エピローグ 幸せの花束


「も〜碧ったら、もう7時半だよ!?学校遅刻しても知らないよ!」




あたたかい日差しがカーテンの隙間から差し込んでいる
梅流はバッとカーテンを開ける
ベッドの中にいた少年はその眩しさに眼を細めた


「あーあ、また目覚まし時計壊しちゃったの?まったくもう…!」



“碧”と呼ばれた少年の枕元には無惨な姿に変わった目覚まし時計が転がっている
梅流は溜め息をつきながら、最後の手段をとった



「今日の朝ご飯は碧の大好きなホットケーキなんだけどな〜」



ガバッと勢い良く碧が起き上がる
そして、大きな欠伸をすると寝起きで覚束ない足取りでベッドから降りた


「…おはよう、母さん」

「おはよう、碧。ご飯の前に、顔洗うんだよ?」

「は〜い…」



洗面所へ向かう最中、スーツ姿の青年――蔵馬と擦れ違った


「おはよう、碧」

「おはよう、父さん」

「また目覚まし時計壊しちゃったのか?」

「ん〜…だってうるさいんだもん…」

「そりゃあ、目覚まし時計はうるさいものだからなぁ…」


蔵馬はそう言って苦笑した
碧は、運動能力が人間離れしているので少し寝坊したくらいで遅刻したことはなかった
だが、寝坊というのは直さなくてはいけない
我が子ながらどうしたものか、と蔵馬は頭を抱えるのだった

顔を洗い、キッチンへと向かうと既に兄である紅光がテレビを見ながらホットケーキを食べていた
互いに朝の挨拶を済ませて席へと座る


「もう、碧ってばなかなか起きないんだから…」

「碧、あんまり母さんを困らせちゃ駄目だよ」


梅流の苦言に紅光が碧を諭す
碧は唇をとがらせ、仏頂面で頷いた






―――これが、いつもの南野家の光景だった




碧と紅光、蔵馬を送り出した後、梅流は清々しく晴れ渡った青空を見上げた













―――…ねぇ、裟羅ちゃん、両刃さん、聞こえる?


梅流ね、いますっごく幸せだよ!

大好きな蔵馬と結婚して、同じくらい大好きな子供達…碧と紅光っていうの、あの子達が生まれて…


毎日がドタバタだったりするけど、それでも、すごく幸せ


何よりも、大好きな人たちと一緒にいれるってことが、梅流にとっては嬉しいんだ



あ、そうだそうだ!
あれから白狐の森は順調に回復していって、今では元通り立派な森になりました!


お兄ちゃんやお姉ちゃん達も、それぞれの大切な人を見つけてみんな幸せに過ごしているよ
たまにみんなで会ったりもするんだ!

それと、琉紅のことなんだけど、琉紅も蔵馬達のおかげですっかり元気になったよ!
なんとなんと、今度飛影との間に赤ちゃんが生まれるんだって!
びっくりだよねぇ〜…!
でも、この二人は梅流もひそかに応援していたからやっぱり嬉しいなっ


他のみんな…蔵馬のお友達も、みんなみんな、幸せに過ごしているんだよ


だから、安心してね

私達なら、大丈夫…



悲しいこと
苦しいこと

この先にいっぱい待ち受けてると思う

でもね、梅流達なら…そんなことへっちゃらだよ!



大切な人がそばにいるだけで…乗り越えられる
大切な人がいるから…頑張れる




そう梅流に教えてくれたのは、蔵馬や琉紅…
それに、裟羅ちゃんや両刃さん達、みんななんだよ



私達は、待っているよ

あなたたちにもう一度出会えることを



今はきっと、この青い空の向こう側にいるあなたたちを

ずっと待っているから





みんなと一緒に、幸せになろうね――――





青い空に、白い雲が浮かんでいる
その雲は、まるで寄り添う二匹の猫のように見えた

梅流はそれを見てふわりと優しく微笑んだ



花のように明るく、美しい笑顔だった―――…




END

- 48 -


[*Prev] | [Next*]
*List*


Home


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -