Gift | ナノ


▼ Hands



スリザリン6年生のレイ・カンザキはホグワーツに入学してから寮監であるセブルス・スネイプに恋焦がれていた。
もちろん『好きです』などと言える筈もなく、自分の気持ちを押し殺してホグワーツでの生活を送っていた。
それでもレイは満足していた。
スネイプが担当している魔法薬学の授業では、彼の無駄のない華麗な手捌きにいつも見とれていた。
その甲斐あって、レイの材料の刻み具合や鍋へ材料を投入するタイミングは完璧で、自寮の生徒ということもあり、毎回ナマエは加点対象の生徒となっていた。

「諸君、見たまえ。Ms.カンザキは今回も完璧である。このオレンジ色に透き通った薬には不純物の欠片一つも見当たらない。スリザリンに5点追加」

レイはこれだけで満足だった。
スネイプに優等生と見られ、どうやら気に入られていることだけはわかっている。
それ以上のものは何も必要ない。
この気持ちは胸の奥にそっとしまっておけばいいのだ。
普段であればこのまま授業が終了し、そっとスネイプに会釈をして教室を後にするのだが、そのスネイプに声を掛けられた。

「Ms.カンザキ、君の魔法薬精製の技術を見込んで一つ頼みたいことがある。この後授業は?」
「は、入ってないです」
「そうか。では落ち着いたら我輩の執務室に来るように」

レイにとっては青天の霹靂だ。
あのスネイプから声を掛けられるなんて。
しかも自分の実力を認められ頼み事だなんて。
身体中の熱が一気に駆け巡るのがわかりレイ、はいつもよりも深くスネイプに礼をすると教室を飛び出した。

「す、スネイプ教授から声を掛けられるなんて…!」

女子寮に戻ったレイは持っていた教科書を無造作にベッドの上に置き、鏡と向き合うと髪や服を整える。
明らかに高揚して顔が赤くなっている。
レイの胸の内を知る友人は歓喜の声を上げた。

「レイ、お風呂入っていったほうがいいんじゃない?時間がないならシャワーだけでも」
「念のため勝負下着つけていきなよ」
「もうっ!何考えてんの?!そんなこと…あるわけないじゃない!」
「わからないよね〜」
「そうそう、我が寮監のスネイプ教授だって…」
「「男だからね〜」」

男という響きにますます熱が上がってくる。
なぜこんなに純粋なレイがスリザリンに振り分けされたのかは組分け帽子だけが知っていることだが、
レイの性格を知る者すべてがスリザリンとは真逆の性格と口を揃えて言うのは間違いない。

「アドバイスありがとう!でもシャワーに入ったり着替えたりしてる時間はないの!スネイプ教授をお待たせするわけにはいかないから…じゃあね!」

友人たちはニヤつきながらヒラヒラとレイの背中に向かって手を振った。


---


こんなに緊張したことはあっただろうか。
何度かレポートを提出に行ったことはあったが、長く会話などしたことはないし、スネイプの部屋で作業をするなど罰則以外には考えられないことだ。
しかし今日はそうではない。
『スネイプから』というのが特別なのだ。
部屋の扉の前に辿り着き、はレイ大きく深呼吸をしてノックをする。

「レイ・カンザキです」
「入りなさい」

失礼します、と恐る恐る部屋の中に足を踏み入れた。
いつものようにスネイプは机に向かい山積みの羊皮紙を前に羽ペンをスラスラと動かして採点をしている。
その流れるような手の動きにレイは見惚れた。
スネイプは立ったままのレイを横目でチラリと見て、座るよう指示をすると杖を一振りして紅茶を出した。

「すまない。もうすぐ終わるから、飲んで待っていなさい」
「は、はいっ!」

緊張丸出しのレイにスネイプは気づかれないように口元を緩めた。
カチャカチャとティーカップと受け皿が音を鳴らしている。
おそらく緊張で手が震えているのだろうと察しがついた。

「スネイプ教授、すごくおいしいです!」
「そうかね。大したものではないがな。さて…お前をずっと待たせるわけにはいかんな」

スネイプは杖を振り、魔法薬の材料を呼び寄せ、レイの目の前にあるテーブルに並べた。
かなり種類が多い。

「今回作る薬の下準備をしてもらいたい。昨日依頼された薬なのだが数が多い上に明日までに仕上げろと言ってきた。
さすがに我輩一人では時間がかかりすぎるのでな…少しお前の時間をもらうが良いか?」
「は、は、はいっ!」

