オレはお前に、君はオレに
名前以上にオレを満たせる相手はいない、また、名前を満たせる相手なんてオレぐらいしかいない。
そして名前の想いが失くなる時なんて一生こないだろう。
もしなくなってしまえば、それはオレ自身がなくなることと等しい。
名前が傷つくとオレにも病気のように伝染する。オレが傷つくと彼女は自分が傷つけばよかったと涙を流す。
二人でいるはずなのに、異なる物じゃなくて、同じ感情を体感している。こんな感情を抱くなんて名前と出逢うまで考えられなかった。
名前と接するのと同時に、新しい自分と知らなかった名前を知ることになる。
最近、一人でいると身体が半分失ったようにバラバラと崩れて行く。名前といて始めて、満ち足りた気持ちになっていく。
オレはこのまま一つになりたいと願いながら彼女のうなじに唇を寄せて、身体を抱きかいても一つにはなれないと痛感して、また、身体をさらに寄せ、満ち足りた気持ちが喜びになる。
時おり、いたいと声が聞こえたら力を緩くして、お互いまた離れて一つから遠ざかる。
単純な事を繰り返して、また想いを焦がす。そうして、単純を積み重ねてお互いが離れられない存在になって、幸せだと言い合い、年を取れたらこれほど至福だと思えることはないだろう。
「我愛羅、むりだよ、たぶん」
「? 何が、だ……」
「一つになろうと頑張っても一つになれないもどかしさを感じながら一つでいようとする、なんてさ」
「オレは……」
「一つの存在じゃないから出逢えたんだよ?」
じゃあ、どうすればいいんだ。名前との出逢いをなくしたくない。でも、名前ひとつでいたい、名前を身体と心で感じていたい。
彼女の想いは時を得て膨れて、もっと欲しくさせる。
身体中にキスをしたいと伝えると「やめて」と即答される。あんまりだ。
「寂しがりやだね、我愛羅は」と、名前は言う。そうかもしれないが、寂しがりやにされてるのは名前のせいだ。
自分でしか自分を愛せなかった頃の寂しさはもう思い出せない。
「私も寂しがりやだよ」
会話は自然と途切れてもう一度強く抱き締めてみた。いたいと声が返ってくる。
ふたりで一緒に、一人きりになるのはまだ時間がかかるようだな。
配布元:秋桜