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09



「さあ苗字…詳しく聞かせてもらおうじゃねぇか?」


目の前に立つ、いつも以上に青筋を立てていらっしゃる裕也君を目にするまで、昨日自分が言ったことをすっかり私は忘れていた。完全にヤクザのようなその言い回しに突っ込む余裕はない。

緑間君と二人で話したのは昨日のこと。そして夜が明け、今は翌日の朝。


(そういえば昨日裕也君放置して帰ったんだった…)


『ええー?何のこと?裕也君に話さなきゃいけないこと何かあったかなー?』

「そうかそうか。木村さんから軽トラでも借りてくるか、お前を轢くのに」

『…ごめんなさい。話します』


一応、誤魔化そうと試みはしたけど呆気なく失敗に終わった。というか裕也君の目が本気で怖い。

しょうがない、昨日今度詳しく話すと言ったのは確かだし。


あまり人が多い教室で話すのも何なので、『とりあえず昼休みまでは待って』と頼み、不満そうながらも頷いてもらう。

そして昼休みになってから、私達はとりあえず屋上へと移動することにした。そう、そこまではよかった。

階段を上って屋上の扉を裕也君が開ける。
が、何故か彼はすぐにそれを閉めて「別の所行くぞ…っ」とこれまた何故か焦るように階段を下りようとする。

訳がわからないがとりあえず私も後について行こうと思って一歩下りたその時、


「ちょっww何で閉めるんすか裕也さんwww」

『高尾君?』

「あっれ名前さんもいたんすか」


閉めた扉が再び開いたかと思えば、そこから現れたのは高尾君だった。なるほど、裕也君の不自然な行動は高尾君がいたからだったらしい。

というか高尾君がいるなら、


「何をしているのだよ高尾」

『緑間君もやっぱりいたんだね』

「名前さん!」


やはり緑間君もそこにいた。どうやらルーキーコンビは存外仲が良いらしい。

そして隣の裕也君は緑間君を見るなり更にげんなりとして溜息を吐いている。いや、君の後輩でもあるんだからね一応。


『…ねえ裕也君、気落ちしている所悪いんだけど、とりあえずここで話してもいい?』

「はあ…っ!何でだよ…!?」

『説明は一気にした方が楽でしょ?たぶん高尾君も聞きたいことあるだろうし』


ね?と高尾君に問えば一瞬驚いたように見えたけど「そりゃあ色々と」と興味津々という感じだ。私と緑間君のあんな物々しい空気を見ていたのだから当然だ。


『ほらね?』

「チッ…わかった。だけど高尾は後でシメる」

「ちょっww俺の扱い酷くないっすかww?」


ゲラゲラ笑う高尾君に「うるせえーっ…!」と蹴りを入れる裕也君。うん、暴力はよくない。痛そうだ。

それを横目に、フェンスの辺りに腰を下ろすとさっそく本題に入る。


『それじゃあとりあえず…何から聞きたい?』

「はいはい!名前さんと緑間はどういう関係なんすか?」

「うっせーぞ高尾!…まあ俺もまずはそれだな」

『関係っていうほどのものじゃないけど、一応中学の先輩後輩で同じ部活だったかな』

「え、じゃあ名前さん帝光の男バスにいたんすか?」

「名前さんは俺達のマネージャーだったのだよ」

『そういうこと。だから緑間君はもちろんキセキの世代はみんな後輩だよ』


さらっとあたり前のように言ってるけど、実際“あの”キセキのみんなと同じ学校だったんだよね私。

数年前のことだったのに随分昔のことに思える。


『まあ今は連絡取り合ったりとかしてないけどね。緑間君とだって昨日偶然会って吃驚したくらいだし…いたのは知ってたけど』

「…!?どうしてですか?」

『裕也君が今年の1年が生意気だの、おは朝だの、ラッキーアイテムだのって毎日怒ってたから』

「ブフォwww完全に真ちゃんじゃんwww」

「煩いのだよ高尾…っ!」

『まあ高尾君のことも言ってたけどね、色々』

「おい苗字!…それより何で俺に帝光出身なの黙ってたんだよっ」

『聞かれなかったからいいかなと思って』

「よくねえよ…っ!」


わりと強めで小突かれる。暴力反対だし裕也君、手出すの早い。

もちろん本当の理由は違う。だって帝光の元マネージャーなんて言えば確実にバスケ部に誘われるだろうし、私は…。


『…それより他に何か質問ある?』

「あ、じゃあ高尾チャンから2つ目の質問でーす!裕也さんと名前さんは付き合ってるんですかー?」

「はあ!?…てめっ…高尾ふざけたこと言ってんじゃねえよ…っ」

『私と裕也君?ううん、付き合ってないよ』

「じゃあ好きな人はいますか?」


好きな人…好きな人…。

一瞬だけ脳裏に思い浮かんだ人物。でも…


『…ううん。今は誰もそんな人はいないかな』

「!…」

「えっ今「高尾、そろそろ教室に戻るのだよ」


突然立ち上がって踵を返した緑間君。それに驚いた高尾君も挨拶もそこそこにすぐに彼の後を追っていった。


「アイツ急にどうしたんだ?」

『まあ、そろそろ昼休みも終わるし私達も戻ろっか』


怪訝な顔をする裕也君を促して私達も屋上を後にする。

緑間君の真意はもちろん裕也君にはわからないのは当然だ。

だってあれは彼なりの私への気遣いだったのだろう。

それにしても全知全能のような赤司君やそういうことには聡い黄瀬君はともかく緑間君はそういう事に興味なさそうだから知ってたのはちょっと意外だったかも。


『まあ…もう昔の話だけどね』


小声で呟くのはまるで言い聞かせてるようだけど違う。それは紛れもない事実だから。


「?今何か言ったか?」

『何も言ってないよ。気のせいじゃない?』


本当は言ってるけど。まあ誤魔化しとこ。

昔は昔で今は今。

今が楽しければそれで良い、人ってそういう生き物じゃないだろうか。

紛れもなく私もその中の1人、ただそれだけ。


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