旧夢 | ナノ

▼先輩ヒロイン7

何で友達が居ないのか。
最早それを自問することもやめた。
既に答えは出きっていたのだ。
クラスメイトの女子達はお洒落で、簡単なことが好きで、非常に素直だ。
面倒臭がりで、偏屈のこだわり屋で、卑屈な自分とは全く違う。
普通の女の子達、多数派の女の子達。それは太陽に照らされているかの様に正当性がある。

そう思っていたが東方仗助はどうして彼女達を選ばなかったのだろう。
彼も決して多数派の男の子じゃないけれど、誰よりも太陽に照らされているみたい。
それなのに人気者で、むしろ照らされているのではなく彼自体が世の中の光源のような人だ。

朝靄の中、仗助君はマフラー一つを首に巻いて
「ナマエ、」
私の名前を呼ぶ。

なんで、どうして彼は私を好きなの。
最近毎日自問している。優しくて大らかで、そして仗助は私に執着するのだ。

私には嫌いなものが多い。
まず学校が嫌い。厳密には学校の休み時間が嫌い。
妙にグループ活動を好む教師が居れば、そいつも嫌い。
女子も嫌い。男も嫌い。そんな中、仗助君に話しかける女の子はもっと嫌い。
私は今までより色んなものを嫌いになった。ただ嫌いなだけではなくて、深く深く嫌うようになった。
そしてより一層醜くなった。

いや、今までイマイチ現実に生きていなかったから嫌ったとしてもぼんやりとしか嫌わなかったのだろう。
今まで自分だけの世界に居たのに仗助君が引きずり出してくれた。
そして現実味を帯びてきた世界はより遠くまで見渡せるようになった。
私は醜い。性格が悪い。不器用で汚い。
それでもまるで物語のお姫様みたいに、仗助君は手を伸ばしてくれる。
気味が悪いくらい、彼は私を好きで居てくれる。

何で。
それは聞かずに、仗助君のお喋りに適当に答える。
仗助君は笑いながら、足を止めた。
顔を上げると、仗助君が此方を見ていた。
「なんかあったんスか」

「別に」
私は少し考えて、「なんていえば良いのかな」と時間稼ぎした。
「学校、面倒だなって」
嘘ともつかないことを言った。
正直私が行かなければ仗助君が女子に狙われる機会を作るだけだ。
だから登校する。

この世の中は何かを辞める理由は沢山あれど、辞めない方が良いことも沢山ある。

「じゃあ俺とどっか行きますか」
ニコ、と仗助は提案する。
私は降って沸いた希望以上の申し出に、思わず顔が綻ぶのを感じた。

「例えば何処?」
私が意地悪に聞くと仗助君はアテがあるらしい。
「えーと」
今度は仗助君が目を泳がせる。

「俺ン家…とか」

東方家は良いにおいがした。
遺伝子の離れている人ほどいい匂いに感じるのだと言う。
確かに、仗助君と私は全く違う生き物だ。

さっぱりとしたリビングにゲーム機が置かれている。
ゲームやるって言ってたなぁ、と思いながら冷蔵庫を覗き込む仗助君を見ていた。
大きな背を丸めた後姿はまるでクマのようだ。可愛い熊。
「お茶でいースか」
「うん、ありがと。」
仗助君のお母さんは学校の先生だっけ。今度挨拶しないと。
仗助君は片手でスナック菓子を棚からニ、三個取り出して部屋へ案内してくれた。

仗助君の部屋。ベッドの置かれた、使われて居なさそうな勉強机と落ちている靴下。
私のあげたキーホルダーとか、仗助君の好きなものがいたるところに飾られている。
物は多いが整頓されている、と思った。落ちている靴下くらいだ。

「穴開いてる」
「うお、ナマエ見るなって」
取り上げられた靴下は穴が開いていた。
「…朝穴が開いてるって思って脱いでそのまま」
ばつが悪そうな仗助君に笑った。よくわかる。朝って慌しいもの。

しかし、本棚にあまり本がない。
その人の性格は本棚に現れるというけれど、仗助君は数冊の教科書、辞書くらい。
後はCDや小物が並んでいるのみだ。棚を分けて欲しいくらい。
「あ、新美南吉」
ごん狐の絵本が場違い気味に並んでいた。

「ああ、それおふくろの」
「読んだことある?」
仗助君は「ガキの頃国語の教科書でなら」、と言った。
「私もちゃんと読んでない。悲しいから私はあんまり好きじゃないんだ」
「そーだっけ?」
悲しいっけ?と仗助君は首をかしげている。
自分の本棚に知らない本が入ってるなんてなんだか可笑しい。
「フフ、仗助君って変わってる」
「そースかァ?」
「変わってる、凄く、あはは」

私はごん狐を本棚へ戻すと、仗助君の隣に座った。
距離が近くなる。日の射す仗助君の部屋はそのうち暖かくなるかもしれない。
けれど今は肌寒い。

少しして、お互い喋らぬ間があって、仗助君を見ると真っ直ぐ前を見たまま動いていないようだった。
「仗助君?」
壁に凭れて座る仗助君の顔は赤い。全力で意識しています、ってそんな顔。
私は暫くこのままでいたい。関係を進めたら、いつか振られた時にどうしたら良いかわからなくなりそうだ。
今のままで良いじゃない。駄目?
私は誰にも問えず、口を付けたカップを盆に戻した。

「ナマエ、触ってもい、い…か」
語尾が掠れて、その真剣な顔を見たら断れなくなる。
私は半ば苦笑しながら、「うん」と答えた。
仗助君の大きな右手が私の顔の横へ伸びて、耳に触れる。
親指が頬を撫でて仗助君の顔が近づいてきた。
少し高い位置にある仗助君の為に顔を上げると、恐る恐るだった仗助君の手がスムーズに動くようになった。

ちゅ、と甘ったるいキスが終わると、鼻先で仗助君は微かに笑った。
真っ赤な顔が可愛い。鼻が高いから、割とよく顔が見える。
キラキラした瞳が眩しい。

「もう一回」

仗助君の吐息が唇に掛かる。眩しくて瞳を閉じるんじゃない。
これ以上見ていられないのだ。嬉しくて、恥ずかしくて、熱に浮かされて。
To be continued


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