旧夢 | ナノ

▼先輩ヒロイン1

東方仗助に出会ったのは秋の寂しげな風が吹く日のことだった。
学校帰りにデパートへ行く途中。残念ながら友達も特に居ないので一人で歩いていると進行方向から来た東方仗助は緩やかな坂の上で、彼は突然10mと程の距離で立ち止まったのだ。ばっちり合った目のせいか、なんとなくつられてこっちも立ち止まってしまう。
空き缶が転がるように枯葉は転がる音が大きく響く。

逆光で陰になる東方仗助の表情は思いつめたような、冷たい顔だった。
そこに敵意の無いことから、私は彼がなにかを欲しくてしょうがないという
焦燥のような切望の情であることを理解した。

そしてその視線の先に居るのは?
もし私を射抜く視線が実は勘違いで、他の誰かを見ているとしたら…。
振り返って後ろを確認して他に誰か居ないかを確認したい。
しかしとても出来るような状態ではなかった。
彼はピクリとも動かないし、こちらも何故だか動けない。

もし、私を見ていたら?

彼は私を?

眩しい夕日と強いコントラストの東方仗助の影が目に焼きつくような気がした。

何よ、そんなわけないじゃない。彼はあの女の子に人気の東方仗助じゃない。
見ていたって、向こうはこっちを見てやしない。遠くの存在の人気者に好かれるなんて、突然そんな脚光を浴びるようなこと、ある筈が無いのだ。
私はそこをなるべく不自然にならないように切り抜けることにした。

「こんにちは、東方君!」
そう言って彼の隣をすり抜けたのだ。

‐‐‐‐‐

背中に暖かい西日を感じながら、自分の体で日陰になる胸が寒いと感じた。
寒くなってきた。と思いながら前方に俺と同じ高校の制服を着た人影を見つける。
セーラー服に紺色のマフラーをしただけの、まだまだ秋口の格好だ。

学校でクラスの男達がしていた会話をふと思い出した。
そこで口の端に上がった女の子が居る。
一番可愛いあの子、ではなく、あの子もいいよなの程度だ。
そんなあの子のことを意識したことはなく、名前と特徴をなんとなく覚えているだけで探してみようと思ったこともない。

特徴があの子に似ていると思うも、確認する手立ては無い。
寂しげな天気が目の前の彼女に似合っている。
長い睫毛に包まれた、日差しの差し込む瞳が、まるで宝石のようだった。
彼女のシルエットを見たことがあるような気はする。
だが、ちゃんと見たのは初めてだ。その姿はしっくりくるようで奇妙に眩い。
この胸が圧縮されているような感覚はなんだっていうんだ。

俺はこれ以上近づいては心臓が止まるような気がして立ち止まった。
目の前の彼女も同じように止まる。

時間も止まったかのようだった。
気がつくと彼女は俺のすぐ横を通過した後で、
俺はただそれを間抜けに見つめるだけだった。
声をかけられたような気がする。

そうだ、これは一目惚れだ。

To be continued


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