▼ 菓子をよこさないとイタズラしますぞ
レイのいたずらにより身体が小さくなってしまったスネイプは、いいだけいじくられ、ぐったりしながら一緒に寝室で眠る羽目に陥ってしまった。
当然ながら、心穏やかではいられない。
何故なら彼は、普段上手に隠している彼女への情動が、抑えきれる自信がなかったのだ。
といっても、小さな身体では恋人を襲うこともできない。
スネイプは押しつけられたレイの胸の感触に悶々としながら、眠れぬ夜を過ごしたのだった。
そうして、次の日の朝。
うとうととしていたスネイプは、ふと、身体に違和感を感じた。
(なんだ…?)
身体がおかしい、と思った瞬間、スネイプの身体は何の前触れもなく、元のサイズに戻ったのだった。
「…魔法の効果が切れたか」
ポツリと呟いたその時、レイが返事をするように寝言を言った。
「スネイプせんせぇ……だいすき……」
レイの無邪気な寝顔を見たスネイプは、呆れ顔だ。
無防備にも程があるだろう、とスネイプは思った。大体、キスすらほとんどしたことのない恋人同志の二人が、一緒の寝室で眠るという事自体、有り得ないことだった。
(我輩のことを何だと思っているのだ?)
襲わない保証などどこにもないのに、この娘は警戒心が無さすぎるのだ、と考えイラついていたスネイプの頭には、次の瞬間、とてつもない名案が浮かんだ。
我ながら素晴らしいなと、スネイプは心の中でほくそ笑みながら自画自賛をすると、レイを揺さぶって起こしにかかった。
勿論、事前に杖を振って防音魔法をかけた。これで準備は万端だ。
「レイ…レイ、起きろ」
「う〜ん…もぉ食べられないよぉ…チビスネくん……」
「誰がチビスネだ!」
スネイプは思わずレイの額にデコピンをお見舞いした。
「痛ッ!いきなり何するんですかスネイプ先生……私が何をしたっていうんですか。しかも寝起きに…」
寝ぼけ眼のレイはすぐに抗議の声をあげた。
が、とたんにその声は困惑の声に変わる。何故なら、スネイプは酷く嬉しそうな顔をしていたからだ。
しかも、元の大きさの姿で。
「レイ、おはよう」
「お、おはようございま…す?」
なんだか、恐ろしい予感がしたレイは身をよじってスネイプの抱擁から逃れようとした。
しかし、スネイプの腕の力は強く、振りほどくことは不可能だった。
男の本気の力に敵うはずなどないのだ。そう、スネイプは今本気だった。
「昨日は……楽しかったかね?」
猫なで声で話すスネイプにタジタジしながら、レイは思った。
(なんかやばい感じ…)
眠気など一瞬でどこかに行ってしまった。
「は、はい………凄く楽しかったです…」
「そうかね。我輩は全然楽しくなかったが」
「す、すみません…調子に乗りすぎました」
背中からゾワリと悪寒がしたので、レイは思わず謝ってしまった。とにかく謝ってしまおうと、彼女は考えたのだ。
しかしそんな言葉に対して、スネイプは嬉しそうだ。ニヤリと笑うととんでもないことを言ってきたのだ。
「まぁ、ハロウィンですからな。仕方あるまい…」
「へ?」
「我輩もハロウィンをお祝いしよう」
「は?」
「我輩がお祝いしては変かね?」
「いえ、そんなことはないですけど…」
スネイプがハロウィンで羽目を外すなど想像出来ない事だったので、レイは呆気にとられてしまう。
だが、次の瞬間。さらに有り得ない事態になってしまうのだった。
「そんなことはないだろう?では…我輩からも……トリックオアトリート?」
「え?」
「ほら…早く答えたまえ。菓子をよこさないと…イタズラしますぞ……」
スネイプはそう言うと、レイの首筋をペロリと舐めてきた。
「…あ…っ」
普段のスネイプからは有り得ない積極的なアプローチに、レイは完全についていけていなかった。
今日はもうハロウィンではないと、言い返すことすらできない。
急に大人の男の色気全開で迫るスネイプに圧倒されてしまっていた。
スネイプは内心笑い声を上げながら、低く、甘い声でレイに悪戯を仕掛けた。
「レイ、時間切れだ。菓子をよこさないのだから、イタズラさせていただこう」
そう言うとスネイプは、レイの服のボタンを一つ、また一つゆっくりと外しにかかった。
「せんせぇ駄目…ッ」
「何故」
「だってそんなこといけない…」
慌てながら駄目だのいけないだのを繰り返す恋人に、スネイプはフッ、と笑う。
「レイ、お前は我輩にイタズラを仕掛けた。なのに何故、我輩がイタズラしたら駄目なのだ?」
「だってこんな…こんなイタズラはだめだよぉ」
顔を真っ赤にしながら必死でスネイプの腕から逃れようと無駄な努力をするレイに、スネイプは甘い声で囁いた。
「こんなイタズラだから良いのではないか…。今度は我輩の番なのだ、好きにさせてもらうぞ、レイ」
「あ…んっ」
スネイプは指先で恋人の唇をなぞると、毒のように甘く囁いた。
「レイが先に仕掛けてきたのだからな……」
(H25,10,10)
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