チハアカ
2015/08/17 13:18


お久しぶりにチハアカっぽいもの書いたのですが、置き場に迷うのでここに。
ついったーで #単語と色の創作お題 http://t.co/dGxTmXqj9s なるものを作りました。最近はそれを使って自分でSS書いて楽しんでます。
本日のお題がチハアカに似合いそうだったので。

お題:『溢れる』『葡萄色』

 痛みとまでは言わないが治りきらない痣のような違和感がいつもある。正確にはいつも、ではないかもしれない。だけど近頃は気づけば君がいるので、いつも、であることと大差ない気がするのだろう。
「――でね、だから…」
 緩やかに痣を圧迫する、笑声、君と誰かの、目に見えない言葉の絡まり。
 漂う糸がここまで伸びて首を絞めるかのように息苦しい。あーあ、と吐き出したいため息さえ、僕は近頃忘れている。
(だって、ねえ)
 口を開いたら、もっと明確な何かが零れてしまいそうで。そう例えば君の座るテーブルへ行って、楽しそうだねと笑って、あんまり話しすぎないでね、このあと僕と話す約束の、そのための声だよね、だとか。吐き出してしまいそうになる。だから背中を向けている。笑声は密やかに背骨を絡めとり、手元を狂わせた。
「ッ、」
「チハヤ?」
 オレンジを切ったナイフの先が、わずかに皮膚を破る。がたんと席を立つ音がした。血が丸く滲むより早かった。
「アカリ…」
「ちょっと、どうしたの…!切ったの?」
 呆気にとられる僕に構わず、彼女は水を出して、僕の手を掴んだ。沁みるでしょ早く、と言われて初めて、オレンジの果汁の痛みを思い出す。
 そんなものより僕はただ、手首を掴んだ彼女の手と、流れる水を見ている横顔。そればかり見ていた。
(……どうかしてるな)
 ナイフで怪我をしたのなんて、何年ぶりだろう。
「アカリ、もういいよ」
「え?」
「大丈夫」
 薄まって止まる血を眺めながら、その赤さをぼうっと反芻する。鮮やかな葡萄色の、痣が溢れたかと思った。
 心臓は呼吸を取り戻している。何もなかったかのように、僕は笑った。

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