ナナと教授 | ナノ

2 忘れられない初デート




教授とデートだなんで嬉しいなぁ。
昨日は興奮しすぎちゃってほとんど眠れなかったもんね、私ったら。

次の日も起きてから落ち着かない私に、ジェニーは不思議顔だ。

「ねぇ、何でそんなに嬉しそうなわけ?」

「なんでもないの…」

あぶない、あぶない。身体から喜びが滲み出てるんだわ。気をつけないと。
私は手早く朝食を済ませると、大広間を後にした。

「ちょっと用事があるの」

そう、親友に言い捨てて、大急ぎで寮へと戻ることにする。
頑張っちゃうもんね!




出かける仕度をして、教授の部屋へと向かい、教授の部屋の暖炉からダイアゴン横丁へと向かった。
教授の格好はいつもと同じ。黒いローブが黒いコートに変わっただけ。いつも通り格好良い。
私はね、この間教授にお披露目できなかったワンピースにブーツにした。コートはダークブルーの色なの。今年、買ってもらったばかりのお気に入り。


漏れ鍋に着いた私がまずしたことは、コートに付いた灰を落とすことだった。
ゲホゲホしながらコートの灰を叩いていると、教授が杖を一振りしてくれた。とたんに全身ピッカピカになった。

「ありがとうございます……教授…」

「気にするな…。では、向かうぞ」

うう、外ではセブルスって言えないものね。なんだか、ちょっと寂しいな。
私がしゅんとしていたのを察したのか、教授はさりげなく私の手を繋いできた。しかも…しかも!!

これって……恋人繋ぎだわ……。

教授がその長い指を私の指に絡ませてくる。こんなに大きかったんだ、教授の手って。
嬉しい。とっても嬉しいんだけれど……なんだか生々しくって、恥ずかしい…よぉ……。

私は自分の顔が真っ赤に火照っているのを感じた。外の冷気なんて何のその。胸はドキドキしてきゅんきゅんしっぱなしだし。
教授は私を気遣ってか、ゆっくりとした歩調で進んでくれる。私が消えちゃいたいくらい恥ずかしくて堪らなくなっているのに、全く気づいていないみたい。
教授は恥ずかしくないのかな……。そう思ってそおっと教授の顔色を伺ったら。

教授の頬もほんのりと桜色になっていました。


わぁ……照れる…。けど嬉しくて幸せ。
私はニコニコしながら、教授の腕に抱きついた。だって今この横丁には学生なんて皆無だろうし、こんなことをしちゃってもきっとばれないよね?だからちょっと大胆になっても良いかなって思って。

「う……む……Ms,カミジョウ、密着しすぎですぞ……」

「ごめんなさい教授……足元が滑りやすいんですもん…」

「滑りやすいのか。それでは……仕方あるまいな…」

「仕方ないですよね…転んじゃいそうなんですもの」


私の言い訳に便乗してくれるなんて教授ってば素敵。心がポカポカして幸せ。あーん教授大好き!!




イチャイチャしながら、薬問屋へ向かった。
そこはお世辞にもロマンチックとは言えない場所だった。気味の悪い物体が沢山売ってるし。
私が内心ビクビクしていたら、店の店員みたいな人に囁くように言われてしまった。

「お嬢さん……あなたのように若く、美しい女性の生き血、高く売れるんですよねぇ。どうです?少し売っていきませんか……?」

「け、結構ですぅ!」

こ、怖いよぉ!
後ずさりながら逃げようとしても、周りが薬だらけで逃げ場がない。その店員はニヤニヤしながらジリジリと私に近づいてくる。

教授……助けてー!!

心で叫んだら、本当に教授が助けに来た。
私をしっかりと抱きしめながら教授は店員を睨み付ける。

「この娘は商品ではない!勧誘なら他所でやりたまえ!」

「へへへ…旦那、イイ子をお持ちで。旦那もお目が高い……」

「不愉快な事ばかり抜かすと……取引はなかったことにするぞ…」

教授の声は地を這うような声だった。マジで怒ってるみたい、教授。すっごい睨んでるし。
店の店主が慌ててやって来た。

「すみませんねぇ。そいつは、処女の血に目がないもので……」



え。



私の顔は真っ青から一瞬で真っ赤になった。
だって……処女って何でわかる訳?!
教授も心なしか顔色が良かった。やたらと咳をしてるし。
なんだか……気まずいよぉ…。




荷物持ちとして教授のお手伝いに来たんだから荷物を持とうとしたら、教授に遮られてしまった。

「こちらを持ってくれんかね」

そう言って教授は私に小さな包みを渡してきた。
え……荷物ってこれだけ?私が付いて来た意味、無いんじゃないですか?
不思議そうな私に、教授はおほんと咳払い一つ。

「次は……本屋へと寄るぞ」




本屋さんでは、教授と別行動をとった。
教授もじっくりと本を選びたいだろうなって思ったし。私も欲しい本とかもあったから良かった。
だって私のような女の子向けの雑誌コーナーに教授が来たら、きっともの凄い気まずいだろうしね。


