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26



『わあー!海だー』


駅を出てすぐに視界に入るのは青い海、磯の香りが鼻腔をくすぐる。

灼熱の太陽に青い海、白い砂浜とくれば夏休みだし、遊びに来たのだと思われるだろうけど…


「オイ、苗字置いてくぞ」

『ごめんごめん。置いてかないで裕也君』

「荷物重くないか?」

『大丈夫です!ありがとうございます木村先輩』


私は今、バスケ部の合宿に同行している。

何でも1軍は毎年ここで調整合宿をするというのが伝統らしく、例によって今年もある。

臨時のマネージャーの私がついて行っても良いのかと思って、聞いてみたら「むしろ来てくれないと困る」と必死な顔の2・3年生に口を揃えて言われた。

そして現在に至るという訳だ。…でもどうしてあんなに必死だったんだろう?


それから私達は宿泊先の波切荘に着いたんだけど…


「げぇっボッロー…」

「高尾うるさいぞ」


高尾君の言葉通り確かに…中々古風な宿だ。

少し呆気に取られていると「入るぞー」という声が聞こえたので後に続いて中に入ろうとしたら…ある物が目に入った――誠凛高校バスケットボール部様という歓迎看板が。

もしかして…?そう思った矢先、


「なぜここにいるのだよっ!?」

「こっちの台詞だよ!!」

「秀徳は昔からここで1軍の調整合宿すんのが伝統なんだとー久しぶりー」

「お久しぶりです」

「それがお前等はバカンスとはいい身分なのだよ…!!その日焼けはなんだ!」

「バカンスじゃねーよッ!!」


…とまあこんな感じでワーギャーと聞こえるからどうやら黒子君達がいるのは間違いない。

まさか誠凛と合宿先が同じだったとは…これは何かありそうだね。

あれ、そういえば急に静かになった?

そう思い廊下を進んでみると――前にお好み焼き屋にいた誠凛のマネージャーさん?が何故か包丁片手に血まみれで立っていた…え、サスペンス?


「お前の学校はなんなのだよ黒子!!」

「誠凛高校です」

「そーゆーこっちゃないのだよ!」

「あれっ!?秀徳さん!?てかこれケチャップよ」


一応、今は朝だからこんなに騒がしいのはどうかと思うけど…まあこれはしょうがない。

というかどうしたらあんなにケチャップが付くんだろう…。いや、それはこの際考えないでおこう。

戻っていく彼女の後姿を眺めながら私は黒子君に声をかけた。


『黒子君、久しぶり…でもないか』

「苗字さん!やっぱり来てたんですね」

「ん?あ、黄瀬の彼女!」

「えっ、名前さん黄瀬と付き合ってるんすか!?」

『いや、付き合ってないよ。そういえばちゃんと自己紹介してなかったね。秀徳2年の苗字名前です…一応中学は黒子君と緑間君と同じ帝光。よろしくね、火神君』

「うっす」


差し出した手を快く握手してくれる火神君…この子、思ったよりいい子だ!

薄っすらと感動しているとどうやら誠凛は朝ご飯がまだだというので食堂へ行ってもらった。

私達の方は各自部屋に荷物を置いて再び集合すると借りることになっている体育館へと向かった。


* * * * *


何かありそうだという私の予想はその日の午後に現実となった。

合宿中、体育館練習は秀徳と誠凛の合同練習となった。

何でも誠凛のあの女の子はマネージャーではなくカントクだったらしく、彼女が話を持ちかけたらしい。

そして、こんな話を抜け目ない中谷先生が断る訳がない。

王者と呼称される秀徳は昔から研究し尽くされているのに対して、去年出来たばかりの誠凛は2年連続でインターハイ決勝リーグに進出しているものの、強豪校とは未だ言い難い。故に情報量がかなり少ない。

だから秀徳にとって利益があるのはわかる。でも、逆に…誠凛には確かなそれがあるようには思えない。

だからといって何の目的もなくこんな博打をするはずもないし…一体何を…


「よおし、じゃあ始めるぞ!!」


早速試合を始めようと両チームの選手がコートに入っていく中…火神君がカントクさんに呼び止められたかと思えば、そのまま体育館から出て行ってしまった。

どうやら砂浜を走るように指示したらしい…なるほど、こっちはそういうことね。

とても女子高生とは思えない的確な判断力と洞察力…彼女が誠凛の強さの一端を担ってるのは間違いなさそうだ。


それから試合が始まり私はスコア付けをしていると…

黒子君と緑間君が1on1!?

黒子君がボールを持った…今までこんなのは見たことがない。

彼がするミスディレクションという技は最も意識が集中するボールという物体に相手の視線を誘導させることで自分の存在感を薄くというものだ。

だからボールを持っては意味がない…一体何を考えてるの?黒子君…。

あっさりとボールは緑間君に奪われてしまい、そのままシュートが入った。…緑間君機嫌悪そうだなあ…。

何か黒子君に言ったようだけど残念ながら会話は聞き取れない。

まあ彼のことだから何か厳しいことを言ったんだろうけど。

黒子君も火神君も…いや、誠凛というチーム自体が変わろうとしているのかもしれない。

桐皇との試合での敗北はやっぱり大きな影響があったのだろう…それに。


『久しぶりだね、木吉君』

「おおー苗字!秀徳にいたんだなあー」


休憩時間になり無冠の五将の1人“鉄心”木吉鉄平に話しかけた。


『うん。私も木吉君が誠凛にいてビックリしたよーこの前の試合では見かけなかったし』

「ああーこの前やっと退院してな、復帰したばっかなんだよ」

『…そうだったんだ。…膝、だよね?』

「よく分かったな。流石だな」


自分のことなのにあっけらかんと言う木吉君は相変わらずだ。

見ただけだけど、彼の膝の状態はたぶん完治している訳ではないのだろう。同じチームだったら私は絶対に止めていると思うけど…それでも彼がここにいるのはそういうことなんだろう。


『変わんないね、木吉君は。初めて会った時から全然』

「そうかー?それなら苗字の方だと思うけどな俺は」

『え?』


意外な発言に驚く私に木吉君は言葉を続ける。


「昔から優しいだろ苗字は。今だって別のチームの俺の心配までしてくれてるしな」

『そんなことはないけど…』

「謙遜はよくないぞ?それにチームのために一生懸命なのも変わんない。いいマネージャーだよ」

『…ありがとう』


今、顔がとてつもなく熱い。だって…木吉君が天然なのは知ってるけど、流石にこれは…照れる。


「ん?大丈夫か?顔赤いけど」

『だっ、だだ大丈夫だy「苗字!ちょっとこっち来い!」えっ、裕也君!?』


顔を覗き込まれて益々動揺していた私は、急に現れた裕也君に腕を掴まれたと思えばそのまま引っ張られる。

漸く立ち止まったかと思えば…


「お前、木吉と知り合いなのか?」

『う、うん。前に中学の時試合で会ってからの知り合いだ、よ?』


何故かとても不機嫌な顔で聞かれたので思わずどもった口調になってしまう。

そういえば前に宮地先輩とも似たようなことなかったっけ?


「ふーん…」

『それがどうかしたの?』

「はあー…まあいいわ。そろそろ練習再開だな、戻るぞ」

『…?そうだね』


はっきりとした答えがないまま戻る裕也君を不思議に思いながらも私も彼に続いて仕事に戻ることにした。


「(…木吉とも知り合いとか本当に洒落になんねえな…合宿も気抜けねーわ)」


裕也がこんなことを思っていたことを名前は勿論知る由もないのであった。


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