ナナと教授 | ナノ

3 小さく「好き」と呟いた Side-S




今年もまた、面白くもない1年が始まるのか。
校長の、わかるようでわからない挨拶を聞きながら、我輩は一人、溜め息をついた。

疲れる……。

長ったらしい組み分けを耐え抜いた我輩は(あの帽子にはまったくイライラする)食べたくもない食事を眺め、なんとなく手を付けようとした、その時―――。

ふと視線をやったその先に、我輩の目を引くものがあった。




その娘は、我輩と同じ、黒い髪に黒い瞳をしていた。


黒髪の生徒など大勢いるのだが、その娘は何故か我輩の目を惹きつけた。美しい艶のある長い黒髪が印象的だった。
たしかあの少女は……組み分けの時に気になった、あの娘か?
名は何といったか……。思い出せない……。
思い出そうとして、少女をじっと見つめてしまった。

するとふいにその少女と目が合った。

とたんにその少女は頬を染め、我輩から目を逸らすと恥ずかしそうに下を向いたではないか。
ぶしつけに見すぎたのだな。恥ずかしかったのであろう。
綺麗な娘だが、我が寮の生徒ではない。何とあの、憎きグリフィンドール寮の生徒なのだ。
いくら気になるからといっても、敵対する寮の娘だ。気にしてはいかんな。
我輩は気持ちを切り替えると、食事を再開したのであった。




その少女のことはそれきりだと思っていた。
我輩とは年も離れている。我輩は教師、あの娘は生徒だ。しかもグリフィンドール生……。
我輩とは、関わり合いになるはずもないと、そう、思っていたのだが――――。




「では、授業を始める。教科書54ページを開きたまえ…」

我輩が授業をしていると、何故かあの娘のことが気になって仕方ない。あの娘のいる授業では、何故か緊張するし、胸の鼓動が治まらぬ。
生徒を板書させている時、目線は自然にあの娘に行ってしまう。
歩き回りながら調合を確認する時は、何故かあの娘の所へ行くにしたがって動悸が激しくなるのだ。




あの娘の瞳に見つめられると、心がざわめき、落ち着かない気分になる。
授業中にたまに当ててみて、あの娘の、その姿に良く似合った可愛らしい声を聞くと、我輩の心は蕩けそうになるのだ。

授業がない時は、歩いていても何故かあの娘を探してしまう。

大広間で食事をしている時…。
図書室で調べ物をしている時…。
廊下を見回りしている時…。


気がつくとあの娘のことを考えてばかりいる自分に気づく。




何故だ……?
何故こんなにも気になる……?


美しいとはいえ、黒髪に黒い瞳の娘など、ホグワーツには沢山いるはず。
なのに何故あの娘だけが、我輩の心をこんなにもときめかせ、切なくさせるのだ?

これではまるで――――あれ、ではないか……。




考えるのも恐ろしいが、我輩は……恋をしているのか?




我輩は教師だ。あの娘とは親子ほども年が離れているはず。このような感情を持つこと自体、非道徳的であろう。すぐに、止めるべきだ。
しかもあの娘はグリフィンドールだぞ?我が寮とは長年、敵対関係にある寮だ。寮監の我輩がこのような感情を持ってはならんのだ。
しかし…ああ……しかし……。

あの娘の微笑み、声、その姿、香り、存在は我輩を惑わせるのだ。
どんなに止めよう、止めようとしても無意識に探してしまう…考えてしまう。
止めようとしても止まらないもの、それが恋というものかも知れぬ。




我輩のことなど、眼中にないかも知れぬ。
こんな陰険な中年教師のことなど、嫌っているのかも知れぬ。
魔法薬学自体、成績もあまり良くないようだ。きっと授業自体嫌いなのだろう。
年齢も、立場も…すべてが合わないこの状況は、まさに、実るはずもない恋だった。
初めから終わったかのような状態だったが、それでも我輩は諦められなかった。




この思いは、決して伝えることはできない。
しかし、想うのだけであれば……罪にはならないはずだ。

だから我輩は囁いた。誰もいない美しい三日月の夜にそっと―――。



「好きだ…。お前が好きだ……」




好きだ……ナナ、と………。


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