壱拾四 夢現



紅光達が“黒い水”に襲われた翌日――

街から離れた空き地に碧、寵、蛍明、そして蓮が集まっていた
昨日あんな事があったばかりだ
いつどこで自分達も同じように襲われるかも解らない
その際に一般人を巻き込まないように、こうして人気の少ない所で緊急会議をしている


碧は昨日紅光から聞いた事を彼らに説明する
月雨が提示した“魔女”とは只の通称である可能性のことも


黙って聞いていた蛍明が重々しく口を開く


「碧、寵…お前たちも見ただろう?あの華菜の眼を」

「あれは普通に生きてきただけじゃ出来ない眼だ…」


脳裏に紅い光を湛え、憎しみを灯す華菜の瞳が蘇る
彼女は今この瞬間、碧達にとって倒すべき敵となったのだ


「正直、半信半疑だった…でも、姉さんや紅光さんまで襲われたのなら――」

許せない、と
温厚な寵さえもそれに同意した
彼らにとって身内を――大切な人達を傷付けられる事は決して許してはならない事だった

寵の言葉に蛍明と蓮、それぞれが頷く
だが、ただ一人…碧だけは何かが引っ掛かっていた

眼を閉じ、静かに思い出す
浮かんでくるのは気紛れに表情を変え、我儘に碧を振り回す華菜の顔
それはただの少女と何ら変わりはなかった


だからこそ――断ち切らねば、ならない


向こうがその気なら、こちらだって黙ってはいられない
ガラスに映った華菜の笑顔に罅が入り、高い音をたてて割れる
そのまま崩れ落ち、ガラスの向こう側には何もない真っ暗闇が佇んでいた

スッと眼を開く


「――ああ。アイツは、俺たちで倒す」





「――ふぅん、面白い事を言うのね」


その声にバッと振り返る
今しがた話題に上がっていた少女がニコニコと微笑んで立っていた
長い夕闇色の髪が風に靡く


いち早く、蓮が彼女に飛びかかる
父親譲りの剣技で華菜を切り裂いた


…筈、だった


「!?」

「ふふ、どこ狙ってるの?」


――まさか、そんな筈はない


華菜は傷ひとつ付かず、蓮の背後で嘲笑った



それは“有り得ない”光景だった


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