Gift | ナノ


▼ Complex Finale




どうせ私なんか。
この人と付き合ってからそう思うことが多くなった。
付き合った男性は私と違い、立派な大人なのだから子供の私を相手にしていること自体おかしいのかもしれない。
他の人の前では絶対に見せない優しさを私に見せてくれているから、彼女としては認めてもらっているのだろうが…。

「…ねぇ、先生」
「もう少しで終わる、待っていなさい」

黒い背中を見せつけ、忙しなく羽ペンを動かす手はまだ一度も私の身体を抱いたことはない。
そして、唇と唇を合わせることも。
頬や額に優しくキスされたことはあるが…なんだか友達とする挨拶のようで物足りない。
好きだと告白した私の気持ちを真っ直ぐに受け止めてくれたのは、所詮寮監として自寮の生徒を傷つけない為の同情だったのか。

「どうせ私なんか」
「…何?」

思わず口を衝いて出た言葉は機械のように動いていた黒い腕を止めた。
ゆっくりと振り向いたスネイプ先生の瞳は、私室を訪れてから扉の前で立ったままの私を捉えている。

「今なんと?」
「いえ、別に」
「『どうせ私なんか』と聞こえたが…その続きは?」
「……どうせ私なんか、ただの子供ですよね」

一瞬眉間に深く皺を刻んだスネイプ先生だったが、それもすぐに戻ってしまう。
私はそれも気に食わない。
たとえ何があろうともこの人は平然を装う。
彼女である私の前では、素の姿を見せて欲しいと思っているのだが…。

「何を急に言い出すかと思えば…まずは座りなさい」

ソファーに促されたが私はそれを拒否した。
はぁ、と大きくつかれた溜め息が耳に痛い。

「先生が私の気持ちを受け入れたのは…好きだからじゃなくて、同情ですよね」
「……」
「先生のような大人が私みたいな子供を相手にするはずないですもんね」
「…なぜそのようなことを言う?」

…なぜ?
そう聞かれて悲しさよりも腹立たしさのほうが込み上げ、頭に血が上っていくのがわかる。
『なぜ?』と聞きたいのは私のほう。
すべてはなんの愛情表現も示さない先生のせい。
私たちは恋人でしょ?私はあなたの彼女でしょ?
ならどうして男のあなたは女の私を求めないの?
たとえ私たちの関係が先生と生徒であっても…大人と子供であっても…好きならもっと求め合うものじゃないの?

「そんなに、私魅力ないですか?」
「いや」
「それならどうしてもっと私を求めてくれないんですか?」
「それは」
「所詮あなたにとって私は気に入ってる生徒の一人でしかない---」

薄暗い部屋に響いた自分自身の声の大きさに驚いたのと同時に、ドンッという衝撃音。
途切れた言葉の代わりに鈍い痛みが右肩を走る。
ワークチェアから勢いよく立ち上がったスネイプ先生が私を壁に突き飛ばしたのだ。
気づけば顔の横には先生の黒い両腕がある。

「言いたいことはそれだけか?」
「…っ」

痛さと悔しさに涙が滲んだ目で思い切り先生を睨んだ、つもりだったのに。
目の前に現れた景色は普段あまり見えない先生の耳、テーブルの上にあるフラスコや鍋まで見えている。
そして唇には熱いくらいの温もりと柔らかな感触。
先程までの攻撃的な私は跡形も無く姿を消していた。
今あるのは重なり合う鼓動だけ。
私は今、先生にキスされている。

「…ス、ネイプ先生…」
「やはりレイはまだまだ子供だ」
「なっ…」
「大人の男をわかっていない。どれほどまでに我輩がこうすることを我慢していたと思う?箍を外すのは簡単なのだ。そこからは…もう止められんのだぞ」

苦しそうに笑うスネイプ先生に再び音を立ててキスをされれば、耳に届いたリップ音に濡れた唇から震えた甘い吐息が漏れた。

「先生…わ、私…」
「お前のことを子供と思ったことは一度も無い」

…我輩の、恋人としか…。
耳元で優しく囁かれたベルベッドボイスに、私は目の前の温かな黒い海の中へ飛び込んだ。


<喜びの声>

こちらのお話は、miuさんのサイトでお引越しお祝いに企画されたイベント、【ファーストキッス・プロジェクト】へ私がリクエストしたお話です。

シチュエーションとして、《教授の私室で壁際に追い詰められてキス》という、趣味まるだしのリクエストでしたが……miuさんはなんともはや、オトナの香りを漂わせた教授を生み出して下さいました。


教授……鼻血出ます。


私ならブーです。大量にブーしちゃって、教授のヤル気を削いでしまいそうだ(苦笑)
甘酸っぱいリクエストをするべきだったのでしょうが、変態的なワタクシがリクをするとこうなるよという、典型的な趣味丸出しなシチュエーションでしたね。

それなのに、こんなに素敵に仕上げて下さって……ああ、生きてて良かった。

素敵なお話、どうもありがとうございました!大切に飾らせていただきます。


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