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SS 我愛羅/雪の小話

名前変換なしネームレス(?)の夢小説もどき。
拍手お礼文、1000文字未満、ネタや会話文等の詰め合わせ。更新履歴には残しません。

雪催いの小話は長編夢主の名前「ナズナ」を使用します。ご了承下さい。

ゆりかご


 ──初めて会ったとき、彼女は15歳でオレは11歳だった。


 深い夜の日だった。

 初めて顔を合わせた日、彼女は「我愛羅様、よろしくお願いします」と緊張気味に声を発した。

 どうやら父様がつけた監視者らしいが不愉快極まりなく殺そうとしても特殊な術によって憚られ監視を許した。


 初めて笑顔を見た日、彼女は「これからはあなたの良き理解者の一人として、我愛羅様よろしくお願いします」と出逢いなおした。

 うずまきナルトとの出逢いを経て変わりたいと願うオレの気持ちを皮肉にも監視をしていたからこそ一番に理解して支えてくれた。
 今となって名前は良き友として、守りたい人として彼女が隣にいた。


 初めて喜んだ日、彼女は「我愛羅様、風影就任おめでとうございます」と飛び上がるほどの感情を身体で体現していた。

 誰よりもオレを理解しているのは彼女だけだと信じて側近に指名すると「命を賭してお仕えします」と忍びとしての距離感で承諾をされて、どこかで霧がかった闇が胸の中で広がっていった。

 初めて驚かせた日、彼女は「すみません、お気持ちは嬉しいのですが応えられません」と申し訳なさそうに気持ちを断られた。

 それから程なくして彼女は側近を辞任した。

 仕方なく受け入れてから昔のような間柄で個人的な関係を築いている。程なくして彼女は風影様の恋人で婚約者ではないかと周囲では噂になっているらしい。


 初めて泣いた日、彼女は「もう私を、自由にしてくれませんか?」と嘆いた。


「耐えられない、こんなにも縛られてしまうなんて。私は違うって周囲に訴え続けても誰も信じてくれない。逃げたいだけなのに」


 最後の暗闇の中で「私を殺して」と彼女は叫んだ。

 もう駄目、離して、もう許して、そう叫んで彼女は泣いた。


 ……懐かしい。

 オレのなかに生きる、愛おしい記憶だ。


「調子はどうだ?」


 風影一族しか知らない秘密の部屋でオレを待っている名前に会いに行く。
 最近は愛情を返してくれるようになって気持ちが繋がり合えた喜びを実感している日々だ。

 ここには誰も訪れることはない。二人だけの世界でまた一つ幸せを折り重ねていこう。


2024.04.03.
2024/04/03

甘やかし方


長編小話・未来if



ナズナ、たまにはオレに頼って甘えてみないか?」


 ふたりきりでゆっくり過ごしている時、唐突に我愛羅に告げられる。

 数日前、任務や家のこと……いろんなことが積み重なって体調を崩して我愛羅を心配させてしまってから迎えたこの休日。
 また同じことを繰り返さないように私のために我愛羅が気遣って提案してくれたのだろうと想像に難くない。


「その、なんて言うんだろう……甘え方が分からないの……」


 不思議なめぐり合わせでこの世界で生きてきた。
 顔立ちや身体はみんなと同じ歳で相応だけど、私の中身は歳上だ。

 歳上の私が自分より歳下の子たちに甘えるのは気恥ずかしさで無意識に避けてしまっている。
 たとえ恋人である我愛羅に対しても長年そうしてきた癖みたいなもので、急につめられても分からないのが本音だった。


「でも我愛羅だけには、甘えてみたいかも……」

「あ、ああ……」

「だから──、どんな甘え方をされたら嬉しいか、教えてくれるかな?」


 困ったように訊いてみると、我愛羅はぐっと息を呑み込んで胸を抑えて苦悩した表情を浮かべる。


「えっ、だ……大丈夫?」

「今のはナズナが悪い」


 どういうこと? 正直に伝えてしまったのがだめだったのだろうか。
 もしかして必要ない、甘えられないと変に伝わってしまって幻滅したのかもしれない。


「ごめんなさい」


 無言で俯くと我愛羅は慰めるように私の背中を撫でて抱擁してくれる。静かな時間が続いて、ひとしきり満足したのか息をついた。


「我愛羅?」

「その、謝らなくていい。甘え方が分からないのなら……今のような感じで、頼む……」

「え、えぇ? それじゃ分からないよ……我愛羅にとって甘えるってどういうこと?」

「深く悩むくらいなら、オレがしたいようにナズナを甘やかしてみせたほうがいいかもしれないな」


 言い終えると、私の髪に指を差し入れて梳きながら抱き締めてくれるから、穏やかでも鋭利で清楚な我愛羅の香りが胸いっぱいに広がって心がくつろいでしまう。安心しちゃう、このままだと幸福の檻に嵌って抜け出せなくなりそうな怖さから自制が働く。
 ……それに、普段私に甘えてくる我愛羅に対してやっていることと同じで、なんだかとても恥ずかしい。


「や、なんか幼稚後退しそう。それだったら私、別の甘え方がいいな……」

「なぜそうなる? ナズナはこれからこうやって甘やかされることに慣れてもらわなくては困る」


 身体を離そうとすると「逃げようとするな」と優しく叱責されて身動きがとれない。


「も、もう……! 逃げないから、じゃあ試しにちょっと甘えてみてもいい?」

「ああ」

「もっとくっついてていい? あたためてほしいの」

「なっ……ナズナ、それはどういうつもりで──」

「だめ? んーじゃあ久しぶりに我愛羅から『好き』って言われてみたい」


 驚いて瞠目した表情の裏には落胆めいた色が滲んでいる。話が二転三転と変わってどちらを優先すればいいのか我愛羅の頭の中で混乱しているのだろう。


「言ってくれたらすごく嬉しいんだけどな」と逃げ道を塞いでみるとぼそぼそと我愛羅の口から「すき、だ」と頼りない声が耳朶を震わせてくる。


「告白してくれた時とすごい違い。あんなにかっこよかったのに」

「心の準備が必要だからな」

「じゃあ準備ができたらもう一回聞かせて?」


「お願い」とずっと見つめていると私の口先に軽く触れるだけのキスをしてくれた。
 言葉でじゃなくて唇で伝えてくるのは、ちょっと狡いんじゃないかなと思いながら肌に食い込むほど抱き潰してくる我愛羅の「すき」に浸っていた。


