第9章 炎


蔵馬と梅流が両刃と対峙していた時
白狐の森に、招かれざる客が来ていた

その事に最初に気づいたのは、長兄である麓であった
白い耳を物音を聞き取りやすいようにピンと立たせる

「麓兄、どうかしたの…?」

いつになく真剣な表情の麓を心配して流蘢が声をかける
麓は流蘢の言葉を遮るようにその唇に人差し指を当てた


「…妙な気配がするんだ」

「気配?」

「ああ…」

麓に倣って流蘢も耳を澄ます
しんしんと降りしきる雪の中、音が吸収されてしまい何の音も聞こえない

必死に五感を研ぎ澄ます


―――刹那、静かな森の中に刃のように鋭い殺気が走った


その殺気の方に顔を向けるが、そこには誰もいなかった
心臓が張り裂けそうな緊張を破るように背後で大きな爆発音が聞こえた



「…しまった!」


―――あの殺気は、囮だったのか…!!


炎により、雪が溶け地面の色が露出する
パチパチと爆ぜる音と木々が焼かれていく匂いに森が包まれる
この白狐の森は、結界に守られている
それはちょっとやそっとの力では壊れたりはしない


「それを打ち破る程の力を持った奴が…!この森を…!!」

麓が悔しそうに拳を握りしめる
だが、今は悔やんでいる場合ではない
一刻も早く、この森を炎から守らなければ…!


その時、麓の後ろからまるで幼子のような笑い声が聞こえた




「あっははははは!!これが白狐の森?たいした事ないんだねぇ」





水色の長い髪を、ひとつに束ねた少年がそこにいた
碧色の和服に頭には長い2本の角

―――この種族は…



「…鬼…」

「いやだなぁ、只の鬼じゃないよ?『鬼神』と読んでほしいな」

「この炎は、お前が…」

「当たり前でしょう?あははは、あんなちゃちな結界、僕の炎であっという間に燃え尽しちゃったよ」


笑い続ける少年を麓がキッと睨みつける
その眼光に少年は更に口角をつり上げた
鋭い犬歯がわずかに見える

麓は流蘢に視線を送ると手早く命じた


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