旧夢 | ナノ

▼先輩ヒロイン8

仗助君はモテる。
わかってる。沢山居る女子生徒には輝くような子もいる。
対する私にある武器は何か、何にもない。

いつだって仗助君に群がる女子を見ていると自尊心は傷つくし、辛い。
けれど、仗助君は奇跡的にも私を気に入ってくれている。

正直私に出来ることはあんまりない。

お洒落をしたり、色々に拘ってみたり、もっと明るくなったり、社交的になったり。
欠点を潰していこうとも思ったけれど、仗助君は言ったのだ。

「ナマエのそのまんまが全部好き…ってちっと照れくせーつか」
言葉通り照れながら彼は言ってくれたのだ。
嬉しさと窒息感。

もとよりなんの努力もなく、突然仗助君が興味を持って始まった関係だ。
私は変わらない。変わってはいけない。
そして仗助君の興味が薄れないことを毎日祈るばかりなのだ。
そこに決して怠慢が無いかと聞かれたら、何にも応えられないけれど。

「ナマエ、悪い、遅くなっちまった」
仗助君が走ってきたのを私は見ていた。
私の為に走り寄ってくる。それが可愛い。大好き。
こんなに絆されたのは仗助君の魅力のせいだ。
可愛い。大好き。もう一度言っちゃう。大好き。

「待つのも好きよ」
「…!」
仗助君は頬を染めて、わかりやすくときめいてくれる。
彼はもてるのにとっても純情だ。

打算的で利己的で、実の所優柔不断な私を、仗助君はどう思っているのだろう。
大人びた先輩。冷たい感じ?それとも優しい感じ?
考えてみるとよくわからない。
好きになればなるほど、行動は制限されていく。
気弱になって不安で仕方なくなって、そうして弱っちい人になっていくんじゃないだろうか。

仗助君に似合う人は気丈で大人の女性だろうか。
そう思うけれど、『そのまま』でいなくちゃならない。

呼吸が苦しくて、ハァと思わず溜息をつく。
仗助君がビックリしたように此方を見る。
「なんか、胸が苦しくて」
「具合悪ィんスかァ」
「いや、うん、体調は平気。湿度かな?」
「最近天気が安定してねぇからなァ…気をつけろよ」
「風邪でもひいたら看病してくれる?」

仗助君はあらぬ想像をしているのだろう。
う、うん、という感じに頷く。
「そしたら、風邪引いちゃおっかな」
「なァに言ってんスか」

「で、うつしてあげる」
「……。」
とうとう黙ってしまった仗助君を笑う。

「じゃーね、仗助君。」
あっという間に家に着いてしまった。
放課後デートって短い。


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