ナナと教授 | ナノ

6 すがりつきたくて




どうして教授、あなたはそんなに素敵なの?
どうしてそんなに格好良いの?
どうしてそんなに低い、甘い声で私に囁くの?

このままじゃ、私到底堪えられそうもないわ。このままじゃスネイプ教授…私、あなたにすがりついてしまいそうよ…。



「そうだ…。そうやって優しく、丁寧にすり潰すのだ。ここできちんと丁寧にしなければ、薬効が落ちるのだ」

吐息が感じられるくらい近くに、教授がいる。
私の手元をじっと見つめている教授の強い眼差しを感じながら、私はときめく心を落ち着かせようと必死だった。


今は、補習中。毎週毎週教授の部屋に二人きりでいたら、いい加減慣れそうなものなんだけれど、教授に関しては、何故か免疫ができないみたい。
相変わらず近づかれると胸がときめくし、鼓動は早くなり、頬が赤くなってしまう。

こんなことでは、教授に恋してますっていうことが一目瞭然だろう。完全にばれてしまっていると思う。
けれど教授はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、態度としては変わらず、相変わらず甘く、低い声で、怒ったりすることも一切なく、一つ一つ丁寧に、魔法薬学を教えてくれている。
最近は、やっとだけれど、手つきも震えることはなくなったし、頭も真っ白ということはなくなった。それは良かったと思う。私だって成長するんだから。

だって、教授の貴重な時間を割いてまで、私というダメダメな落第生に補習をして下さるんだから、教えてもらう以上は、しっかりと学習しなければ。下手をしたら落第だとまで言われているんだから。

私、たとえ想いを告げられなくても、この想いが届かなくても、教授の傍にいたい。あなたを、見つめていたいんだもの…。


「ここでこのチコリの葉を入れるのだ。そうして時計回りに3回、鍋を掻き混ぜたまえ。混ぜたら火から鍋を降ろしたまえ。良いか?3回だぞ?」

「はい、教授。3回ですね?えと…チコリの葉を入れて……時計回りに3回掻き混ぜる……そして火から鍋を下ろす…っと…できた!できました!教授…」

「フム……少し、チコリの葉の量が足りなかったようだが、まずまずの出来であろう。Ms,カミジョウ、よくやったな」

「あ…ありがとうございます……教授…」

教授に褒められた!!
嘘!信じられない初めてかも…。凄く嬉しい……。
スネイプ教授を見ると、教授はうっすらと笑っていた。
嘘〜?!教授の笑い顔、初めて見たかも!!

教授の笑い顔…いつもの顔よりもさらに素敵かも……。

私は自分の顔が赤くなるのがわかった。
嬉しい〜!!あまりに嬉しくて、ピョンピョンとその場で跳ねてしまった。

「こら、喜ぶのはまだ早いぞ?最後に瓶につめて、それで完成だ」

「はい教授!」

私は笑うと、教授に言われた通りに出来上がったばかりの薬を瓶につめた。荒熱を取るために瓶にはまだ蓋はしないでおく。
その後、使った物品を片付けていると、教授が紅茶を淹れてくれた。

「Ms,カミジョウ、薬が冷めるまで、紅茶でも飲んで休憩したまえ…」

「ありがとうございます教授…。いただきますね…」

私はそう言うと、ソファーに坐って、紅茶を頂く。


そう、信じられないかもしれないけれど、これが最近の補習のスタイルだった。
まず、補習が始まったら、調合の注意点を教授からレクチャーされる。私はそれを聞いて、メモを取る。
次に、実際に材料を使いながら調合を開始する。教授の監視、助言付きだけれど。
できあがったら後片付け。その間に、教授が紅茶を淹れてくれる。
その美味しい紅茶を飲みながら、今日の調合の振り返りをするというわけ。


私は胸をときめかせながら、教授の素敵な声を聞いて、大事な言葉をメモする。教授は授業とは違って、眉間にシワを盛大に作ることも無く、嫌味も言う事がない。
最初は、授業とまったく違う補習での教授の態度に戸惑わなかったと言えば嘘になる。
グリフィンドールの寮の皆にはかなり同情されたし、憐れみの視線まで受けた。私も、かなりの覚悟をして行った…のだけど。

スネイプ教授という一人の教師の素晴らしさを実感する機会になるなんて。

教授はとても教え方が丁寧だった。それに解からない所はとことん教えてくれるし。
刻み方や混ぜ方、砕き方などのコツも教えてくれた。
抱きしめるように刻み方を教えてくれたのはあの一度だけだったけれど…。
毎回提出する授業で取ったノートも、丁寧に…添削してくれている。