のレイ頭の中は真っ白だった。
至近距離で見つめられた上に、スネイプ特有の甘い、囁きに近い声でそう言われれば思考も停止する。
しかしながら自分の技術を認められ、ここに呼ばれているという任務をしっかり果たすべく、ナマエは気合いを入れ直し、真っ赤な顔をスネイプに晒しながら下準備をする。
初めて調合する薬だった為、スネイプが最初に手本を見せてくれた。

「この根はこのように細かく刻め。少しでも大きいものがあっては駄目だ」
「はい」
「そしてこちらの葉は…」

なんという贅沢。
なんという至福の時。
今、胸に想いを秘めている男性が自分だけに語りかけ、そして遠くで見ていた憧れの手がすぐ側にある。
やはり無駄がなく華麗だ。
材料を刻み、それを鍋に入れ、かき混ぜ、液体を瓶に移し、ラベルを貼る。
すべての作業が美しい。

「Ms.カンザキ、手が止まっている」
「あ、す、すいません!」

いつの間にか自分の世界に入ってしまったレイは、スネイプの呼びかけに慌てて我に返った。

「魔法薬を完璧に作るお前だから頼んだ仕事だ。休まれては困る」
「すいません…しっかりやります」

自分の技術を認めてこうして呼んでもらっているにもかかわらず、恋愛感情を持ち込む馬鹿がどこにいるだろう。
期待にしっかり応えなければ。
気持ちを入れ直し、レイは作業に集中した。
時々、スネイプが気遣ってくれることがレイにとって何よりも嬉しかった。
二人は作業に没頭し、薬をすべて作り終えた頃には既に夕食の時間を過ぎていた。

「これで全てだ。お前のおかげで助かった、Ms.カンザキ。礼を言う」
「良かったです!スネイプ教授のお力になれて嬉しいです。また困ったことがあればいつでもお手伝いしますから。では、私は寮に戻りま…」

椅子から立ち上がろうとしたが、スネイプに待ちなさい、と声を掛けられた。
予想していなかった展開に押さえ込んでいた恋心がまたフワッと胸の底から浮かんできて、再び顔が炎上を始める。

「かなり遅くなってしまった。夕食にはならないと思うが、少し休んでいきなさい」

スネイプは作った薬品を箱の中にすべて納め、散らかっていたテーブルを片付けると、再び紅茶を出した。
しかも今度はショートケーキ付きだった。

「ケーキ!」
「好きなのだろう?友人と話をしているのが聞こえた」

いつ聞かれたのだろうということより、そんな何気ない会話を覚えていてくれたスネイプにレイの心臓はドクンッと大きく高鳴った。

「い、いただいていいんですか?」
「手伝ってもらった礼だ。残されても我輩にケーキは必要ないのでね」
「甘いものはお嫌いですか?」
「食べないこともないが…あまり好かん」

それでは…と少し大き目の一口を頬張り、おいしいですと笑うレイにスネイプもつられて僅かながら口の端を上げた。
授業中にはあまり見せないレイの無邪気な表情にスネイプは胸に熱いものを感じていた。

「Ms.カンザキは手作りで菓子も作るのかね?」
「はい。お菓子ももちろんですが、お料理も作ります。…なんでも作るのが好きみたいです、私」
「魔法薬があんなに正確に作れるのだ。きっとお前の作る菓子や料理はうまいのだろうな」
「そ、そんなこと、な、ないですっ!!!」

催促とも取れるスネイプの発言にレイは慌てて否定すると、一際大きなケーキを塊を口に入れた。
照れ隠しなのだろうが、スネイプはそれが可笑しくて笑いそうになるのをぐっと奥歯を噛み締めて堪える。
なぜスリザリンなのだろう…。
純粋で仲間想いであり、一つのことを貫き通す強い意志がある。
他寮のほうがレイの性格に当てはまるのだが、スリザリンに来たことをスネイプは幸運に思っていた。
がレイ自分に想いを寄せていることをスネイプはかなり前から知っていた。
ふと目をやれば必ず目が合い、そしてすぐ頬を赤く染める。
熱を含んだ潤んだ瞳は、普段友人や他の教師を見つめている時とは違うものだ。
自分だけに向けられているものだと知った時、スネイプもまたレイを特別な目で見るようになっていた。
レイの直向さはもちろんだが、コロコロと表情を変える感情豊かなレイにスネイプは心奪われた。
無邪気に笑っていたかと思えば、自分の担当する魔法薬学で見せる表情は大人びた真剣な眼差し。
今回の魔法薬精製の依頼が来た時、スネイプは必ずレイを部屋に呼ぼうと決めていた。
もちろん手が足りないというのもあったが…何よりも見つめていたかった。
その願いが双方同じだということをスネイプはなんとなく感じているが、レイはそんなことを夢にも思っていないだろう。

