!私がここで、こんな恰好で、死ぬほど恐ろしい目に遭ったのは全部あのオヤジのせいだって言うの?
……酷いわ!!このブラだって、相当高いのに…ッ」
「それは―――」
男の台詞は、アラーム音にかき消された。男はハッとした顔をすると、立ち上がり、部屋の隅へと向かった。そこには小さなバッグが置いてあった―――私全然気が付かなかった!
男はゴソゴソと何かを探ると、軽く舌打ちをし、素早く私の所にやってきた。
「今の音は一体――」
「静かに!声を出すな……」
男は小さく、しかし鋭い声で私にそう命令すると、私をベッドへと押し倒した。
「きゃっ!…一体何する――んうっ」
なに?一体なんなの!!男が突然キスをしてきたのだ。ねっとりと、舌を絡めてきて……何度も、何度も角度を変えて深く舌を絡ませてくる。
逃げようとしても逃げられない。男の身体が伸し掛かって来るから。悔しいけど、力では男には敵わない。
さっきまで私の言葉を信じてくれそうな感じだったのにどうして……?
私の膝を割り、男の足が入ってくる。そ、そんな……!
キスの合間に、男は何かをしていた……と思ったら私の口に何か入れた!!
「んむぅ〜!」
足をばたつかせながら、首を振ってその何かを吐きだそうとするんだけど、男がそれを許さない。
頭をがっちりと押さえつけると、男は、さっきよりも数倍しつこくて、濃厚なキスを仕掛けてきた。
ああ……なんか知らないけど、もう我慢できないっ!
喉の奥まで流れてしまって、生理的に耐え切れなくなった私は、その、“何か”を飲んでしまった。
「はぁっ……はぁっ……な、にをした……の……」
男は首筋にキスをしながら囁いた。
「すぐに終わる……だから今は、私に全てを委ねろ……」
「な、に言ってる―――」
反論しようとしたら、ぐるぐると視界が廻りだした。
な、なんなのこれ……めまいがするし、身体が動かない……。
男と、私の息遣いが部屋に響く。そして衣擦れの音も……。
「はぁ…っ……ぁ……ンッ」
「ヨウコ……君はなんて美しいんだ……」
男が、聞いたこともないような艶めいた声を出した。と、その時。
静かに……だが、とてもゆっくりと扉が開く音がした。男は私を愛撫することに夢中なのか、顔を上げようともしない。
ぎぎぎぎ……と扉が半分くらい開いた。一体、誰がやってきたの…?私を助けに来てくれたんだろうか…だったら、凄く嬉しいけれど……私はうまく回らない頭で考えた。
男の右手が私の頭の下に廻された。そして、次の瞬間――――
男は振り返ると、侵入者に跳びかかった!!
「え…っ……うそっ……」
ドタン、バタンと男と侵入者がもみくちゃになって部屋中を暴れまわる。
私としては、起き上がって乱れた自分の恰好を整えたいし、この隙に逃げ出したいんだけれど、なにせ、身体に力が入らない。
それでも私は、ぐるぐると廻る頭を起こしてなんとか肘をつき、起き上がろうともがいた。
早く……早く逃げなくては…ッ!!
けれど勝負はあっという間についてしまったようだった。ハァハァと乱れる息を整えながら、全身黒ずくめの男が立ち上がる―――ああ、そんな―――って……ええ?!
男の下でのびているその人には、とても見憶えがあった。だってあなたは――なんとか言葉を紡ごうとするけど、めまいが止まらない。
ぐるぐると天井が廻りだす。だ、駄目……意識を保っていられない……。
「逃げなきゃ……っ…誰か…助け―――」
男が私を見つめ、何かを言おうとした。でももう限界。私の意識はここでプツリと切れてしまったのだった……。
(H23,12,24)
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