私は、混乱してしまいそうだった。
何故なら…何故なら…教授に抱いていたイメージが180度変わってしまったから。
もともと、大好きだったけれど、教授が授業をする時は何だか近づきづらくって…声を掛けづらかったのだ。

けれど補習を受けるようになって気がついたことが沢山あった。

さりげない教授の優しさとか。できるまで辛抱強く教えてくれる所とか。妥協はしないで、駄目なものは駄目だと言ってくれる所とか。
表情だって、今までだったら機嫌の悪い顔しか見たことがなかったけれど、教授って意外と表情豊かなんだってことがわかったり。
皮肉げに笑う以外にも、さっきのように微笑んだり、穏やかな顔をすることもあったのよ?そんな知られざる、教授の一面が見ることができて、私はもっと深く…戻れないほど深く好きになってしまったのだった。

教授…あなたのことが……。


皆は教授の授業を嫌っているけれど、私は教授が大好きなだけでなく、魔法薬学という学問も大好きになった。
知識は勿論なくてはならないけど、繊細な調合技術も必要だったり、手順をしっかりと理解して、決められた通りにする意外にも、調合の仕方によってはより良い方法で高い薬効が得られる場合もあったり、奥が深くって素晴らしい学問であるっていうことが解ったから。

こういった心境の変化もあったから、それとも教授の教え方が上手だからか、教授に対して免疫が少しなりともできたからなのか、私は魔法薬学の授業でも失敗することがなくなってきた。
めきめきと上達した私をみたグリフィンドール寮の生徒は、私が調合する姿を見て、

「君って本当に補習受けられてるんだね!スネイプの嫌味だけじゃないんだ!本当に、補習をしてるんだね!」

だって。ちょっと失礼ではないかしら?スネイプ教授に…。
大好きな人のことをそんな風に言われて、面白くないはずがないでしょ?だから私は調合途中の薬をこぼしてあげたのだった…その子の手に向かって。

「あら、ごめんなさい。私、手が滑って……」

その子の手はすぐに膨れてきたっけ…。慌ててスネイプ教授に助けを求めるその子を、冷ややかな目で見てしまった私だった。

悪口を言ってる人に助けてもらうなんて…最低でしょ?


そんなことを思い出しながら紅茶を飲んでいたら、教授はいつの間にやら沈黙していた。何だか、話すのをためらっているみたい。
どうしたのかしら?教授。気になった私は尋ねてみた。こういうことすら、以前の私はできなかったのだけれど、教授と一緒にいるようになって、出来るようになったのよ?

「あ…の…スネイプ教授?どうか、されましたか…?」

まだ、こんな感じでしか話はできないけれど。すると教授はしばらくためらっていたみたいだけれど、私に言ってきたのだった。

「Ms,カミジョウ…。我輩が思うに、君の調合の技術は格段に上がった」

これってひょっとして…褒められてるの?だったら嬉しいっ!!私は自分の顔が赤くなるのを感じた。
「あ…ありがとうございます…教授のおかげです…。感謝しています」

私の言葉に、教授は少し顔色が良くなっていたみたい。咳払いをすると、教授は言ってきた。

「う…む…仕事であるゆえ…気にするな。それで…だな、我輩としては、次回をもって、補習を終了しようと、考えているのだが…」

教授のその言葉を聞いた私は凍りついた。


そうだよね…。教授だって忙しい身だもの。私があまりにダメダメだったから、補習をして下さっていたのだし。いつまでも補習をして下さる訳ないわよね…。
成績が上がれば、その時がこの、教授と二人きりでいられる素晴らしい時の終わりなんだわ。

私は自分にそう言い聞かせた。これで教授と私には、また、元の通りに、嫌いなグリフィンドール生とスリザリン寮監の教師という肩書きに戻って、毎日を過ごすことになるのね。
こんな風に、同じ時間を共有して、笑いあったり、穏やかな時を過ごすこともないのね…。

私の胸は張り裂けそうなくらい切なく痛んだ。本当に辛かった。


ああ…。あなたはこんなにも私の心を占めていたのね。こんなにも、あなたのことを好きになっていたのね。


けれど、嫌だといって教授を困らせることはしたくなかった。だから私はすがりつきたい想いを抑えつけてそっと言った。

「わかりました…教授……」

と。


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