2023.11.01.
2023/11/01

通じてるふたり


長編小話・未来if




 特殊な任務を任せたいと我愛羅から呼び出されて執務室に足を運んだ。


「すまない、少し手が離せなくて申し訳ないが待っててくれないか」

「別に構わないじゃん」


 時間より早く来てしまったのが災いしたのか執務室は書類の山で埋まっていて忙しなく業務にあたっている我愛羅と補佐をしているナズナの姿が目に入る。


ナズナ

「うん、お茶淹れてくるね。カンクロウさん、待っている間頂いて下さいね」

「あ、ああ、ありがたく頂くじゃん」

ナズナ。それが終わったら、確か──……」

「前回の会議での議題をまとめてある書類を探しているならそこにあるよ。今回の分の作成も終わってるよ」

「そうか、助かる。あとナズナ──」

「いえいえ。あ、明日の予定?」

「ああ」


 執務の邪魔にならないように黙って身守ることに徹する。我愛羅は忙しそうに手を動かしてナズナに指示をしている。少し落ち着いたタイミングを見計らってナズナがお茶を淹れてくれた。
 お茶出しをすませると彼女は直ぐに我愛羅の隣に戻って押印が終わった書類と処理が終わってない書類を入れ替えて我愛羅に確認を促している。


ナズナ

「あ、その件での持ち場の配備、各班の通達は済ませてあるよ」

「ありがとう、感謝する。それとナズナすまない。一つ頼んでも大丈夫か?」

「あっ、そっか。バキ先生が国境警備から戻ってくる時間よね。すぐに執務室に通せるように呼びに行って大丈夫?」

「ああ」


 ナズナが部屋を出ていく直前、思わず「ちょっと悪いけど聞きたいことがあるじゃん」と声をかけてしまった。


「カンクロウさん、ごめんなさい。たぶん今の書類が終わったら今回の任務に関しての詳細について話せると思うので……」


 なんでナズナがそんな事も把握してるんだよ、と言葉を呑んだ。でも不思議と納得してしまう。
 だってさっきから──……。


ナズナは我愛羅が名前を呼んだだけでどうして我愛羅がして欲しいことを瞬時に理解ができるんだ? 意味わかんねぇじゃん」


 ふたりの動きが止まった。無意識だったのだろう、傍からみれば異様な光景だったじゃん。
 読心術を会得すれば容易かもしれないが我愛羅が相手となれば別だ。ナズナがどうしてここまで我愛羅が求めていることを敏感に察知する事ができるのか純粋に気になった。


「互いの思考を瞬時に理解できるほど傍にいたからだろうな。精神面でも心と心で繋がっている証拠だ」
「仕草と勘だよ。さすがに言ってくれなくちゃ分からないこともあるよ?」


 なぜか話を聞いていた我愛羅も応えるから、ナズナの発言と被ってふたりの声が重なる。


「へぇ、すごい……じゃん?」

「か、勘だと……」


 高等技術もなく曖昧で単純なもので成し得ている事実に戦慄いてしまう。長年我愛羅をみてきたナズナだけができる事なんだろうと感じる。
 そして特別な繋がりで通じあえていると信じて疑っていなかったのだろう。弟はまさかの返答にショックを受けている、気の毒だった。


「ところで……風影様?」

「っ……! カンクロウ、待たせてすまない」


 手が止まっていることを指摘されたのを瞬時に理解した我愛羅が身を強張らせた。その様子を確認して、ナズナはバキ班を迎えに行くため執務室を出た。

 これは……ナズナは否定したけど、我愛羅が言ったとおり──。


2023.08.31.

2023/08/31

月光予報


長編小話・未来if




「我愛羅、最近仕事が忙しくてしばらくの間帰ってくるの深夜になっちゃうかも」

「ああ、わかった。ナズナ、2日後には新月だ。数日間、闇夜が深いから夜道に気をつけて帰ってきてくれ」

「うん、ありがとう」

「あまりにも遅くなるようだったら迎えに行こう」


 我愛羅は月の満ち欠けを見ただけで満月の日までの日数を正確に言い当てる特技がある。今や大切な人の些細な日常を守る素敵な特技でも昔は違かった。


 ──満月の夜になると……こわいんだ。


 幼い頃、我愛羅に教えられてから、私にとっても満月の日は恐ろしい夜だった。

 守鶴が人格を乗っ取ろうとして蝕んでくる力が活発になる夜を恐れた結果、我愛羅は満月になるまでの月日を言い当てれるようになった経緯がある。
 恐怖による不眠の影響もあって夜中にできることの大半が星や月を眺めることだったからより正確だ。
 容易に想像できたからこそ、こんな特技、ちょっとロマンチックに思えても、会得手段が恐怖によるものだから切なく感じたのを今でも覚えてる。

 我愛羅が里にとって危険視され始めて暴走を起こしたときの措置の一つとして私が抑止力としてあてがわれた。

 内側の恐怖を外側からより一層強い恐怖で締めつけて制する。

 そんな乱暴に抑え込むんじゃなくて独りきりで抱えてる痛みや辛やも苦しみ不安は、一緒にいるから背負わせてほしいと思った。我愛羅の孤独を誰よりも近くで見てきて知っているから。


 ──私のことは満月の夜をしのぐのにちょうどいい、ただの鬱憤晴らしでいいから傍にいさせて。


  優しさで緩和したかった。たとえその方法が砂の刃による猛撃であっても、我愛羅の安寧に繋がるならたとえ何回も拒絶されようとも甘んじて受け入れた。

 雨を避けるような身の寄せどころになれるようにと願って始まった満月の陽を避ける月宿りの日は我愛羅と過ごす夜になった。
 守鶴がいなくなってからふと、我愛羅は教えてくれた。


 ──何度拒絶をしても、そのたびに向き合ってくれるような強い感情で想ってくれるような人しか信じられないほど、心の傷が深かった。


 もうその傷は我愛羅にはない。今も名残で行われる月宿りの時間は私達にとって大切な時間になっている。
 その日まであと、2週間後だ。

2023/06/13

わがまま


長編小話・未来if



 ナズナは毎日、愛を囁く。

 ──生きている間にあとどれだけ我愛羅に大好きって伝えられるのかな?

