艦これ///

 口元に手を当てて笑う鳳翔へ揚羽が冗談めかして問いかける。

「それで、私の何をそんなに熱心に考えていてくれたんだい?」
「……随分と思いつめているようでしたから、何をそんなに、と心配してたんですよ。」
「あぁ……そうだったね。心配させてすまないね。大したことでは……ないとも言い切れないか。」

 率直な返答にはこちらも誠意を持って返すべきだと揚羽とて常々思っている。しかし、彼が思いつめていた内容については軽々しく口にすべきことではなかった。例えそれが自身の片腕たる秘書官であったとしても、だ。だからこそ随分と歯切れが悪くなってしまった返答に、揚羽も、鳳翔も困ったように笑うしかなかった。

「私では力不足でしょうか。」
「いや、君はよくやってくれてるよ。日頃ろくに礼をすることもできない私が言っても説得力はないかもしれないがね。」
「そんなことはありませんよ。私はここで一番、提督のお側にいますから……わかっているつもりですよ。」
「……君がそう言ってくれるから、私は安心して行けるね。」
「それは、どういう……?」

 鳳翔の言葉と微笑みに、揚羽は実に穏やかに笑いながら少しばかり顔を下げた。少し視点がたかい鳳翔からはその表情は軍帽の影に隠れてしまう。ただ、その口元が引き締められたものであることは、彼女にも分かってしまった。

「……提督。」
「あぁ。君や長門がいるからね。心配はしていない。だから、すまない。私がいない間のことは任せたよ。」
「暫くどちらに行かれるのですか?」
「それは言えない。君たちは知らぬ存ぜぬで突き通しなさい。本当なら、一言もいうつもりもなかったんだ。これ以上……これ以上、前線に赴く君たちに負担をかけるわけにもいかないからな。」

 再び揚羽が顔を上げたとき、彼はすっかり職務中の表情をしていた。真剣な眼差しと物言いに鳳翔は何も言えなかった。ただ、ただ少しだけ、悲しくは思ったが。

「またそんな顔をさせてしまったね。」

 何も言えずこちらを見るだけの鳳翔に揚羽は格好を崩した。冷たく覚悟と威厳の色を灯していた目元がゆるりと下がる。先ほどとは逆に、俯いてしまった鳳翔を揚羽は緩く引き寄せた。抵抗することもなく揚羽の肩に体を預けた鳳翔の頭を撫でる。心配はいらないと言いながら髪を梳く様子は、恋人同士というよりは……父と娘、兄と妹のようだというべきだろう。
 ぽんぽんと頭を撫でられて、珍しく不貞腐れたような顔をする鳳翔に揚羽は苦笑いをするだけだ。今日はお互いに珍しいことだらけだね、と言ったところで鳳翔もぽつりとこぼす。

「……みな、わかってないんです。」
「何を?」
「提督が、こんなに私たちのことを思ってくださっていることを、です。第1艦隊の方々でさえ……。それが、それが嫌なんです。」
「私は君がわかってくれてるだけで十分だよ。」
「……でも。」
「鳳翔君。いいんだ。そのほうが何かと都合のいいこともある。ね?」

 我ながらずるい言い方をしていると思いながら揚羽は続けた。鳳翔とて、これで納得などできはしないが、こう言われては大人しく頷くよりほかになかった。それからしばらくの間、二人はそのままでいた。鳳翔は最後までどこか納得がいかない顔をしていたが、揚羽にとってはそれさえも身に余ると思っている。聡い彼女は、そんな上司の考えがどことなく分かって、やはり、悲しく思うのだった。


 それからしばらくしたある日。執務室に揚羽の姿はなかった。



mae  tugi
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