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待ち合わせ場所に着くと、チョロ松くんと同じ顔で今風の服を着た男の人が立っていた。トド松くんで間違いない。

「お待たせしました」

小走りに近づくと、「ううん、全然待ってないよ」と笑顔で返してくれた。チョロ松くんよりは女の子慣れしてそうだ。

「私、杏里って言います。トド松さんで合ってますよね?」
「うん、そうだよ。できればだけど、トッティって呼んでくれると嬉しいな」
「じゃあ、トッティ」

呼んであげるとふにゃんと嬉しそうな顔になった。

「えっとぉ、どこ行こっか。杏里ちゃん行きたいとこある?」
「んー、ショッピングしたいかな。トッティは?」
「僕も買い物したいなって思ってたとこ!」
「ふふっ、じゃあ決まりだね。今日はよろしくね、トッティ」

そう言いながら自然に腕を組み身体を密着させると、チョロ松くんのように顔が赤くなった。
腕を組むのはイヤミさんの指示だしこれにも料金がかかるので、ちょっと後ろめたい気になりつつ歩きだす。

「杏里ちゃんは何がほしいの?」
「私引っ越してきたばっかりなんだけど、部屋が寂しいからクッションがほしいなーって思ってるの」
「インテリア雑貨なら可愛いとこ知ってるよ。そこ行ってみる?」
「うん!ありがとう、トッティ」
「っ、えへへ、こんなのお礼言われるうちに入んないって…」

そう言いながら顔はでれでれしている。ちょっとしたことで喜んでくれると私も嬉しい。
ウインドウショッピングをしながらトッティの言う雑貨屋に入ると、確かに可愛らしい家具や雑貨がたくさん置かれていた。

「わぁ、こんなとこ知らなかった」
「そう?有名人のSNSでよくここの雑貨の写真上がってたりするよ」
「そうなんだ。トッティって物知りだね、すごーい!」
「そ、それほどでもないけど…」

腕をさらに絡ませて甘えるような声を出すと、いよいよ顔が赤くなって溶けるような笑顔になってきた。このぐらいで喜んでくれるのならやりがいがある。
トッティに案内されてクッションのコーナーに来ると、色々な種類のクッションが置かれていた。想像してたより数が多い。

「んー、迷うなぁ…」
「杏里ちゃんのお部屋って、どんな感じ?」
「白がベースでシンプルな感じだから、模様の入ってる物がいいな。あ、これとか」

ちょうど目の前の棚にあった異国調の幾何学模様のクッションを手に取る。可愛い、これ。

「いいんじゃない?杏里ちゃんに似合うよ〜」
「そう?トッティありがとう」

いくらだろう。値札をそっと見てみた。
三万、を越えてる…クッションで三万越え、初めて見た。
イヤミさんはショッピングは全部相手に金を出させろと言っていたけど、これはどうだろう。自分で買うにしても三万はちょっと…
仕方なく棚に戻そうとすると、その前にトッティが「じゃあこれね」とかごに入れてしまった。

「え」
「杏里ちゃん、後は?何がほしい?」
「ま、待ってトッティ、値段見た?」
「どうして?」
「ちょっと高かったから、買うの諦めようかなって思ったんだけど…」
「え?せっかくのデートなんだから僕に出させてよ」

とても意外そうな顔のトッティ。

「そ、そう?それじゃ、お願いしてもいいかな?」
「うん、任せて。他は?ほしいものある?」
「ううん、後は特に…」
「ほんとに?アクセサリーは?服はいらないの?」
「うん、今は間に合ってるから」
「バッグは?靴は?ジュエリーも?」
「う、うん」
「じゃあマンションは?土地は?」
「えっ…あの…別に大丈夫だよ」

なぜか畳み掛けるように聞いてくるトッティの圧に少し押されながら答えると「信じられない…」と呟いた。

「じゃあどうして杏里ちゃんは僕とデートしてくれてるの?」
「それは、トッティと普通にデートしたいなって思ってるからだよ」

ていうか仕事だし…どうしてそんなことを聞くんだろうと思いながら無難な返事をすると、トッティはみるみる涙目になっていった。

「杏里ちゃん…君って何なの?天使なの…?」
「どうしたのトッティ、泣かないで…」

結局トッティが譲らず、三万のクッションだけを買ってもらった。
イヤミさんからはもっと高い物を買ってもらえと指示が来たけど、一回で散財させるより小さな積み重ねをしていく方が安全だと返すと、何か思うところがあったのか「じゃあチミに任せるざんす」と言ってくれた。
単に無謀な買い物をさせるのが嫌だったからだけどこれでいい。
稼ぎは多い方がいいけど、ニートを破滅に追いやりたくはない。見たとこお金持ちじゃなさそうだし。

「ありがとうトッティ、次はどこ行こっか」
「どこでもいいよ、杏里ちゃんの行きたいとこ行こ」
「んー…カフェに入りたいな。何か飲みたいかも」
「あ、じゃあいいとこ知ってる」
「ふふ、トッティに任せるね」

腕を組んでトッティのおすすめのカフェに行くと、人気店のせいか満席みたいだった。

「あー…ごめん杏里ちゃん、座れなさそうだね」
「そうだね。じゃあテイクアウトしてどこかで飲む?」
「うん、杏里ちゃんがいいなら」
「トッティ、カフェラテは好き?」
「好きだけど…」
「じゃあ私買ってくる!あそこのベンチでちょっと待ってて」
「えっ、杏里ちゃん?」

レジは空いているからすぐ買えるはず。デートの終了時間も近づいてきてるしさっさと買おう。
そう判断してカフェラテを二つ買って戻ると、トッティはぽかんとした顔で待っていた。

「お待たせ!ごめんね、場所取りさせちゃって」
「ううん、それはいいんだけど…え、これ、僕の分?」
「そうだよ。一応お砂糖ももらってきたから、はい」

トッティに渡すと、何だかまた潤んだ目で受け取っていた。

「もったいなくて飲めない…」
「えっ…冷めちゃう方がもったいないよ、遠慮しないで?」
「ぐす…うん…待って写真撮りたい…」
「いいよ。持ってようか?」
「うん。杏里ちゃんも一緒に写ってくれる?」
「えっと、ちょっと待って」

イヤミさんからの代金請求メールには『写真代』も入っていたのでそれを言うと、「全然いいよ!」と涙をふきながら笑顔で答えられた。
もしかしてチョロ松くんもトッティも、女の子にひどい扱いしかされてこなかったのかもしれない。それでレンタル彼女を…何かかわいそうになってきた。
お金はある程度ちゃんともらうとしても、私にできるだけのことはやってあげよう。カフェラテ二つぐらい、私のおごりで構わないし。
トッティは両手でカフェラテを持ってじっと見つめながら少しずつ口をつけていた。

「熱いの苦手だった?」
「っううん!ほんとに、もったいなくて」
「次のデートの時にはカフェに入ろっか」
「うん!って、え?またデートしてくれるの?」
「私はまたトッティとデートしたいけどな」
「だって僕、杏里ちゃんに何もしてあげてないに等しいんだけど…杏里ちゃん、こんなデートで楽しかった?」
「おしゃれな雑貨屋さんやカフェに連れてってくれたし、クッションまで買ってくれたじゃない。私は楽しかったな、トッティとデートできて」

自信なさげに聞いてくるトッティを励ます。次のデートに繋げるためでもあるけど、トッティに自信を持ってもらいたいからでもある。
すぐ貢いじゃうところをなくせば、トッティだって女の子の一人や二人と付き合えるはず。

「…ありがと、杏里ちゃん」

カフェラテをぎゅっと握って笑ってくれるトッティは可愛い。
トッティとのデートは、一緒にカフェラテを飲み終えたところで時間が来た。
チョロ松くんと同じく「次はもっとお金持ってくるから」と言われながら別れる。
レンタル彼女業、楽かと思ってたけど精神面に時々来るものがあるかも…普通のバイトに比べるとお金はたくさんもらえるけど。
私とのデートで、トッティたちが何かしら更正できたらいいな。







「お、お帰りトド松」
「どうだった!?」
「…ねえ…あの子何なの?天使としか言いようがない…!」
「だろ!?言っただろ!?」
「だって杏里ちゃん、デートなのに僕にお金出させようとしないんだよ!服も宝石も土地も何にもねだらないの!信じられる!?」
「確実にイヤミやチビ太じゃないってことか…」
「絶対違うって!それどころか僕に…僕に…ううっ」
「何そのスマホ。見ろってこと?」
「うっわやっぱめっちゃ可愛い!」
「クソ可愛い…」
「このカフェラテ、杏里ちゃんが僕に買ってきてくれたんだ」
「マジで!?えー!?」
「デートなのにか!?嘘だろ!?」
「ただの現世に舞い降りた女神…!」
「早くぼくの番来ないかなー!!」



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