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暫く歩くと鬱蒼とする木々を抜け、少し開けた所に出たので、未だ泣き続ける少女の手を引いて歩く綾子は、
先に小さな結界の祠を見つけた為、一旦そこで少女を落ち着かせるため、少女を座らせた。

しかし、話さない設定を組んでしまった以上、どうやって落ち着かせようか迷っていると、
今までの事を上空から見ていたのか、突然大きな風とともに、道を塞ぐように、羽の生えた杏が無表情で空から現れた。

「ひっ?!」
「怖がらないで…」

突然現れた杏に驚いて、少女は泣きながら急に立ち上がると、
綾子の影に隠れるよう、綾子の背中にしがみついた。

綾子は、そんな少女にそっと肩越しに手を触れると、少女の手を握り、
少女の盾のように一歩前に歩み出た。
そんな二人を見て、相変わらず無表情で杏が声を掛けると、
ようやく話せる人に出会えたからか、少女の目からは益々涙が溢れてきた。
杏が空から現れたことすら気にならないほど、恐怖心に苛まれていた少女は、
杏が喋ったことで、一気に安心感を覚えたようだった。

「ここからは、私が案内する…おいで…」

急にそういう杏に、少女は少し前に立つ未だ手を握ったままだった綾子を見た。
綾子は、仮面をつけたままだったので、表情が見えなかったが、
涙が止まったことで、多少冷静になってきたのか、
綾子と突然空から現れた黒い羽を生やす杏を見比べた。

「そのまま黄泉の国に連れて行かれてもいいの?」
「え…?」

今まで信じて一緒にいた綾子の手を握ったまま、少女は杏の言葉に揺れ動き、
少し前にいる綾子の背中を見つめた。

「どこに誘導されているか分かってる?」
「それ…は…」
「…本当に信用できるの?」
「だって…ずっと側に…」
「それが、策略だったら?あなたが怖い目にあってたとき…その人、どうしてた?」

少女は、今まで信じてたはずの綾子に対し、杏からの言葉で一瞬で疑いを感じ始めた。
確かに、怖い目に会う時は必ずそばに居らず、怖い目に合わせた相手に接触する場面もあった。

思わず手に力を入れ、綾子の背中を見る少女の視線を感じ、
綾子はゆっくりと少女の方を振り返った。

やはり、仮面で顔を隠している為、表情が読み取れなかったが、
一瞬綾子が少女の手を強く握り返したことに、少女は決心したかのように、
再度綾子の背中にピッタリとくっついた。

「でも…でも、それを知ってるってことは、あなたもずっと見ていたんでしょ?
それじゃ、なんで助けてくれなかったの?確かに、この人が怖いのけしかけたかもしれないけど…
最後、助けてくれたもん!側にいてくれたもん!」

意を決した少女の言葉に、杏は思わず驚いて二人を凝視した。
仮面の下の綾子も驚いているのか、はたまたドヤ顔でニヤついているのかわからなかったが、
杏はため息を付いて、道を開き社への近道らしき物を出現させた。

というより、結界によって隠されていた道を、見えるようにしただけだったが、
少女には道を出現させたかのように見えていた。

「なら、この道を進むといいわ…まっすぐだから迷わないはず」
「…そう言って、あなたこそ変な所に誘導してるんじゃ…」

少女が杏を疑い始めたとき、綾子が少女の手を取って、その道を歩き出した。

「え?!ちょっと!」

驚く少女と綾子は、杏が開いた道を進んでいった。



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