1 降ってきた娘
キラキラと、輝く水面。
そよ風が、頬を優しく撫でるように吹いて。
日差しは、温かく降り注ぐ。
ここは、僕の秘密の場所。
あいつらに見つからないし、何よりも静かで、一人になれる。
だから僕は、放課後、図書室以外では、ここにいることが多かった。この、湖のほとりに。
さっき図書室で借りてきた魔法薬学の最新刊を読みながら、僕は、思索に耽っていた。
僕の、心落ち着くひと時。
そのひと時が破られるなんて、信じられない。しかも、あんな方法で……!
木陰に体を預け、本をめくる。
やはり、そうなんだな。ここはもう少し、ショートカットが可能らしい…。
僕の理論は間違っていなかったということなのだ。ということは、早速、先生にお願いして教室を使わせてもらおう――と考えていたら。
突然、読んでいた本に影が差した。
?なんだ?
僕は思わず上を見上げた。すると僕の目に映ったのは――人…間?
おかしい……。
僕の目が腐っていなければ、あの人間は箒に乗ってはいなかった。それに、ゆるやかにだが、落下しているように見える。
!!まずい!!
僕は慌てて杖を構えると呪文を唱える。どうか間に合ってくれ!!
すると、呪文はちゃんと発動したようだ。その証拠に落下がかなり緩やかになった。そして、徐々に人間の容姿がわかるようになってきた。
どうやら、子供のようだ。そして、あれは恐らく女の子だ。何故なら、スカートを履いていたから。黒い髪の、女の子だった。
どうして女の子が、空から降ってくるんだ―――?
疑問に思っている暇はなかった。女の子の体がさらに地上へと近づき、ゆっくりと、その体は地面に横たわった――ちょうど僕の隣に。
?!
その少女は、生きているようだった。
その証拠に、少女はゆっくりと呼吸をしている。唇はふっくらとしていて、肌の色は青白かった。あんな高さから落ちたのでは顔色も悪くなるだろう。
髪の毛は、僕と同じ色。しかし、僕のようにぼさぼさじゃない。綺麗に梳かれており、美しい髪だった。その髪の毛が、時折ふわりと風になびく。
そして、少女はとても可愛らしいワンピースを着ていた。薄い、ピンク色の、ウエストにリボンがついているワンピース。
この子は、ホグワーツの子ではないだろう。ということはマグルなのか?
すぐに、校長に相談に行った方が良いのでは…と僕が考えていると、突然、長い睫毛が震えだし、そっと、まるでスローモーションのように瞼が開いた―ー。
『う……ッ……ここは………』
声まで可愛らしかった。だが言語が理解できない。もしや異国のものか?
「君は誰だ?なぜ空から降ってきた―――?」
通じはしないだろうと思ったが、つい、声をかけてしまった。
するとその少女はぼんやりとした目で僕を見つめてきた。じいっと。穴が開くほど。
な、なんだ?一体。
そして次の瞬間、
『きゃー!!かっこいいセブじゃんなにちょっとこんなにミニマムな頃から眉間にシワとか超ウケるんですけど〜!』
と僕には理解できない言語でまくし立て、突然、ああ、本当に突然僕に……僕に……抱きついてきたんだ!!
「なっ…なにをする抱きつくな!!」
『あ〜セブの匂いだぁ……変わんないんだ、匂いって……』
「気色悪い!クンクンするな!」
『声変わりしかけてるの?…なんかそれって意外〜』
「だから何を言っているのかわからないぞお前!さては……ポッターの新しいいたずらか?!」
『あ、その本魔法薬学だねぇ〜……昔から好きだったんだ。ホントだったんだね…』
「………話が通じない……」
話がかみ合わない。全く。何より言語が理解できない。ポッターのいたずらにしては手が込みすぎているように感じた。
僕は、仕方なく呪文を唱えた。ポッターだったら許さん。
しかし…少女はきょとんとするばかり。
と、いうことは………、
「やはり……校長室直行か……」
魔法が効かないということは、この少女はポッターのいたずらではないということだ。
となると僕は、何故か目をキラキラとさせながら、嬉しそうに僕に抱きついてくる、得体の知れないこの少女を、校長室まで連れて行かなければならないのか。
僕は深い溜息をついたのだった。
(H23,0715)