企画 | ナノ


▼ お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ


今日はハロウィン。



ハロウィンだから、という理由で浮かれている生徒達を見て、スネイプは顔をしかめた。

「まったく…やってられん」

あちこちでトリックオアトリートを言いあい、お菓子を渡したりイタズラしたりと忙しい生徒を後目に、彼は自室を目指した。
当然ながら、彼に話しかける生徒などいない。
ましてや、トリックオアトリートなどを言う生徒など、いるはずもなかった。

イタズラならば、常日頃ウィーズリーの双子達にされている。そのためか、今日という日にされるということもなかった。
何故ならば、双子は他の生徒達へのイタズラに大忙しなのだ。

誰にも話しかけられないスネイプは、静寂を求めていた。
生徒達の馬鹿騒ぎに便乗することなど、彼にはあり得ない事である。


「くだらん」


スネイプはそう言うと、螺旋階段を下りて自室の扉を開けた。

「あ、スネイプせんせーお帰りなさい!」

部屋の中には、一人の生徒がいた。
なんとも奇抜な衣装を着ており、右手には星の付いたステッキを持っている。よく見ると、それは杖であった。どうやらその先に星を付けたらしい。オリバンダーが見たら烈火の如く怒り狂いそうだ。

「カンザキ、なんなのだその衣装は……」

スネイプはそう言うと、こめかみを揉んだ。彼はこれから起こるであろう事を予測し、頭痛がするのを感じたのである。

「なんなのだって……今日はハロウィンじゃないですかー」

レイのその言葉に、スネイプは溜息を付いた。

「そんなことは百も承知だ。だからといって何故そのような……」

そう言うとスネイプはレイの衣装をチラリとみた。

「気狂いのような衣装なのだ」

「気狂いって酷くないですか?!高かったのに…」

レイはそう言うと、唇をとがらせた。かぼちゃの着ぐるみを着ているため、その姿はなんともシュールだったが。

教授はフンと鼻を鳴らすと、机に向かい、仕事を始めてしまう。

「我輩は忙しい。馬鹿騒ぎは余所でやっていただこう…」

そう言うと彼は羽ペンを持ち、仕事に没頭しようとした…のだが。

「やだ」

レイのその一言に、インクをつけようとしていた羽ペンを止めた。


「お前は子供かね?」

「子供だもん」

「我輩は仕事で忙しい」

「今日はハロウィンだもん」

「我輩には関係ない」

「関係あるもん!」

「レイ……」


駄々をこねる恋人に、スネイプは奥の手を出した。
今までならば、スネイプが名前で呼ぶと、彼女は頬を染め、おとなしくなったからである。
ところが今日はそうはいかなかった。レイは頬をほんのり染めながら、きっぱりと言った。

「ダンブルドア校長先生がいいって言ったもん!」

「あんのじじぃ……」

スネイプは目を閉じ、ダンブルドアへの怒りを抑え込んだ。

「だから…スネイプ先生……セブルス……お願い……」

レイの“お願い”に、スネイプはこっそりと心ときめかせる。男はいつだって、恋人の“お願い”に弱いもの。彼も例外ではなかった。
表情は崩さないように努力しつつ、スネイプは言った。

「あー……おほん、何だね?レイ……」

「トリックオアトリート!」

「!」

恋人のその言葉に、スネイプは焦った。
まさか、自分に言われるはずなどないと考えていたため、彼は何も準備をしていなかったのだ。
かくなるうえは呼び寄せ呪文で菓子を用意するか、とスネイプが考えていた、その間に。
レイは満面の笑みを浮かべると宣言した。

「せんせー時間切れ〜!お菓子くれないからイタズラしちゃうぞ〜」

そう言って先端に星のついた杖をスネイプめがけて振った。考え事をしていたスネイプにはそれを防ぐ手だてなどない。
一瞬で、スネイプの周りにスモークが現れた。


「何をした――」

「勿論、イタズラです!」


酷く嬉しそうな恋人の言葉にげんなりしながら、スネイプは言い返した。
いや、言い返そうとした。


「きょうしにいたずらをするなど…ゆるされない……?」

スネイプは言葉がつかえて上手く話せないことに気付いた。舌がもつれてしまうのだ。
おまけに、声が甲高くなっており、まるで自分の声ではないように聞こえる。

「なんでこんなこえ……が…」

レイを見上げたスネイプが、自分に起こった変化に気がつく前に、レイは耐え切れず、歓声を上げながら抱きしめたのだった。

「やーん可愛いっ!」


小さくなったスネイプを。






「レイもどせ!わがはいには…あそんでいるひまなどない――」

「だーめ!お菓子を準備してない先生が悪いんだもん!今日は一日、チビスネです」

「かってにきめるな!わがはいはチビスネなどごめんだ」

「かわいい…なにこのかわいらしさ!スネイプ先生大好き〜!」

「!やめろ、そんなにだきしめたら――」

「今日は一緒に寝ようね〜」

「!!」



レイに抱きしめられると、小さくなってしまったスネイプの顔には、恋人の胸がぎゅうぎゅうと押しつけられていた。
その魅惑的な感触に、スネイプの怒りは光の速さでどこかへ飛んで行ってしまった。スネイプも男なのだ。日頃我慢に我慢を重ね、恋人のそんな所を触ったこともないスネイプはあっけなく陥落したのだった。

もがきながら、スネイプは心の中で思った。


(馬鹿騒ぎも…たまには良いことがあるらしい…)


そしてスネイプはこっそりと笑うと、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる恋人の背中に、短くなった腕をそっとのばしたのだった。


(手を出せないのは残念だが……レイと一緒に寝る、というのは正直非常に魅力があるな…)


(H25,10,02)


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