「す、スネイプ教授?ど、どうしたんですか?」

自分を見つめたまま口を開かないスネイプに思い切ってレイが声を掛けた。
スネイプは声を掛けられるのを待っていたかのように立ち上がり、レイの隣へ腰掛ける。

「な…スネイプ教授、え?何ですか?あの…」
「先程の一口が大きすぎたのではないかね?クリームがついている」
「え?!あ……ぁ、」

口の端についていたクリームはスネイプの指に掬い取られ、驚いたまま半開きになっているのレイ口内へと押し込まれる。
指は柔らかいレイの舌を撫で、名残惜しそうにぷっくりした下唇を通って外に出された。

「美味しいかね?」
「す、ねいぷ教授…わ、私…」
「…我輩の手が好きか?」
「〜っ!」

スネイプは手の甲でレイの頬を一撫でし、そして手のひらでその頬を包む。
燃え上がりそうなくらい熱を持った頬は、のレイ心の内を表しているも同然だった。
少し困惑したような、しかし期待を含んだレイの瞳にスネイプは吸い込まれそうになったが、まだ僅かながら残っている理性で我を引き止める。

「お前はすぐに赤くなる…スリザリンにはいないタイプだ」
「あ、あの…」
「この際言ってしまってはどうかね?それとも我輩が言わせたほうが好都合か?」

レイの脳裏に友人の言葉が蘇る。
『スネイプ教授も男だから』
少しずつ距離を詰められ、薬草の香りとスネイプの吐息が肌で感じられる。
今起こっている出来事に意識が遠くなりながら、レイは自らの誓いを破って秘めた想いを言葉にした。

「わ、私…す、スネイプ教授…私、教授のこと好きなんです!手だけじゃなくて、目も鼻も口も声も…スネイプ教授のすべてが好きです!!!」

…理性ゼロ。
レイの真剣な美しい瞳がまっすぐスネイプを捉え、どんな菓子よりも甘い声はスネイプの残された理性を溶かしていった。
スネイプは涙が浮かぶレイの瞳に優しく口付ける。

「…どうやら、気持ちは同じらしい」
「え、そ、そんな…だって…わ、私…」
「我輩もお前の手が好きだ。この目も鼻も口も声も…頭から足先まで…お前のすべてが好きだ、レイ」

スネイプにナマエを呼ばれ、レイの瞳から涙が零れ落ちた。
叶わなくても想っているだけで十分だったのに…恋焦がれていた男性は自分を好きだと言っている。
気持ちが通じるということはこんなにも甘美なのかとレイは身体を震わせた。

「ケーキが残っている」
「あ、…きょう、じゅ…ん」

レイが愛おしく想っていたスネイプの手がケーキに伸びて、華麗に動いていた指がクリームに塗れたイチゴを摘み、レイの口の中へと入れられる。
甘い…。

「我輩も味見をするとしよう」

そう言って向けられた熱を持つスネイプの視線はケーキではなく、
レイの唇へ。


<喜びの声>


このお話は、miuさんのサイトと相互をさせていただいた記念にキーワードを決めてお話を書いていただいたんですが。
タイトル通り、私は「手」をリクエストしました。


す、すねいぷてんてーえろす!!


と叫びたくなるようなお話でしたねー。私、スネイプ教授の全てが大好きですが、特に「手」が気になって気になって。
スネイプというよりは、演じているアランさんの手の動きがどうにもこうにもツボなんです。クネクネしたり、指先のあの、意識的な動き。英国俳優のジェレミー・ブレッドさんもおんなじような動きをするので、あればたぶん…シェイクスピア・カンパニー仕込みなのだろうかと思ってしまう程です。

ケーキのクリームを口の中に運ばれるシーンでは悶絶ものでございました。教授、いやらしいっ(笑)


そんな私の希望を叶えてくださったmiuさんに感謝です。どうもありがとうございました!

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