10 ようこそ、親世代へ
ダンブルドア校長先生が用意してくれたお部屋で一晩を過ごした。
まだ、皆に紹介していないから、寮の部屋には入れないんだって。
「明日、朝食の後、大広間でシズノを紹介するつもりじゃ。ワシの友人の子供という紹介にしようと思うておるのじゃがの、シズノ、それで良いかのぅ?」
「勿論です!何から何までありがとうございます…ダンブルドア校長先生…」
「気にせんことじゃ。それにしてもシズノや、君はとりっぷ、とやらをしたにもかかわらず冷静じゃのぅ」
校長先生が髭を撫でながら言ってきた。
冷静じゃないですよ校長先生。私、すっごく驚いたし嬉しかったから教授に抱きついちゃったもの。
「冷静じゃないですよ?嬉しくてしょうがありませんもの」
「それは君を見ていると解るのじゃが……もっと、不安がっても良いかと思っての」
あーそういうこと…。
私は、校長に笑いながら言った。だって、言っておいた方が良いよね?
「それはですね……、言っても驚かないでくださいね?校長先生…」
「それは内容によるの」
「えー……っとだから……私、初めてじゃないんです」
「初めてではない、とな?」
「ええ、そうです。私がこの世界に来たのは、2回目なんです。もっと、ずーっと先の未来に一度トリップしてるんです、私」
「なんと!そうであったか……」
「その時も校長先生は、私を温かく迎えてくださいました。ありがとうございます」
「今、未来のことで礼を言われるのは、いささか変な感じじゃのぅ…」
「あはは…そうですね。じゃあ、また明日……お休みなさい、校長先生」
「ああ、お休み…。出来れば“アルバスじいちゃん”と呼んでくれんかの?“校長先生”と呼ばれるのは苦手でのぅ…」
「わかりました!では、お休みなさい…アルバスじいちゃん……」
私がそう言うと、彼はとても嬉しそうに笑った。そうしてうなづいてくれたのでした。
あー明日、かぁ……。緊張するなぁ……。
*****
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。寮も決まっておりますし、挨拶するだけですからね」
マクゴナガル教授がそう私に優しく声をかけてくれたけど、無理だから。
だって、これから大勢の生徒を目の前にして挨拶するなんて。
どどどどどうしよう!緊張してきた…ッ
扉が開く。ああ、いよいよ、なんだわ……。
シン、と静まり返る大広間。なんでこんなに静かなんだろう。私はただ、ひたすら前だけを見ながら歩く。
檀上に上がると、アルバスじいちゃんがニコニコしながら迎えてくれた。
私は彼の横に立った。
「皆の者、今日は嬉しい知らせじゃ!なんと、はるばる遠い国から、留学生を迎えることとなった。皆、仲良くするのじゃよ。では、ご挨拶してもらおうかの」
優しく促され、私は一歩前に出た。
ううっ……凄い生徒の数。こんな大勢の前で話なんてしたことないからめっちゃ緊張するんですけど…ッ
けど頑張らないと。私は気合を入れると、挨拶をした。
「あの……初めまして。シズノ・ニイザキといいます。日本から来ました。よろしくお願いします……」
頑張って挨拶して、お辞儀をした。
けれどなんの反応もなかった。じ、地味に傷つくんですけど……。そう思っていたら。
わっと大歓声が起こった。
「組み分けはいつするんだ〜?」
「あの子、きっとハッフルパフよ!」
「違うね!グリフィンドールさ」
「あら、レイブンクローがいただきますわ?」
「スリザリンとは思わないのか…?」
がやがやと、騒ぎ出した学生達を校長先生は一言で黙らせてしまった。
「もう寮は決まっておるのじゃ。昨夜ワシの部屋で組み分けをしたのじゃからのぅ」
「「「「「ええ〜〜〜?!もう?」」」」
「ホッホッホッ……シズノや、寮はどこであったかのぅ?」
「えと……スリザリン、でした…」
「「「「ええ〜〜?!そんなぁ……」」」」
大声を出してがっかりしているあのくしゃくしゃの髪の毛の男の子は…メガネをかけていた。
あれってひょっとして……?
隣で、黒髪のイケメンさんが彼を慰めているみたい。あれは……。
しかも横で、我関せずって顔でチョコを食べている人は頬にちょっぴり傷がある。あんなに嬉しそうにチョコを食べる男の子って……。
その隣には、おどおどしたような、そばかすのある男の子がいた。あれって……。
その子達の前の方には、緑色の瞳の、それは綺麗な女の子がニコニコしながら座っていた。
とっても目立つ彼らはグリフィンドールの席にいた。ってことは彼ははいたずら仕掛け人達……?
内心ドキドキしていたら校長先生に促されてしまった。
「では、シズノ、しっかりの。寮のテーブルへ行きなさい」
「はい、ありがとうございました」
なんだか今になってから実感しだしたかも。
ここって親世代なんだってこと。
セブに逢って、その喜びに舞い上がってたけれど……彼らがいるんだ。嬉しいような、悲しいような……複雑な気持ち……。
「スリザリンにようこそ……シズノ…」
輝くようなプラチナブロンドの男の子が、私に向かって微笑んでくる。なんだかすごいイケメンさんだ。モテそう、この人。
「あ、よろしくお願いしま……す」
返事が変になってしまったのは片手を取られたから。ごくごく自然なそのしぐさは貴族的だった。
その人は微笑むと言った。
「私はスリザリン監督生のルシウス・マルフォイだ」
え……?るしうす・まるふぉいってあのルシウス・マルフォイ?
内心驚いている私に、彼はとんでもないことをしてきた。
彼はまた微笑むと、私の手の甲にキスをしてきたのだった。
ぎゃーー!!!
(H23,08,06)