ナナと教授 | ナノ

2 小さく「好き」と呟いた



同じ空間にいると、苦しくなる。
声を聞くと、切なくなる。
見つめられると、どきどきする。
近づかれると、震えてくる。


あなたのことを考えるだけで、私は………。





この想いに気がついたのは、私がこの学校に入学したばかりの時。
組み分けの後、グリフィンドールに決まった私は、テーブルに着いて食事をしていた。すると強い視線を感じて、私はその視線をなんとなく探したのだけれど、その先にいた人が、あの人だった。

黒い瞳、黒い髪…。私と同じはずなのに、どこか違う。
彼が西洋人だからなのかもしれない。
その人の鋭い視線に、私という存在の全てを見られてしまう、知られてしまうような恥ずかしさを感じた私は、慌てて目を伏せた。
何を食べたのか、食べたかったのか、そもそも食欲というもの自体がなくなってしまった私は、ただひたすら下を向いて、時が過ぎるのを待った。ドキドキと胸を打つ鼓動の、切なく震えるこの感情の正体を知らないまま。




授業が始まって、あの人が魔法薬学の教授で、グリフィンドールを嫌っているということがわかった。
その事実を知った時、私は何故か悲しくて、胸が痛んだ。

あの人の授業はとても厳しくて、私語は勿論厳禁だった。授業自体も難しいもので、私語をする余裕なんてないけれど。
あの人の低い、艶のある声が地下室に響く。教室は少し寒くて、とても静かだ。あの人の話し声と、羽ペンで字を書く音だけがサラサラと響く。
あの人はコツコツと生徒の机の周りを歩き回りながら授業をすることもある。そんな時は、あの人が私に近づくたびに私の胸の鼓動は激しくなってしまう。





どうしてなの…?

どうしてこんなに、胸が苦しいの…?





生まれて初めての感情に、私はとても戸惑い、不安になった。
私にとっては初めてのことだった。こんな感情を経験すること自体が……。


授業に出ると、あの人の姿に、声に、言葉に胸をざわめかせ、ときめかせ、切なくて苦しくなるのに……つらくて、たまらなくつらくて、早く授業が終わって欲しいとまで思うのに、ああ、それなのにいざ授業が終わってしまうと、あの人の姿を、声を、存在を探してしまう。
目線で探してしまう。匂いで感じようとしてしまう。足音が聞こえないかと耳をそばだててしまう。

大広間で…。
廊下で…。
図書室で…。


この感情はあれかもしれないと、私は薄々感じていた。
だって、同室の子がないしょ話で話してくれたことがあるの。その子の、初めて……。
その時の状況が、今の私と全く同じだったから…。




そう、この感情は“恋心”。
私は、あの人に恋をしているんだ……。




初めての恋が、かなり年上の人で、しかも、最初から嫌われている状態だってことはわかっていた。この恋はもう終わったも同然だってことも。
あの人にとって私は嫌いな寮生の小娘…。大勢いる生徒の中でも、不器用で、魔法薬学が不得意であるという生徒の一人にすぎない。
こんな状態で、私のこの思いに気づいてもらえるわけなんてない。

いっそ諦められたら楽なのに。

捨ててしまいたい感情だったのに、やっぱりそんなことは無理だった。
何故ならあの人の授業になれば、相変わらず私の胸は切なく震え、ときめき、せつなくなるし、授業が終われば、どうしてもあの人を探してしまう…。


諦めたい……けれど、諦められない…。




切ない胸の痛みを抱えて、私は溜め息をついた。

今日はとても綺麗な三日月。こんなに月が綺麗な夜は、あの人のことを想って、言えるはずもない、届くことのない言葉をつぶやいてみるのもいいのかも知れない。
私は月を見上げながら小さな声で呟いた。



「好きよ…。あなたが好きよ…」




あなたが好きよ……スネイプ教授……。


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