壱拾壱 食事




「ただいまー」


PM8:00
南野家の大黒柱である南野秀一もとい蔵馬が帰宅した
帰宅した途端、彼は家族の物ではない妖気を感じる


「…?」


不快な気配でも、悪意のある物でもない
“碧か紅光がどこかで妖獣でも拾ってきたかな”
そう思い、リビングへの扉を開いた



そこには見知らぬ少女と――少年が、いた
(少年のほうは誰かに似ている気がした)


「お…お邪魔してます」


おどおどと少女が頭を下げる
それに倣うように少年も頭を下げた
蔵馬が口を開こうとした時、梅流の声がちょうど重なった


「あ、おかえり蔵馬!ちょうどよかった、今からご飯にしようと思ってたの」

「ああ、ただいま梅流…って、名前――」


蔵馬は普段、“秀一”という名前で通っている
“蔵馬”という名は彼の妖怪としての名前だ
故にその名前は“蔵馬”に関する者だけが知っている筈だが――


「この子たちなら大丈夫だよ。ちゃんとこっちの事情を知ってるから」

「そう…なの?えっと、名前を聞いてもいいかな?」

「あ、はい…私は華燐と申します。こっちは弟の杢火です。ほんの少しの間ですが、お世話になります」


お世話になる、という事はしばらくこの家に住まうという事だろうか…?
優しい梅流の事だ
きっとそれがS級妖怪だとしても頼み込まれてしまえば容易に受け入れてしまうかも知れない
幸い、この二人からは邪悪な妖気は感じない
蔵馬とて人間界の生活に慣れたとは言え、経験は誰よりも豊富だ
彼らがどのような人物かは一目見ればわかる
蔵馬は華燐と杢火を交互に見やると柔和に微笑んだ


「そっか、何か事情があるんでしょう?」

「は、はい…」

「それなら仕方ない、かな。どうぞゆっくりしていってくれ、ふたりとも」


蔵馬の返答にホッと胸を撫で下ろす


「蔵馬、悪いんだけど碧と紅光を呼んで来てもらえるかな?ちょっと手が離せなくて…」

「ああ、わかった」


二人を呼びに行くと明日の予習をしている最中だった
「もう少しで終わるから」と渋る碧を優しく宥めてリビングへと促す
蔵馬はその真面目ぶりに思わず苦笑した
幽助や桑原に言わせると蔵馬も人の事は言えない程の真面目な性格である


今日の夕飯はバターライスのオムライス、カリフラワーとブロッコリーのサラダ、枝豆の冷製スープ、それからデザートにラズベリーのタルト
何れも梅流のお手製だ

次々と並べられる豪勢な料理に華燐は目を輝かせる
早く食べたいのを悟られないようにうずいてる姿に梅流はクスクスと笑った


(女の子がいたらこんな感じなのかな…?)


梅流はまだ知らない
今から約1000年後に蔵馬との間に男女の双子が生まれる事を

だが、今はまだ見えない未来だ
その話はきっとまた後日になるだろう


「さぁ、どうぞ召し上がれ〜♪」


その声を合図に蔵馬と子供たちはいただきますと手を合わせ食事を始める
四人の様子を見て華燐と杢火も手を合わせる


「いただきます!」

「…いただきます」



オムライスを一口分スプーンに掬い口へ運ぶ
丁度良く柔らかくなった卵とバターライス特有のまろやかな味が口内に広がる


「す、すごく美味しいです!」

「えへへ、そう?ありがとう。おかわりならあるから、どんどん食べてね」


碧と紅光が驚く位に華燐はパクパクと匙を進める
蔵馬と梅流はそれをあたたかく見ていた


この世界では本来は存在しない子供達
実の母と父にあったとしても、彼らは自分たちの存在を知らない

その事が二人の心を苛む
だが、今は、今この時だけは――――



あたたかい家庭の中で、穏やかな時を過ごして欲しい



梅流は、そう願わずにはいられなかった




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