第8章 “やみ”





カラスは昔、とても美しい銀色だったそうだ



それが何かの神の怒りを買い、罰として聖火に炙られ真っ黒に焦げちまったんだと






オイオイ、それじゃあ






最初から真っ黒だったオレは、存在そのものが『罪』だったとでもいうのかい?








―――――――――

――――――






梅の木の下で、しばらくの間、蔵馬は梅流を抱き締めていた



その周りを、舞い散る花びらが月明りに照らされてキラキラと光る


それはまるで真珠のようだった



風が梅の香りを乗せて蔵馬と梅流の髪を弄ぶ

波打つ梅流の髪を蔵馬の綺麗な指が撫でる



まるで、腫れ物に触れるような優しさだった




「落ち着いた?」

「うん…ごめんね、いきなり泣いちゃって」

そう言って、どちらからともなく離れた


「構わないよ。君が泣き虫なのは、オレがよく知っている」

「そ、そんなぁ・・・!」

梅流の顔が赤くなるのと、蔵馬が笑い出すのはほぼ同時だった


梅流の涙は、いつの間にか引っ込んでいた




それから一通り笑った後、蔵馬は踵を返した


そして梅流の方へ顔を向け、ここへ来る前と同様に手を差し延べた






「さぁ、みんなのもとへ帰ろう。梅流」



柔和に微笑む蔵馬に梅流の顔も明るくなる



「うん!」

頷き、その手を取る


蔵馬の手の温もりが伝わって来る


蔵馬もまた、梅流の温もりを感じていた


不意に、梅流がまた自分のもとから居なくなるような気がして、手を握る強さを強めた


梅流が不思議そうに蔵馬を見る



「・・・蔵馬・・・?」

「・・・ごめん。・・・なんでもないよ」



―――これ以上、梅流を不安にさせる訳にはいかない・・・―――


そう思った蔵馬は、即座に先程自分が考えた残酷な妄想を振り切った










それでも無意識に何度か彼女の手を強く握っていた








――――――
―――――――――





あの梅の木から、しばらく歩いた時だった





急に、風が強く舞い始めた






(この風は・・・・・・!)




蔵馬は咄嗟に梅流を強く抱いた



「く、蔵馬!?」


急な蔵馬の行動に梅流の顔が真っ赤に染まる


蔵馬は強風の中である一点を見つめながら呟いた






「ついに来たか・・・」





その瞬間、強風の中にうっすらと影が現れた



「きゃ・・・っ!」


梅流が小さく悲鳴をあげ蔵馬にしがみつく



影は黒い人型になると、数体で蔵馬と梅流を取り囲むような形になった




数は、7、8体


どれも顔や髪が付いてなく、真っ黒で異様な光景だった

「く・・・蔵馬・・・!」


怯えた梅流が蔵馬の服を強く握り締める



蔵馬は、梅流を安心させるように微笑むと自らの襟足に手を伸ばした


「大丈夫、オレに任せて」

「でも・・・っ!」






その時、影が一斉に蔵馬と梅流に飛び掛かって来た




「きゃあああああああッ!!!」




強く目を閉じ、蔵馬の胸に顔を埋める







―――刹那、何かが切れるような音が広がったかと思うと、同時に強風が止む気配がした







「梅流、もう大丈夫ですよ」



そう蔵馬に促されて恐る恐る目を開ける


「あ・・・あれ!?」



そこには、強風も黒い影も見当たらなかった



あるのは、先刻と変わりない静かで広い真っ白な雪原だけ





大きく目を開き、驚いている梅流に蔵馬が言う


「ね?何にも無いでしょう?」




それに対して梅流が尋ねた



「蔵馬が・・・やっつけたの?」

「・・・怖いと思いましたか?」

「ううん・・・ッ!どうやったかは、わからないけど、蔵馬がやっつけてくれたんだよね!?スゴい!強いんだね、蔵馬!!」


怖がらせたと思っていた蔵馬は、梅流のその回答にやや驚きながらも『ありがとう』と返した


―――その時だった










「見せつけてくれるねぇ。羨ましいじゃないの」







後方から強い妖気を感じて振り返る





そこには、闇の様な黒髪に、ロングコートを羽織った青年が立っていた




血のように赤く染められた長い爪をガリガリと囓っている



一見普通の人間に見えたが、よく見ると獣の耳やふたつに割れた尾が生えていた






蔵馬は青年を見据え、努めて冷静に問い掛けた





「両刃(モロハ)・・・・・・一体何のようだ」


『両刃』と呼ばれた青年が爪を囓るのを止め、首をカクンと傾ける



「・・・『何のよう』、だあ?どうしてそんな分かり切った事聞くのかなぁ?」


両刃が口角を吊り上げて再度爪を噛み始めた

ギリギリと音を立てたそれは、やがて小気味良い音を立てて割れた





「本当はさぁ、オレがお前を殺したいんだよ、ねぇ?でも、さぁ?『あの人』から命令されてて、オレも手が出せない訳よ。『あの人』はね、『アイツ』の大切な仲間とその仲間の大切な奴を殺したいんだって。きっと、気持ちいいよ、ねぇ?気に食わない奴の絶望に満ちた顔が見れるんだよ?ソレって素晴らしくない?」

両刃は折れた爪のかけらを蔵馬に向かって投げた

蔵馬はそれを片手で弾くと、眉をしかめながら言った


「本当・・・毎度毎度、お前らの“良い趣味”の嗜好には反吐が出る」



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