エウロパのうみ22/i | ナノ


エウロパのうみ22/i

 大晦日から年明け三日まで働く時和は、大晦日の出勤前に明達の部屋へ寄った。実家に帰っていないことは知っていたため、扉をノックする。
「はい」
 しばらくして、返事とともに、扉が少し開いた。
「時和」
 ドアチェーンを外した明達が、中へ入るよう促してくれる。時和は狭い玄関に立ち、女性ものの靴がないか確認した。
「どうした?」
 中に入ってこない時和を変に思った明達が戻ってくる。時和は彼を見上げた。今日、言わなければ、高校の時のようになってしまう。無視されるよりはいいと思っていた。都合のいい友達以上、恋人未満の関係を続けていれば大丈夫と考えていた。だが、本当は平気ではない。
「明達、あの……あのさ、俺、のこと」
 玄関の照明はついておらず、明達の表情はよく見えない。足元を見ていた時和は、彼の瞳を見つめた。
「俺と、つきあって、ちゃんと……恋人、みたいに」
 付き合ってと言うのは違うと思い、恋人にしてと言おうとして、身のほどをわきまえなければと思い直した。
「明達のこと好きだから」
 高校の時から、ずっとと続ける前に、明達のくちびるが言葉を奪った。彼は扉へ時和を押さえつけるようにして、キスを繰り返す。
「俺も」
 かすれた声で告げられて、何が、と確認する前にまたくちづけされた。指先同士が絡む。時和は泣いていた。今度はきっとうまくいくのだと確信した。彼からも愛されていると感じた。

 ふわふわと気分で歩いた。
 杏里とは別れると言われた。だが、皆にはすぐに恋人だと紹介できないとも言われた。時和はそれでいいと頷き、今年最後のシフトをこなすため、駅へ向かった。
 浮かれていたから、携帯電話が鳴っていることに気づかず、時和は慌てて電話に出る。通話ボタンを押した瞬間、すれ違った相手の肩に当たった。
「あ、すみません」
 着信は善からだったが、衝撃で携帯電話を落としてしまう。時和が拾う前に、当たった相手が拾ってくれた。
「ありがとうございます」
 軽く頭を下げてから、彼を見た。こちらに渡してくれるのだと、ためらいなく手を差し出したら、彼は携帯電話を投げた。
「え……」
 壊されるのかと思ったが、投げた先にはもう一人男がおり、不審に思った時和が踵を返すと、別の男が立っていた。
「だっ、ぅン!」
 時和はタオル地の布を口へ当てられた。急行列車が音を立てて通り過ぎていく。道路脇に停まるワンボックスカーのドアが開き、中へ連れ込まれた。何が起きているのか分からず、質問することもできず、口に当てられたタオル地の布の上からガムテープを巻かれる。
 目隠しをされたのとワンボックスカーが動き出したのは同時だった。手足を拘束される。時和は恐怖から震えていた。先ほどまでは幸せの絶頂にいたはずなのに、今は殺されるかもしれないという絶望に叩きのめされている。届かないと分かっていても、時和は明達の名前を心の中で呼び続けた。



21 23

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -