拝啓、転入生くん。///

「揚羽はいつも大人っぽい」

 父と母に幼稚園のころに言われた。手がかからないおとなしい子だと。父と母はそんな私を愛してくれていた。
 担任の先生に小学生のころに言われた。いつも周りのお友達をよく見ているいい子です。通信簿にはそう書かれていた。
 クラスメイトに中学生のころに言われた。誰かと喧嘩するなんてことはなくて、だれとでも仲良くなれて、頼りになると慕ってくれた。

 違和感はなかったそうだ。それはどこかおかしいと思っているのかとそれとなく尋ねたこともあった。みなが違う違うと笑って答えてくれたので、その時は安心した。

 曰く、他の同い年の子たちと比べると、いつも突出して落ち着き払ってみえるのだそうだ。堂々とはしているし、根暗というわけでもない。周りの声をよく聞いていて、意見を述べるときは述べるが、衝突したあとに必ず調停する。そういう動き方。

 皆を助けながらそこにいる姿。そういうところが、うまく言い表せなくて、皆が口をそろえて「大人っぽいね」と言ったのだ。

 身に染みていたのだと思う。ずっと、そうしてきたから。


「揚羽〜! 聞いた? 転入生の男の子!」
「転入生?」
「そうそう!昼休みに聞いたんだけどさ、ちょーイケメンきたって!」
「それ、前も言ってなかった?」
「まぁね!」

 彼女は友人の一人だ。偶然ながら小学生からずっと同じ進学先を選んでいるクラスメイトだ。彼女はいわゆるミーハーなメンクイというやつで、学校の中の誰がイケメンだったやかっこいいといったことをこうして教えてくれる。
 その彼女がいうのだから、転入生はさぞや話題性に富んだイケメンなのだろう。

「銀髪らしいよっ」
「うちの学校、結構いろんな髪色いるよね」
「美男美女も多いしね〜」

 そうだね、と言葉を交わしながら歩いていく。通り過ぎようとした教室のドアがカララ、と音を立てて開かれる。中から出てきた生徒とぶつからないようにとちらりと視線を向けて、その時に見えた顔をみて、息をのんだ。

 短く整えられた白銀の髪。涼し気なアイスブルーの瞳。何も。何も変わっていなかった。

「次あっちだよー」
「わかった! 今行く!」

 女子生徒に呼ばれて答えたその声。優しい声。変わっていない。

 ぱたぱたと軽い足音を立てて去っていく彼の後ろ姿をつい目で追ってしまった。彼は、私のことなど気にも留めなかった。それもそうだ。私は今、すれ違う学校の誰か。ただそれだけなのだ。

「ね、イケメンでしょ。転入生のオルシュファンくん」

 私は、こくりと頷くのが精いっぱいだった。


= = = =

 その昔。私はただの一般人だった。学校に通い、普通に暮らした。

 少し昔。私は英雄だった。人々を助けていた。

 今、私はまた、ただの一般人に戻ったのだ。

 そんな夢のような話。ただ、二度目の”普通の世界”は。帰ってきた場所は、少しだけ違っていただけで。



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学園EOZが発表されたので、そういえば書いてたけどお蔵入りさせていたものをそっと出してみました。

mae  tugi
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