はじめて記念日




はじめて記念日。




恋人同士は名前で呼び合うものだという記事が目についたのは、自分が恋人の事を名前で呼べないからだ。

仕方ないじゃないか、高校時代に出会ってからずっと苗字で呼んできたのだから。
だが、記事にはこう書いてあった。

『名前で呼び合わないなんて恋人とは言えない。相手が不安になって浮気するのも仕方のない事だ!』

そう、なのか。
そうだよな、門田は俺の事を名前で呼んでくれてるし…。
このままじゃ、ダメだよな…。

些か極端すぎる記事の内容を鵜呑みにした静雄は表情を曇らせて溜め息を吐いた。

大きく息を吸い込み、思い切り吐き出す。
そして静雄は決意した。
恋人である門田の名前を呼ぶことを。


「きょ、きょ…きょう…。」
会って早々、静雄の顔は何故か赤くなっていた。
しかも先程から何やらボソボソと呟いているのが聞こえるが、声が小さすぎて何を言っているのかはわからなかった。

「…静雄、どうしたんだ?」
耐え兼ねた門田は思い切って静雄に声をかける。
だが静雄は困り果てたような表情で視線を逸らすだけで。
どうしたものかと門田は頭を悩ませた。

「きょ、きょう…京平!」
いきなり大声を出した静雄に驚いて、弾かれたように静雄を見る。
いや、大声に驚いただけではない。

「し、ずお?今、何て…っ。」
こちらを睨むかのように見つめてくる静雄の顔は、今までにないくらい真っ赤になっていた。
恥ずかしさからか目には涙まで滲んでいて、門田は思わず静雄の細い体を抱き締めた。

「きょ、京平、苦しっ…。」
身動ぎできない程に強く抱き締められて、苦笑を浮かべながら静雄はおずおずと門田の背中に腕を廻す。

「お前が俺の名前を呼んでくれるとはな…また、呼んでくれるか?」
金髪をくしゃりと撫でながらそう言えば、照れ隠しなのか肩口に真っ赤になった顔を押し付けてくる。

「当たり前だろ、きょ、京平。」
ぎこちなく呼ばれた名前は、門田の耳を優しく擽っていった。






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