 きっかけはこの言葉だった。それからナズナはいつか訪れる別れが来たときに備えるようになった。

 お互い忍びという身で、いつ何が起きてもおかしくないから気持ちは理解できた。だが、いつかお互いが離れる時がくると意識したら、ふたりで一緒にいるときのほうが孤独を感じるようになった。不安が伝染してひとつに溶けあってしまえばと切に願って、ただ一つになれないもどかしさで飢えるだけだった。

 飢えても流しっぱなしの愛情で愛びたしになってしまう。呼吸ができないほどの想いに溺れていると息つぎのためにナズナの愛で息を吹き返そうとしてまた飢える。

 不安を消すために明日もまた新しいのを求めてしまう自分はまるでナズナの愛を消費して軽んじているようで嫌気が差した。
 それと同時に、いつかくる終わりをより一層知らしめているようで聞きたくなくなった。


 ──……だから、オレは。


ナズナ。簡単に『好き』『愛してる』などと言わないでくれ。聞き慣れていると軽く聞こえてしまう」

「もう、そう簡単に私の愛を軽くしないで」


 もっともらしい言い訳で制しようとするといつものように言いくるめられそうになる。


「すまない……いつもナズナの気もちは嬉しいと想っているが、……もう、よしてくれないか」

「どうして……?」

「隣にいたいからだ。終わることの危機感に備えて保険のような言葉ではなく、今目の前にいるオレに向けた言葉がほしい」

「んー似たようなものじゃない?」

「全然違う。これまでも、これからの気持ちも一つ一つ大切にしていく……それに──」


 ナズナとの日々はいつまでも続いていく、そんな根拠のない希望的観測に甘えたくなるが、ナズナには誤魔化すことも曖昧で濁すことだってしたくない。


「オレはこれから何度も不安にさせるだろう、それでもオレは不安を抱えながらもナズナと傍にいたい。だから忍びである以上、先のこと憂うとお互いに苦痛を伴うものだとしたらナズナだけにそんないたみを背負わせたくない。オレはナズナのためにも、不安を消すためにも、そのいたみを負うことも厭わない」

「それは。私も……同じだよ」


 ナズナは少し泣きそうな顔になって「でも不安な気持ちより好きって言われたほうが我愛羅も嬉しいでしょ?」と魅惑的な提案で軌道修正を謀ってきた。


「いや、むしろオレはその不安がほしいんだが……」

「変なの、昔は薬だけを欲しがってたのに、今はいたがりたいなんて……」

ナズナほどではない」

「ちょっと……!」


 傷つけても、ふたりで傷を癒やし合いながら生きていく幸せを知ってしまった以上、このいたみは……たいしたものではない。

 どこか納得行かない様子のナズナを宥めてると「わかった……私の気持ちを伝える手段はあまりいいものじゃないから、やめるね」と、やっと折れてくれた。
 彼女はすぐに隠そうとするからきれいな言葉の裏の本心を見失わずにすんでよかったと想う。


「ね、我愛羅? 今日はこれだけ言ってもいい?」

「それは今のオレに対してか?」

「うん」


 ナズナは眉根を寄せて険しい表情をしていて、やっと気づく。ナズナがオレのために想いやった行動を無下にしてしまったのだと。


「教えてくれ」

「我愛羅。今日も愛していたよ、明日も愛している」


 どんな愚痴や不安が出てくるのだろうかと身構えていたから、耳元で受けた不意打ちに思わず顔を背けてしまった。顔が熱い。


「我愛羅は? たまには、聞きたいんだけど、どうかな?」

「ああ、そうだな──……オレは、」


 伸ばした手が自然といたずらが成功したような楽しそうで晴れやかな笑顔を掻き抱いていた。

 渡してくれた感情をナズナにも分け与える期間はオレの人生だけで足りるのだろうか。生涯かけても足りないというのであれば、アナタがくれた途方もない愛と比べたら小さいかもしれないこの心を、最初で最後の人として贈りたい。


 
2023/04/09

泣く理由


長編小話・未来if



「昔と今のオレを比べてナズナはどう思う?」

「んー、我愛羅は昔から優しかったけど……今は心も成長して人のいたみを労り包んでくれる所はすごいなぁって想っているよ」

「それはないだろう、むしろナズナのほうが──」

「もう、そうやって卑下しないで。我愛羅がそう思ってても私からみたら我愛羅はそうなんだよ」

「……少なくとも『うずまきナルト』と出逢う前のオレを優しいと言われても納得できない」

「え、そんなに昔の話だったの? あの時の我愛羅は……うん」


 言葉を濁すから「聞きたい、教えてくれ」と詰め寄ると「……厭世的(えんせいてき)にみえて、すごく心配してたよ」と慎重に応えた。


「そうか、今は?」

「え……あの、また言わなくちゃ、だめ?」


 今度は焦ってやや頬を赤らめて困ったような表情になる。オレを見つめるナズナの瞳の色合いから好きだよ、と聞こえてくる。


「いや大丈夫だ、今ので十分伝わった。昔のオレをそんなふうに想っていたんだな」

「うん、どうしても放っとけなくて……急にどうしたの思い出話?」

「いや、実はあの頃と比べて涙脆くなってしまったのは、オレが弱くなってしまったからなのかと考えてな……」

「そんなことないよ……?」

「少なくとも中人試験時の頃と影になってからの自分を比べるとそう思うようになった。他人の嫌疑(けんぎ)忌避(きひ)の視線や態度を向けられても動じなかった頃と比べるとどうしても、な。……ナズナは里を護る(おさ)として弱くなったオレをどう思う?」


 本題だった。うずまきナルトとから大切な誰かのために闘う者が一番強いと教わってから日々努力を重ねて、誰かを護る強さを実感しているが昔よりも感情が決壊してしまう歯がゆさが募った。

 里の安寧を考えると深刻な問題だ。なのにナズナはなぜか嬉しそうに微笑んでいる。


「なぜ喜んでいる?」

「我愛羅。人ってね、何もない人ほど……無敵になって、強くあろうと踏みとどまれるんだよ。だから弱くなったって、我愛羅がそう感じるようになったのが素直に嬉しくて」

「どういう意味だ?」

「泣くことができなかった状態を我愛羅は強かったって錯覚してただけかもよ?」

「さ、錯覚……」


 まるで最初から涙腺が弱いと言われているみたいで、いささか気持ちが沈んだ。


「我愛羅が涙脆くなったのはきっと……色んな人から我愛羅が知らなかった愛情をもらって大切な人と出逢えたから、護ろうとしている証拠なんじゃないかな?」


 ああそうか。
 受け入れ難いと現実が当たり前で、罵詈雑言や嫌悪を向けられても失うものなど一つもなくて強くあろうと踏みとどまるのに必死で平気だった。平気だと思い込んでいた……。


「だから昔ナズナに優しくされるたびに嫌になったのか」

「えっ!? ……嫌って……そんな……」


 分かりやすく落ち込むナズナに過去の過ちの後悔で胸が痛んだ。気休めでしかなくても慰めたくなってナズナの頭部を撫でて髪を梳いた。


「今は感謝している」


 過去を思うとナズナに優しくされた時が一番苦しくて泣きたくてたまらなかったのは、強くなくていいと、そのままの自分を受け入れてくれるあたたかさを欲して知らなかった愛情に出逢えたからだったのか。

 それでも頑なに受け入れずに拒絶していたのは他の生き方を知らなかったからこそ、これまで生きるために築いてきた矜持(きょうじ)を失わないようにしていたんだ。


 そして今は……何一つ辛いと感じたことのない過去が、辛く感じる。
 何も知らなかった頃の自分を想うと哀しい、と思えるようになった。
 そう思えるほどオレには大切な人ができて愛情を知ったことになるのだろうか。


「大丈夫?」


 顔をのぞきこんで、落ちる雫ですら傷をつけないように柔らかく触れてくるナズナの温度が頬に届いた。


「……ああ、心配には及ばない」


 もう、大丈夫だ。ナズナが隣にいる。護るための強さも。今後、何も不安に思うことはない。
 ナズナから教えてもらった、涙脆くなった事実はどこか誇らしく、泣くことの恐れを拭いとってくれた。

2023/04/07

好きな言葉


 ──今度はここに行こう、景色が良くて一緒にみてほしい。

 我愛羅様は平気で未来の話をする。この間柄に別れがくるものだって考えがない。
 いつまでも二人で一緒に入れるものだと想ってくれている。
 その姿、私には眩しいよ。
 あなたの些細な願いを叶えてあげられない私はいつだって無力に感じてしまうよ。


我愛羅の好きな言葉・未来
2023/04/06

くまのぬいぐるみ


長編小話・未来if


「我愛羅、これみて?」


 珍しくお互いそれぞれの時間をゆっくりと思い思いに過ごしているある日、読書中の我愛羅に話しかけた。


「クマの……ぬいぐるみか。懐かしいな。まだ残っていたんだな」

「掃除してたら見つけちゃった。この子どうする?」

「そうだな……できれば大切にしたい。どこかに飾っておくか?」


 我愛羅も昔を思い出したのか懐かしむような温かい声色で提案してくる。


「そうしよっか。うーん、それかたまに私が抱いて寝ようかな? 我愛羅のクマちゃんだし我愛羅が抱いて寝る?」

「いや、大丈夫だ」


 さすがに成人した男性にそれは幼稚すぎたのか即答されて少し残念な気持ちなる。絶対……可愛いと思うのになぁ、我愛羅とクマちゃん。

 我愛羅が小さかったあの頃は(いとけな)い無防備な純真と素直な笑顔に癒やされていた。ぬくもりで彩られていた、あの頃を馳せて頬を緩めていると我愛羅が本を置いて近寄ってきてクマちゃんの頭を撫でてくる。


「ひとりでいる寂しさを紛らわせるために持っていたが今はナズナがそばにいるからな」

「そうね……私がいるからもう淋しい思いはさせないよ」


 改めて真っ直ぐと言葉にされると照れてしまう。我愛羅のこういうところにも惹かれて好きになった……。いろんな偶然が重なって私達が結ばれたんだと思うと、これまでの過ごした時間のすべてに至福感をおぼえて潰れてしまいそう。

 形は変わったけど今でもぬくもりと慈愛で満ちた暮らしは我愛羅と一緒にここにある。


「でも、私はぬいぐるみじゃないよ」

「分かっている。だからこそオレはナズナを抱いて寝たい」


 耳元で響いた甘い誘いの言葉に私はまだ慣れなていない。心臓の音がより一層大きく身体に振動する。


「……えっと……それって、どういう意味で……」

「知りたいか?」

「ん? ……ちょっ!」


 そのまま我愛羅は私の耳を舌でなぞられて吸った。刺激が全身に走って一瞬だけ力が抜けてしまうと、その隙を見逃さなかった彼は私をそのままを支えるように抱き寄せて胸の中へと包み込んでしまう。

 頬に手を添えられて視線が合うように顔を上げられてしまって逃げ場がない。両手はクマちゃんを抱っこしていて塞がっているから押し返すことも叶わなくて、……どうしようと戸惑っていると瞼を薄く閉じた我愛羅の顔が近づいてきて唇を重ねようとしてくる。


「ま……って、」


 とっさにクマちゃんを間に滑り込ませると、ちょんとぬいぐるみの口と我愛羅の唇が合わさって私達の時間が止まった。


「……ナズナ


 クマちゃんをどけて不機嫌そうな我愛羅の声で名前を呼ばれて思わず笑顔を溢した。


「ごめんね。片付けたい場所がまだ残ってるから後でいい? 今夜ちゃんと時間作っとくから、だめ?」


 心の準備もしたかった。何度も身体を結んでも飽きることなく触れ合えなかった時間を埋めるように求めてくれるのは嬉しくて幸せなんだけど愛される分、動けなくなってしまうからできることは全部すませたい。


「別に今教えてやってもいいんだが……」


 ちょっと甘えるように額と額をすり合わせて鼻先をくっつけてくるけど、拗ねているような雰囲気も感じ取られる。


「家事を終わらせてからゆっくり教えてほしいんだけど、だめかな?」

「……だが」


 もう一度、懇願してみるとこんなに考えなくちゃいけないことなのか、珍しくすごく悩んでる。


「……我愛羅」

「……わかった」

「ありがとう。じゃあクマちゃんと待ってて」


 我愛羅にぬいぐるみを手渡すと仕方なくといったように受け取ってくれた。今度は彼の両手が塞がったことを良いことに私は肩を掴みながら背伸びをして自分から我愛羅の唇に想いを寄せて口づける。


「また後でね」


 律儀にクマちゃんと待っているんだろうなぁと想像を巡らせながら静かに頬を赤らめてる我愛羅の傍から離れた。
2023/02/21

質問


「今時間は大丈夫か?」


 今日の任務は滞りなく完了、報告も済ませた矢先に声をかけられた。


「はい! 大丈夫です。何か問題でも?」

「一つ聞きたいのだが……相手に待ち伏せされている状況ではどうする?」

「まず大前提として冷静に対応することが重要で一番やってはいけないことはパニックに陥ることです。もし待ち伏せされているとわかっているのなら相手の注意を分散させたり──……」


 忍者学校(アカデミー)で習ったことや経験によって得た知識を織り交ぜ必死になって応えた。このお方が対処の仕方を知らないわけがない、なのにどうして? と不安がよぎる。


「それでいい、よく考えているな」


 我愛羅様は落ち着いた様子で頷いた。かけられた言葉にほっと安堵した。


「……そういえば医療忍者だったな。仲間が重体の場合はどのように対処する?」

「それは医療忍術を使えない場合を想定してますか?」

「ああ」

「外傷によって対応は変わりますが……まずは出血点の確認と圧迫による止血を──……」

 急にどうしたんだろう、私の任務中の態度に疑問を持っているのだろうかと不安になる。抜き打ちテストのような質問に必死になってできることを述べ続けた。


「もう、大丈夫だ。こちらも勉強になった」

「いえ、有事の際に自分がとれる選択肢が増えることはいいことですから」

「ああ。あと……これからどこかに食事にでも誘われたら、どうする?」

「その場合は、まず……ん?」


 は、食事に……? えーっと。曲がりなりにも年相応の男性から食事誘われるのってちょっと気がある証拠、であって。え。


「お返事の前に我愛羅様にとって望ましい返答をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 すると我愛羅様の気が気ではない緊迫した表情から満足そうな柔らかい顔つきに変わっていって微笑まれた。


「断らないでくれ。もし共にできたら次の休日の予定でも聞こうかと思っていたのだが……不躾だっただろうか?」

「い、いえ。そんなことありません……もしよろしければ……よろこんで」


 こういう時はどうしたらいいんだろう。突然舞い降りてきた質問に関しては知識も経験も不足してる。どうしよう。
 私は我愛羅様の背中を追いかけて隣を歩くことで精一杯だった。


2023/01/28

長期任務


長編小話・未来if



「我愛羅、ナズナが長期任務に出かけたんだって?」

「ああ」

「寂しくなるね」

「そうだな」

「いつ戻ってくるんだ?」

「32日と12時間……52分後だ」

「あ、あぁ……里を空けてる期間、かなり長いみたいだね……」


 彼女がいないことがだいぶこたえているのか聞くんじゃなかったと後悔をした。この様子だとあと1ヶ月以上も我愛羅は耐えられるのか心配になる。


「無茶をするからな……それに」

「どうした?」

「ごく一部だが彼女の優しさにつけ込む者がいる……いい気がしない」


 浮気の心配というより、周りにいる異性に嫉妬している様子だ。二人の関係はまだおおやけにしていないからこそ、か。
 可愛いところもあるじゃないか。


ナズナのことで何一つ心配する必要はないと思うけどちゃんと捕まえておくんだよ。今から木の葉に任務に出かけるし、手紙あるなら渡しておくよ?」

「……頼む、報告はこまめにするように伝えているが業務的なものばかりでナズナ自身の近況が読み取れずに困っていた……」

「それはそうだろう」


 彼女からきた報告書を覗いてみるとかすかに花の香りが鼻腔をくすぐる。この花の香りは知っている。確か花言葉は「あなたを想う」だったかな。
 彼女なりに気持ちを伝えようとしているのに気づいてないのはむしろ我愛羅の方らしい。

「ちゃんとナズナは我愛羅のこと気にかけているじゃないか。こういうのは自分で考えて直接伝えな」

「暗号文か?」

「違うよ」

 
2022/11/13

ハグの日


「我愛羅、今日はハグの日だってよ」

「……しない」

「まだ何も言ってないのになんで!」

「抱きしめるだけでは物足りなくなるからな。それでもいいのな――」

「やっぱりしなくていいかも」

「……」

「うそ、そんなに落ち込まないでよ」

「落ち込んでなんかない」

「わかったわかった、とりあえずぎゅーっとしようね」


2022/08/09

過去拍手文


 唐突に恋人である我愛羅に「もうすぐ誕生日だろう、何か欲しいものはあるか?」と訊ねられて悩みに悩んだ末に「じゃあ……」と呟く。

「キスして、ほしい」

 彼は奥手だ。私のことを大切に想っている誠実のあらわれだとしても私にはそれがなんだか焦れったくて物足りない。距離を縮めたい。

「それは、恋人同士なら普通にするものだろう」

「えっ、それならどうしよう……。私、その、もう少し恋人らしいことしたいから強請ってみたんだけどプレゼントにはならない?」

「ならない」

 え、じゃあ、これから普通にするんだ。特別でなくとも恋人だから普通に……当たり前のように。……ううう。なんか恥ずかしい。

 私だけがしたがっているのかと思ってたけど我愛羅も私とキスがしたいのだろうか、そう思えて気持ちを確認したくなる。

「特別でなくとも、してくれるの?」

「オレは……したいと想っていた」

 気持ちを知ってしまって顔が熱くなるのを感じながら両手で頬を押さえると我愛羅はそんな私の様子を見て、少しだけ口元を緩めた。

「わかった」
 
 頭を撫でられたかと思えばゆっくりと顔を近づけられて反射的に目を瞑る。……唇に触れる柔らかさと温かさに塞がれてしまった。優しくて心地良い触れ合いだった。

 目を開けると微笑みを浮かべる彼は見惚れてしまうくらい嬉しそうな表情を浮かべていた。
 またしてほしいなと視線を合わせると自然と言葉にしなくてもお互い唇を寄せた。

「どうして今までしてくれなかったの?」

「機会を探っていた」

 え、ええ……タイミングが分からなかったってこと? 我愛羅らしくて淡く微笑むと我愛羅はその唇の上に啄むような軽い口づけを何度もしてくれた。我愛羅は喜んでくてれているのか、分からない。分からないけど、嬉しい。幸せになって夢中で浸っていると無意識に「んっ」と声が漏れてしまった。
 我愛羅も驚いたように息をつめて押し黙ってしまう。

「ごめんなさい、変な声でちゃって」

「……嫌だったか?」

 謝るとまるで気にしていないという意思表示なのか彼の手が後頭部へ添えられる。

「ちょっとびっくりしただけ、すごく嬉しいよ」

「そうか……」

 頬だけじゃなくて耳まで赤らんでいる。なんだか新鮮でつい見つめてしまう。

「我愛羅も、照れたりするんだね」

 私の声によってだろうか、少し得意げになると面映(おもは)ゆい気持ちを誤魔化すように我愛羅にまた口付けられた。今度は深く、舌が入り込んできた。思わず身体が震えたけれど逃げられないよう押さえつけられた。

 内頬や根まで、ゆっくり味わい尽くすかのように絡ませてくる舌の動きに翻弄される。暴力的にも感じる愛情が口の端から唾液と共にあふれそうになるのを必死に耐えて、呼吸の仕方がよく分からなくて苦しくなってきたところでようやく離された。

 肩で大きく息をしていると我愛羅が愛おしむように微笑んで「欲しいものは見つかったか?」と問いかけに私は首を横に振った。

「まだ見つからないみたい……」

 本当はこの時間がもっとほしい、もっとたくさん我愛羅に触れてほしい。まだふたりでできてないことを、知らないことを他の誰でもない我愛羅に教えて欲しい。

 でもきっと特別な日でなくとも当たり前のようにある日々の中であっても、この時間はこれからもこうして当たり前のように我愛羅は与えてくれるのだから。

「考えておくね……」

 大好きな人と一緒にいられる時間が何よりも幸せで、今はただ彼から与えられる至福感と優しさに包まれていたかった。
2022/03/29

また明日


長編小話


夕暮れの公園は寂しさを色濃くさせる。

元気な声で交わされる同じくらいの歳の子たちの『また明日遊ぼうねー』『ばいばーい』を背中で聞きながら俯いていた。

自分はバケモノだからいないもの、みたいに避けられた。人からもボールからも。

また明日≠フ約束。手を振りながら別れていく姿に強く憧れた。


そんなある時、憧れは自分の目の前にあって近くで触れられるものになった。あの子との出会いは突然で驚きで、喜びの連続だった。

名前を読んでくれた、一緒にいてくれた、バケモノではなくなった。

今日別れたら、明日は嫌だ、と言われて避けられてしまうかもしれない。約束が欲しかった。

別れですら惜しかったのに一緒に過ごしていくうちに彼女は『明日もまた会いに来てくれないかな。私、ここで我愛羅のこと待ってるよ』とボクを欲して優しく微笑むから約束してくれるたびに別れが日々の喜びに変わった。

それでも『えっと、明日もだめかな……』と確認させたのは安心したいから、その唇が言ってくれるのを期待したから。

眩しいものを見つめるようにふふ、と柔らかく微笑まれて『うん、また明日だね。またね』とゆっくりと優しい動作で髪を撫でてくれた。

ふとした瞬間に想い出してまた明日≠約束させようとしたら「うん、また明日ね。だけど私はこれからもずっとがいいな……?」「ああそうだな、ずっと……」「ずっとだね」と憧れ以上のものを渡してあの日から続く優しさを永遠にしてしまう。

これはただの、忘れられない数十年前の想い出と一生の誓いだ。

 
2022/01/29


我愛羅が私の唇にそっと指を置いて触れてくる。かさついた感触に顔をしかめた。

「荒れてる」

急な接近に慌てて目を逸らして「あ……後で保湿剤塗るから離して」と抗議するとまるで逃げるのを拒むようにぐっとそのまま指に力が加えられて上唇に刺激が走った。

「いっ……」

「すまない、切れてしまったか」

我愛羅は顔を寄せてきてキスをしてくる。
触れ合いからどことなく申し訳なさそうに控えめでもお詫びなのか知らないけど唇を湿らせながら血を拭いとって丹念に舐めてくれる。口先に吸いついて最後に甘噛みを残すと満足したのか「これでいい」と頭を撫でられる。

「全、然、よ、く、な、い……っ!」

ただただ唖然として()めつけても「まだ血がでているな」と重なり合いそうになる唇を手で遮るとどこか不満気だ。

「我愛羅が触れるところだからちゃんとお手入れします」

「オレがしておこう」

我愛羅の前ではなんにも役に立たない遮る手は抵抗を失って彼によって繋ぎ止められてしまう。隔たりがなくなってしまえば、またやわい感触がおりてくる。

 
2021/12/28

友達?


「が、我愛羅」

「どうした」

「あのね、こういうことって友達でもしないと思うんだけど」

「用があるから寄ってもいいか」と言われて招き入れると玄関の扉をすぐに閉められて腰を引き寄せられて抱きしめられた。
更に身体を密着されてぎりぎりと圧迫される。怒ってる……?

「そうだな」

「え、じゃあどうし……て、するの?」

「友、だとは思っていないからな」

「そんな……」

悲しくて震える声で「私は我愛羅のこといい友達だと思っていたのに」と腕の中で(うつむ)くと、「悲しませるためにそんなことを言ったわけではない」と申し訳なさそうに微笑まれた。

「こういうことをする間柄の関係を知っているか?」

「あ、……愛人」

涙が出そうだ。友達以下だ。

「違う」

「じゃあ、なに」

「恋人だ」

(ひしゃ)げてた気持ちが吹き飛ばさるてしまう。言葉の意味を自覚するとどんどん頬と身体が熱を帯びていってどうしようもなくなる。

「いつまでも気づいてくれないからな、もう我慢の限界だ。そろそろ男として意識してくれないか」

「オレは恋人という間柄になりたい」と希求(ききゅう)してくる我愛羅に、私は必死になって頷くだけでしか返事ができなかった。


 
2021/12/25

(はた)からみる


モブ視点





「風影様、お疲れ様です」

「お疲れ様です」


今日の業務も終わり。同僚とふたりで帰ろうとした矢先、風影様も執務が終わったのか出くわしてしまう。
廊下を開けながら挨拶をかわすと一言(ねぎら)いの言葉を頂いた。

「あの風影様──……」

もしかしたら風影様と恋仲ではないかと噂が密かに立っている方の名前をあげて「さっき少しだけお話しました。Aランク任務から無事に戻ったみたいですね」と伝えて反応を伺う。

すると風影様は「そうか、……無事に帰ってきたのか」と心底安心したような柔和な表情になる。

名前を聞いただけでこんな無防備に……その様子でおおかた察してしまう。
帰ってきた、誰の元になんて質問をするのは野暮な至りだろう。

妙に感心を覚えながら「あ、そういえば……」と続ける。

「医療班のところに行くとか言ってたような……」

「医療班のところに……?」

その瞬間、風影様はいてもたってもいられない様子になって「そうか、お前達も遅くまでご苦労だった」と早足でその場を立ち去ってしまう。


風影様の気配が消えたタイミングを見計らって、隣で惚けている同僚を肘で小突きながら囁いた。


「あんたみた、風影様の安心した笑顔から心配そうに歪んだ顔……」

「ああ、みた」

「よかった。私の幻覚じゃなかったのね。やっぱり……あの人が」

「風影様の特別な人っスね。なんていうか……あれはかなり愛されてますね」

「そうね……」

「なんか急に恋人が欲しくなりました。怪我したら心配して駆けつけてくれるような恋人」

「あら。できるといいね、応援してる」

「ところで先輩、今度僕とご飯でも……」

「いやいや、冗談よしてよ」「あの、本気なんですけど」と浮足立ったままその場を後にしたのだった。

2021/11/30

寒い朝


「もう朝だ」

「ううう、寒い……ベッドからでたくない」

「……そうだな」

「ほら、我愛羅も朝だよ起きないの?」

「……まだ少し時間がある」

「そうだね。それでも……。さ、寒い……が、我愛羅……くっついていい……?」

「……くっつく…………」

「い、いやなら、覚悟を決めて……起きよう?」

「いや、大丈夫だ。こっちにこい」

「ありがとう、手もほしい……」

「隙間ができると冷気が入って余計寒いだろう、……もう少し密着したほうがいい」

「ぎゅっ、てしていいの?」

「……ああ」

「やっぱり、我愛羅あったかい……大好き」

「っ……」

「我愛羅?」

「身体が火照ってもう熱いくらいだ……自制の限界がくる前に離れよう」

「え、そんな我愛羅までも……急に冷たくなるなんて……」


2021/11/28

可愛い人


最近気になる人がいる、その人を見れば見るほど日毎(ひごと)に想いが募ってやり場のない気持ちが溢れそうになる。

惹かれているからそう見えるのか他の者よりも特別に映るのは気のせいではないはずだ。

出逢った頃と比べると隣にいる彼女はよく笑うようになった。何が面白いのかも嬉しいのかも分からないがいつもこの表情を見ていると彼女と自分は同じ気持ちで傍にいたいと想ってくれているようにみえて安心する。


特に最近は目に見えて実感するから「何かいいことでもあったのか」と聞くと「好きな人が、できたんです」と、何気ない一言にすぎないのに衝撃が胸に響いていたかった。

「意外と可愛い人でほっとけなくて、気づいたらいつも心にその人がいるんです。でも手が届かない人で恋と同時に失恋しちゃったんですけど一緒にいるとやっぱり幸せなんです」

どこか遠くを見つめる彼女は切なげで、その眼差しは手が届かない可愛い人に降り注いでいるのであろう。一体誰なのか、いつからなのか。恋は女性を綺麗にすると聞くが彼女が魅力的に見えたのはその人のために変わったからだったのか。

自分とはかけ離れている存在だろうと茫漠(ぼうばく)に思う反面、自分であれば失恋なんてさせないのにとやるせなくなる。

誰なのか聞いてもいいかと問うと彼女は頬を染めながら「我愛羅様」とまっすぐ伝えてくるから思わず何食わぬ顔で「そうか」と応えて我にかえる。

「……オレ?」

可愛い人……?
 
