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Ep.8 ひとりじゃない




――残りの魔導士は見つかった

雷撃を放つ女の子と、炎熱を纏う女の子
彼女達の名前は知らない

その子達は、魔導士にとっては敵であるアルギュロスを手助けした
突然の出来事に動けないでいる私の肩を、亜梨姉がポンと叩いた


瑪瑠「亜梨姉…」

亜梨馬「帰ろう、“梅流”。人目につく前に」


その言葉にみんなで頷く
私たちは変身を解くとその場から離れる事にした
後ろ髪を引かれるって、こういう事を言うのかな?
今はもう魔力で直っているけど、先程まで抉れていた地面を見てそう思った…













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薄暗い魔城の地下には禍々しい妖気が満ちている
吐き気を催すその空間に、橙色の髪の少女は顔を顰めた


赤髪の少女の肩を借りて歩く銀来の後ろには点々と赤い血が滴り落ちている
聖気を浴びた魔力は邪気を纏う者にとっては毒だ

ふと、行く手を遮るように、足下に黒い影が落ちる





「――――ふん、魔導士に助けられるとは情けないな銀来」




顔を上げると口角を上げて笑う少女がそこにいた
アルギュロスの四天王の一人、桜雫だ



「…何の用だ。フン、笑いたきゃ笑え」

「まぁ、そう言うな。本来なら処分される所だが――――フン、感謝するんだな、そこの魔導士達に」



チラリと二人の魔導士に視線を向ける
橙の少女は警戒を解かず、赤髪の少女は申し訳なさそうに俯く
意図的に桜雫を視界に入れないようにしているのが見て取れた
銀髪の少女は小さく舌打ちをするとそのまま長く続く廊下の向こうへと消えて行った――――…





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梅流「あの子達…大丈夫かな」



家族が寝静まった深夜
私はなかなか寝付けなかった
あの子達が気になって、仕方がない
やっと出会えた仲間だと思った
でも…あの子達はそうは思ってないのかも知れないって不安になっちゃって…

それと同時に、なんだかとても悲しそうに見えたから


ミリィ『…私からは何も言えないわ』


心なしかミリィの表情も暗くなる
「ただ」と、一拍置いてから彼女は続けた


ミリィ『何か理由があるのは間違いないと思うわ』

梅流「理由…?」

ミリィ『幻鬼から銀来の正体を聞いたわよね?彼の言うとおり、銀来は元々は位の高い神様の遣いだったのよ』


あの時の幻鬼の言葉を思い出す
神様って…神社とか、童話とかに出てくるあの神様のことだよね
私は漠然としたイメージしか沸かなかったけど、でも神様っていうのは普通は人間に崇められて、祀られて…悪い人では無いと思う
そりゃあ、悪い神様もいるだろうけど…
なんたって日本には800万も神様がいるんだし


梅流「良い人…だったの?」


ミリィが小さく頷く


ミリィ『銀狼族――聖なる力を持つ神獣の1人だった。
彼の一族は代々、貴方達の前世が住む王国を守り通して来た。
それは銀来だって例外じゃない。…だけど』


ぽつりぽつりと、窓に雨が当たる
最初は僅かだった雨音は10分もしない内に激しい雷雨へと変化した


ミリィ『…ある日突然、彼は人が変わったように破壊活動を繰り返すようになってしまった。
原因はわからないわ…ただ、何度も何度も、誰かを探しているようだった…』


ミリィは静かにそう言い終えた
…頭の中が、からっぽだ
何を言っていいのか…わからない
原因がわからないなら、どうしようもない

でも…


梅流「…ねぇ、ミリィ?銀来って、本当は優しい人なんでしょう?」

ミリィ『…ええ。彼は、貴方達の前世が亡くなった後も懸命に王国を守ろうとした…!』


そっか、やっぱり、そうなんだ
私は何かを決意するように、ひとつ大きく深呼吸をする



梅流「――じゃあ、あの人を止めよう。本当なら、こんなこと絶対にしたくない筈なんだから」



自分でも驚くほどに、はっきりとそう告げた
だって、おかしいもの
誰かを守りたいと願った人が何の理由も無しに誰かを傷つけたいと思うなんて、そんなのおかしいよ
最期まで抗った神様なら、こんなことはきっと望んでいない…


ミリィ『梅流…でも、』

梅流「大丈夫だよ、ミリィ。…私にはわかるの」


多分、きっと…
銀来だけじゃない
他のアルギュロスも、みんな何かしらそうなってしまった原因がある
それを確かめないで、何も知らないままで…粛清しようとするのは私はあんまり好きじゃない



ミリィ『…わかったわ。明日、みんなに話してみましょう』

梅流「うん!ありがとう、ミリィ!」

ミリィ『お礼を言うのはこっちの方よ。あなたのおかげで、私も大事な事に気付けたんだから』


そう言ってミリィははにかんだように笑う
綺麗なエメラルドのような瞳が、眩しく見えた




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