「ごめんね…私も、結局…バカ、だからさ…今さら、こんなこと、言える立場じゃない…」



裟羅の手が、瑪瑠の頬から力無く滑り落ちる
徐々に裟羅の眼から“生”という光が消えて行く





「………ありがとう」







その言葉は、瑪瑠に向けたものか、両刃か、幽助か…
誰にも解らなかった
裟羅は優しい笑顔のまま…息を引き取った




「あ…っ!あぁああぁああ…!!!」


裟羅の身体を抱きしめ、涙を流す瑪瑠
その涙は透明で美しかった



「…見たか、両刃。これが、裟羅の“死”だ。これは…お前の望んだ姿か?お前の望む裟羅の姿か!?」


蔵馬はそう言って両刃を睨む
小さく震えながら跪き、裟羅の顔を覗き込む両刃


「…ちがう、こんな、結末は…僕は、望んでなんか、いない…!」


彼女の笑顔が余計に彼の心を抉る
瑪瑠はそっと裟羅の躯を両刃に受け渡す
裟羅を抱きしめ、両刃は嗚咽を漏らした

何度も、何度も、彼女に謝罪を繰り返す

愛しかった者が、目の前で、自らの手によって消えて行く
それは両刃が望んでいたものだった
だが、今は―――今は、違う
少女の躯が酷く冷たく、悲しくて仕方なかった


「ああ…君は、僕のことをこんなにも、大切に想っていてくれたんだね…」


両刃は顔を上げて瑪瑠と蔵馬を見た


「それじゃあ…僕も、僕のやるべき事をやるよ…」


―――きっとこれが、僕と君とを繋ぐ最後の“仕事”だ



再び彼の手に黒い光が宿る
それは影で出来た刃のような形に変わる
ニヤリと笑う両刃がそれを振りかざす


「きゃああああああっ!!!」

「瑪瑠!!」






『ザシュッ!!!!!』

















その刃は、瑪瑠達を貫く事はなかった
彼は、その刃を…自身の胸へと突き立てたのだ


鮮血が吹き出て、両刃の黒い髪や裟羅の白い肌を濡らして行く
ゴボゴボと口内に含み切れなかった血が溢れ出てくる

―――それでも、両刃の顔は幸せそうだった


裟羅を抱きかかえ、覚束ない足取りで歩き始める
瑪瑠も蔵馬も、その光景を黙って見ているしかなかった


やがて、両刃は柵も何も無い崖へと辿り着いた
彼が歩いた後には、赤黒い血の跡が残っている


ゆっくりと瑪瑠達の方へ振り向き、笑う



「…次は、二人とも幸せに生まれてくるよ。君たちは、僕たちの分まで、幸せになってくれ…」



―――そう言って、両刃は崖下へと裟羅諸共身を投じた
相当な高さがあるのだろう
二人が落ちた音は、聞こえなかった







「…瑪瑠」

「二人とも、これでようやく…幸せに、なれるんだね…」

「…そうだな。次にあいつらに会う為に、俺たちはやらなくてはならない事がある」

「え?」




瑪瑠が蔵馬の方を振り返った瞬間

唇に柔らかい感触が触れた
その感触はすぐに離れたが、それが何かを理解するには充分だった




「あの二人の為にも、俺たちは幸せにならなくてはいけないんだ」

「蔵…馬…」


蔵馬のあたたかい腕が瑪瑠を抱きしめる





「…おかえり、瑪瑠」


「…ただいま、蔵馬…!」











―――“さよなら”は、言わないよ

―――きっと、また、あなたたちに会えるって信じてるから

―――その時は、私達も今よりもっと幸せになるよ




―――そして、あなたたちも、もっともっと、幸せになれる筈だから…







幸せになることを約束した二人の妖狐の上に白い雪が舞い落ちる
それはまるで、幸せを願った二人の妖猫を天へと導いて行く天使のように思えた






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