カリブの提督///

※洋名推奨

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「なるほどな。嵌めたわけか」
「嵌めたなどと仰らないでくださいませ、閣下」
「閣下?はっ…ずいぶんと白々しいな」
「何とでも」

目の前で笑う男に小さく悪態をつく。
今となってはなんと言おうとも意味はない。
鉄格子の向こう側で笑う男にどれだけ腹を立てようとも、だ。

「はっきりと答えればいいだろう。今は私とお前だけだ」
「それもそうですなぁ…」

ふむ、と一拍あごに手をやりながら男は考えるそぶりを見せた。
その動作にもう一度白々しいとため息を小さく吐き出した。

「おかげで私はあなたの居た椅子に座れましてね。」
「だろうな。一応感想のほどを聞いておこうか。すわり心地は?」
「今までに無く極上の座り心地でしたよ!
今はこうして硬い板の上に座るあなたが座っていたと思えば
それ以上にも座り心地がよく感じるでしょうな」
「そうかそうか、それはよかったな」
「ついでに言えば…
そのあなたをここに落とせたこともまた、ですかね」
「うれしさが隠しきれていないぞ?」
「おや、これは失礼」

実に楽しそうに笑みを深める目の前の将校の姿につきあきれんとばかりに粗末な板張りの椅子の上に戻る。
嘗ての…それも今は目の前の腹立たしい男が座っているであろう…
自身の地位を示していた豪華な椅子をふと思い出せば
苦虫をかまされたような気分になるのも仕方が無いことだろう。

今はこうしてこの牢屋につながれる男。
若くもないが、年老いているというわけでもない壮齢の男。
鉄格子の向こうで嫌味たらしく笑う男と同じ、元は将校だった。

「ベルトランド提督。」
「腹が立つな、その白々しい呼び名には」
「それはそれは、失礼しましたな」
「…明日、か」
「おや、存じておりましたか」
「ああも大きな声で”話していれば”嫌でも聞こえるだろう?」
「ははは、提督は耳がよろしいようだ」

嫌味の応戦にもいい加減飽きたのだろうか。
それとも、言いたいいやみは全て言い終わったのだろうか。
どちらにせよ、いまさら何を言ったところで代わりはない。

ベルトランド提督と呼ばれた、揚羽・ベルトランドの処刑は明日、執り行われる。


「…覚えておくといい」

低い声で揚羽が男に投げかける。
小さな窓から外を眺めていた揚羽は男の方を見なかった。
男が奇怪そうに揚羽を見た。

「…ふむ?」
「君は後悔することになるだろうからな」

揚羽にがゆるりと男を再び見た。
赤い左の眼光は、こんな寂れた牢獄に入れられようと代わってはいない。

「私が、貴方を貶めたことを?それとも、」

内心ではひるんでいようと男は整然と言葉を返した。
はっ、小さく馬鹿にしたように揚羽が笑った。

「それは、そうだな。全て、だよ。」
「…全てとは!また貴方らしくなく馬鹿馬鹿しい」
「さて、本当に馬鹿馬鹿しいかはそのときがくれば分かるだろう」

先ほどいた鉄格子へと揚羽が再び近づく。
威圧されるようなその空気に、男は確かに飲まれていた。
それに気がついてるのかどうか定かではないが
揚羽は今一度言葉を繰り返した。

「もう一度だけ告げておこう。
覚えておくがいい。

君はいずれ、後悔に苛まれて死ぬだろうことを」

「…死に底ないの言葉ほど、説得力のないというものだよ」
「なんとでも」

なんとか反論をするが、その声に勢いも覇気もない。
腹を立てた様子で男が鉄格子の前から離れていく。
その様子を愉快そうに揚羽は見送った。




mae  tugi
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