ナナと教授 | ナノ

5 抱きつきたくて、しょうがなかった Side-S




気がついてしまった気持ち。告げることもできず、1年が過ぎてしまった。
ナナはますます美しく、可愛らしく成長してくる。子供から、少しずつ大人へと…。

そろそろ、恋人でもできるような歳だろう。こんなに愛らしいのだ。おそらく、告白くらいはされているのかも知れぬ。
告げられない想いに加えて、他の男に取られるのではないかという不安…。そんな想いが、心の動揺が授業に出ないように、我輩は必死だ。
誰にも言えない想いは、胸に秘めておくにはつらすぎる。
だから我輩は、誰もいない夜空にそっと囁くしかない。いや、アレだけは我輩の想いを聞いてしまっているだろうな…。


月よ、この想いを、諦められる日が、いつか来るのであろうか?
解かるのであれば、是非にも教えて欲しい。
どんな調合よりも難しいな、人の想いというものは。制御がきかぬゆえ…。

我輩は月夜を見上げてそっと苦笑した。



今年も辛い一年になりそうだ………。




告げることも叶わない想いを抱え、何とか堪えている我輩を、まるで突き崩すようにお前は今日も愛らしいのだな…。お前の揺れる黒髪をぼんやりと眺めながら、我輩は考えていた。


何故ああも無意識に我輩を煽るのであろう。ふとした時に見せるその微笑が、我輩の胸をどれ程ときめかせているのか、お前は知っているのだろうか…?
あの子の微笑みを見る事ができて、ときめくこの胸…。しかし反面、あの子を微笑ませているその対象に、嫉妬してしまう我輩もいる。

あれは同じ寮のポッターやウィーズリー…グレンジャーではないか。
とても楽しそうに笑いあっているようだ。あの子の笑顔はまぶしくて、その笑顔が見られることが嬉しい反面、あの笑顔は我輩だけが見るべきものだとまで思ってしまう。
あの子は我輩だけのものだ。

その微笑も…眼差しも…その声も…。

そんなことを考えてしまうのは…やはり、恋をしているからなのだろうな……。




「Ms,カミジョウ、調合がなっておらん。グリフィンドールから5点減点。Ms,カミジョウはこの後残りたまえ」

我輩は冷ややかに言い放った。
今は、我輩の授業中。2年のグリフィンドールとスリザリンの授業中だった。
先程から、ナナの調合を見ていたのだが、全くと言って良いほど出来ていなかった。このままでは進級ができぬ。我輩は教師としてナナを育てなければならぬ。
仕方ないので、残らせることにしたのであった。
我輩の言葉にざわめく教室。あちこちから可哀相、という視線があの子に集まる。

フン、我輩はグリフィンドールを毛嫌いしておるからな。また嫌がらせかと思ったのかもしれぬ。
しかし今回は違う。このままでは、本当に進級も危ういであろうと危惧してのことだ。1年で学習できているはずの調合を失敗するようでは、この先我輩の授業にはついて来れぬ。魔法薬学は必須の授業だ。このままでは単位を落としかねなかった。

授業が終了して生徒がぱらぱらと教室から出てゆく。グレンジャーは最後までナナを心配そうに見ていたがやっと教室から出て行ったようだ。

後には不安そうな顔をしたナナと、我輩の二人きりだ。

そうか。意図したわけではないが…二人きりなのだな…。何やら、我輩も緊張してきた。
後ろ暗いことをするつもりではないのだが…。何故か速くなる鼓動を抑えつけるように、我輩は咳払いをすると、ナナへ告げたのだった。

「なぜ残るように言われたか解かるかね?Ms,カミジョウ……」




何故あんなことをしてしまったのか……。
泣いてしまったナナの、その泣き顔があまりに綺麗だったからか。
我輩を恐れて泣いてしまったという、後ろめたい気持ちからか。

気がつくと我輩は、ナナの頬に伝う涙を、そっと指で掬ってしまっていた。ナナの頬は想像していた以上に柔らかくて…触れている指先から、身体が熱くなるのを感じる。


ああ…我輩はナナ、お前が愛しい……。


子供相手に、このような切ないほどの愛しさを感じるなど…間違っている。しかし、この想いを止めることはできぬのだ。
我輩はフ…と苦笑した。恋愛対象になるべくもないのであれば、せめて教師として、ナナを支えようではないか。だから補習をすることにしたのだ。お前の役に立つには、そのくらいしか我輩はできぬゆえ。

ナナ、我輩が怖くとも、これからはしっかり補習してもらわねば困りますぞ?我輩はそっと言った。少しでもやる気を出してもらうために。

「君はグリフィンドールであろう?Ms,カミジョウ、君の勇気はこんなものかね?」




それからナナとの補習が始まったのであった。

あくまでも教師として、生徒の学力をつけるための補習であるのに、補習の日になると、時間が近づくと、我輩の胸は切なく震えた。動悸も激しくなってくる。
何故なら…この時間だけは、我輩はナナを独り占めできるからだ。

我輩の部屋で、愛しいナナと…二人きり。

あの子が見つめるのは我輩のみ。我輩だけの声を聞いて、我輩だけの顔を見つめて、同じ時間を共有することができるのだ。
意図したわけではない、策略したわけではないが…夢のような一時であった。
我輩は先程まで行っていた補習を思い出した。身体が熱くなってくる。


何故なら……ナナを……抱きしめてしまったから…。


しかも、あの子の華奢な手を握り、薬草の刻み方を教えたのだ。そして可愛らしい耳元にそっと囁いてしまった。
そんなことをせずとも、普通に刻む所を見せれば良かったはずだった。
しかし、我輩は誘惑には抗えなかったのだ。

ナナを抱きしめてみたい、という誘惑にな…。

抱きしめると、ナナはとても柔らかくて、いい匂いがした。その手を握り、刻み方を教える時、あの子はとても恥ずかしそうにして、全身を真っ赤にさせていたな…。心臓もドキドキと打っていたようだ。我輩よりも速い鼓動で…。
ずっと抱きしめていたいとまで思ってしまったが、そこで我輩は我に帰った。


そういうことをするために、ナナを呼んでいるのではない。補習だ。補習をするために呼んでいるのだ。


理性を総動員させた我輩は、ナナから離れる事ができた。とたんに温もりが消えてゆく。ああ、もっと抱きしめていたかった…。
これでは職権乱用だろう。いい加減にしろ!!
我輩は自分を叱責すると、調合を再開したのであった。


これから毎週金曜日に補習をしなくてはならない。ナナの学力を向上させることが目的なのだ。そうなのだと言い聞かせても、逸る鼓動を抑える事ができぬ。
これからしっかりと補習をすることができるのであろうか?我輩は少し自信がなくなってきた。


ナナ…これからは、何とかせねばならんだろう。我輩の、お前に抱きつきたくてしょうがないというこの衝動をな……。我輩はそっと、溜め息をついた。


prev / next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -