また明日





『シズちゃん、ごめん。ちょっと仕事が入って会えなくなった。』
そんなメールが入ってきたのは約束していた時間の30分前だった。

「何だよ…。」
ぽつりと呟いて、携帯電話を閉じる。
今返事をしたら、きっと女々しくなってしまうからメールを返すつもりはなかった。

七月七日は七夕だから、と誘ってきたのは臨也の方だと言うのに…敷いたままの布団に転がって溜め息を吐く。

静雄は元々そういった類いのイベントに疎く今まで気にしたことはなかったのだが、臨也と交際を始めてからは意識が変わった。
臨也は恋人たちが盛り上がるイベント事が好きらしく静雄もよく付き合わされていたから、もう一緒に過ごすことが当たり前になり出していたのだ。

「…はっ、馬鹿みてえだな。」
自嘲気味に吐き捨てて、腕で顔を覆う。
いつから自分はこんなに弱くなってしまったんだろう。

これも全て臨也の所為だ。
そう思った所で、急に襲ってきた睡魔に耐え切れず意識を手放した。


どれくらい眠っていただろうか。
突然鳴り響いた携帯電話の着信音で目を覚まし、起き上がる。

少しぼやけた頭を無理矢理覚醒させて、ずっと握り締めていたらしい携帯電話を見た。

「…何の用だ。」
寝起きの所為もあってか、不機嫌さの滲む声で答えれば電話の向こうからは苦笑が聞こえた。

『ごめん、起こしちゃったかな。』
返ってきた言葉には悪びれた様子など欠片もなくて、静雄は小さく舌打ちする。

「別に。お前、仕事は?」
本当は電話が掛かってきて嬉しいなんて、口が裂けても言いたくなかった。
それを隠すために普段より余計にぶっきらぼうになった声音で問う

『さっき終わったよ。折角の七夕だったのに、シズちゃんと会えなかったから電話くらいしておこうと思ってさ。』
もう日付変わったけどね、と付け足されて目覚まし時計を手に取る。
針は既に1時を差していた。

『まあ、俺達は織姫と彦星みたいな関係じゃないし。会おうと思えば今からでも会えるけど。』
くすくすと耳に心地好い笑い声を聞いて、静雄の口元が自然と緩む。

「そうだな。でもお前、疲れてるだろ。早く寝ろ。」
先程までの機嫌の悪さが嘘のように、今の静雄の声は明るくて臨也は内心で安心する。

できることなら、この愛しい恋人には寂しさを感じさせたくないのだ。

『うん、ありがとう。じゃあもう寝よっか。』
安心したと同時に眠気が訪れて、臨也は小さく欠伸してベッドに転がる。

「ん、おやすみ。」
静雄も布団にパタリと倒れ込んで天井を見上げた。

『おやすみ、また明日ね。』
ちゅ、と軽い音を立てて電話越しにキスを送れば、向こうからも控えめなリップ音が聞こえてくる。
きっとすごく恥ずかしかったのだろう、通話はすぐに切れてしまって臨也はやり場のない愛しさを溜め息とともに吐き出し目を瞑る。

明日は絶対に会いに行こうと心に決めて、二人は眠りについた。









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