しばらくして落ち合った教授の顔は、満足そうだった。きっと良い事があったに違いないと思った私は、その後教授に連れられて入った喫茶店で聞いてみた。

「教授……何か良いことがありました?」

すると教授は、ん?という顔をしていたけど、答えてくれた。

「しばらく手に入らなかった貴重な本が手に入ったのでな…。顔に出ていたかね?」

「ええ、なんだか嬉しそうだったから…。教授が嬉しそうだと、私も嬉しくなっちゃって」

えへへ、と笑いながら注文したケーキを口に運んだ。
教授は何故かぴきーんと固まってしまっているみたい。どうしたのかしら?

「?教授?どうかしました…か?そのケーキ、甘すぎました?もしそうなら私のと交換しますか――?」

「いや何でもない!ケーキが甘いとか…そういうことではないのだ」

「?じゃあ、どういうことなんですか?」

「いや………気にするな……」

教授は何故か私から目を逸らすと、紅茶をがぶ飲みしていたっけ。
変な教授。




休憩を挟んだ後、今度は見慣れないお店へと足を運んだ。どうやら魔法薬のお店みたい。
ここは綺麗なお店で、ガラスの小瓶なんかも売っていた。キラキラして綺麗……。
教授はどうやら、このお店に調合した薬を卸しているみたい。人気商品のようだった。待遇が良すぎでしょ。

私達は豪華な応接室に通されちゃって、上様みたいに扱われてしまった。居心地が悪くってどうしようもないんですけど。
教授はそこの店の店主と真剣にお話をしている。真剣な教授はとっても格好良いよね。
はーうっとり……。




気がつくと日もとっぷり暮れて、外は街灯の明かりが灯り、ちょっとロマンチックな感じ。
教授と手を繋いで歩きながら、高そうなレストランへと入る。
教授……お金大丈夫なのかしら?こんなに高級そうなお店、私、入ったことないよ。
不安そうな私を見て、教授は苦笑している。そおっと私の耳元に囁いてきた。

「ナナ、安心したまえ。お前を取って食うわけではないぞ、我輩は……」

そしてさらに小さな声で付け加えられた。

「本当は美味しく頂きたいがな……」


な!教授ってば今なんて言ったの?!
あわあわとしながら教授を見つめるけど、教授は知らん顔。エスコートされながら席に着き、どんどん注文してしまう。私が動揺している間に、だ。


それからが本当にロマンチックだった。
蝋燭の仄かな明かりの下、食事をしつつ、お互いを熱く見つめ合った。
胸がドキドキして壊れちゃいそう。教授にこんなに近い距離で見つめられて、よく私、蒸発しちゃわないなって思っちゃう。
教授の熱い視線に耐えられなくなった私が下を向くと、教授はとってもおかしそうに笑ってきた。

「我輩の恋人は随分と…恥ずかしがり屋ですな。ナナ、我輩を見たまえ」

「あ……もうちょっとしてから…」

「もうちょっと…とはどれくらいかね?」

「あと少し…したら……」

「フ……我輩はいつまで待てば良いのかね?」

「次の…料理が来るまで…」

「それでは長すぎる…。我輩に、可愛らしい恋人のその、潤んだ瞳を堪能させて欲しいのだが…」

「教授……」

「ここではセブルスで良い…誰も聞いてはおらぬゆえ…」

「セブルス……駄目、そんなこと言っちゃ…」

「言ったとて構わぬであろう?ナナの全ては我輩のモノゆえ…。この、小さな手も、その微笑みも……潤んだ瞳も…可愛らしい声もな…」

教授はそう囁いて私の手をそっと握ってくる。
今度は私がぴきーんと固まる番みたい。教授がそんな私を見て、そっと笑った……。




そんなこんなで、私達の初めてのデートは幕を閉じたのでした。
最後に、月明かりの下でキスをした時は、最高に幸せだったわ……。教授……大好きよ…。


私はうふふ、と笑いながら日記を閉じた。こんな大事件、日記に残しておかなきゃ。後でまた見返してうっとりと思い出すためにね。
もう、寝る時間だ。教授にキスされた唇が熱い。まだ、教授……あなたを感じるわ……。

『お休みなさい教授……世界で一番愛してる…』


私はベットに入るとそう囁いて、そっと目を閉じたのだった。


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