2021/11/28

膝枕


 突然いつもと変わらない表情で「膝枕というものはなんだ」と聞いてくるから、ソファに腰掛けて無理矢理我愛羅に横になってもらう。

「これが膝枕です、どうぞ」

 頭を太腿に乗せるように指示すると「そこは太腿だが……」と言い淀みながら頭を預けてくれた。我愛羅はがちがちに固まったまま「これが本当に膝枕なのか? それに……どこを見ればいいのか分からない」と見つめてくる。


 どこでそんなものを知って興味を惹かれたのだろう。まさか言葉通り膝を枕にするものだと思って疑問を感じたのか、テマリさんかカンクロウさんあたりにそそのかされたのか。

「騙したりしてないから。えーっと、……あっち向いててよ」

 とりあえずなんか恥ずかしい。居心地は良いのか悪いのかはあえて聞かない。
 我愛羅の視線が気になるから彼の目を手で覆うとそこはかとなく不服そうな雰囲気を醸し出している我愛羅を見ていると複雑な心境を抱く。

「嫌なら起きて。それに膝枕してもらうなら別にカンクロウさんとか、んーあとはカンクロウさんでもよかったんじゃない?」

「なぜカンクロウ限定なんだ」

「じゃあテマリさんとかバキ上忍? マツリちゃ、」

「……誰でもいいって訳ではない」

 へぇ、それって……。唐突に我愛羅の顔が見たくなったから瞼の上から手を離すと顔の向きを変えられた。仕方がないから我愛羅の髪に指を差し入れて梳くと心なしか頬が赤い気がする。
 今、心臓が高鳴って仕方ないのに我愛羅の表情が見たくてたまらない。

「我愛羅、こっち向いて?」

 呼びかけてみても返答がない。規則正しい呼吸音だけ聞こえてくる。

「狸寝入りで誤魔化してない?」

「……寝ている」

「そういうことにしておきます」

 なんだか気に入ったご様子だからもうしばらくこのまましてあげとこう。

 甘えるのが下手くそな大好きな人のために。
 
2021/11/27

コードネーム


モブ視点


暗部名(コードネーム)もらったの」

「それって言ってもいいやつでしたっけ……あ、でも確か僕と組む予定でしたよね、支障がないなら教えてもらってもいいですか」

「タヌキ」

「ん?」

「タヌキ」

暗部名(コードネーム)は動物の名をつけられることが多い。
でもこれは……。

「……愛されてますね……」

「どういうこと? でもなんか以外だよね、私そんなにタヌキ好きじゃないんだけどなぁ」

「それ風影様が聞くとショック受けると思いますので内密に……」

「ショック? それとも私ってタヌキっぽいのかな?」

「違うと思います」

「我愛羅の好み?」

「うーん、えーと。それもなんか少し違うと思います」

多分きっと風影様は自分のものだってそう言いたいのだろうか。言わないほうがいいですかね。

2021/11/27

弱み


我愛羅のずるいところは傍にいたいと思わせることが上手なところだと思う。


「我愛羅、また明日ね」

黙って縋るようにじっと見つめられ、名残惜しそうに触れてくる。抵抗すれば難なく逃れることができる力加減で抱きすくめられるから逆に困惑してしまう。

「我愛羅?」

離れがたい様子が全身から伝わってくる。我愛羅の耳殻が私の頬にくっついて少し冷たい、それほどまでに近い。
だめだ……いじらしいこの人に負けてしまう。

「我愛羅……私が我愛羅に特別弱いって知っててやってるでしょ?」

「そのつもりはない」

素……無自覚……。もっと傍にいたくなってしまった。

「やっぱり……その、今日泊まっていい……?」

「ああ」

顔をあわせるとどことなく瞳の輝きが増した気がする。無表情でも喜んでくれているのか、後頭部を撫でられてさらにきつく抱き寄せられる。「ベッドが一人用だから少し狭いかもしれない」と心配する我愛羅をよそに私は添い寝前提……なの? と疑問に思いつつも「逆に狭いほうが寄り添って眠れるからいいよね?」返した。

2021/11/27

髪飾り


長編小話・未来if

 我愛羅、髪伸びたなぁ。
 ふと、自宅で仕事中の我愛羅に目をやると前髪が視界の邪魔になるのか耳にかける動作が目につく。
 我愛羅と結婚して十年近く。一緒に時間を重ねていくにつれて大人の色気が私以上になって、落ち着いていて泰然とした静かな魅力が増してきている。

「我愛羅ちょっといい? これ使ってみない?」

「ああ……これは」

「昔、我愛羅が私に贈ってくれた髪飾り。少し髪留め代わりにもなるのよ、どう? 視界も遮らなくていいでしょ?」

「悪くは……ないな」

「でもあまり人前に見せないでね……」

 普段の厳粛な雰囲気が薄れて、なんだろうすごく可愛くて愛おしい、大好き。
 みんなの風影様じゃなくて私にだけにしか見せてくれない我愛羅。
 可愛いなんて言ったら不機嫌になりそうだから「誰にも見せたくないの」と伝えると目元を柔らかく緩めて甘く微笑まれる。

「独占しようとしてくるのは珍しいな……分かった、そうすることにしよう」

「嬉しいの?」

「当然だろう。いつもオレばかりが独占したがっているからな」

「? 独占なの、包容力の間違いじゃない?」

「そんなことはない、それで構わないのならそうやって独占されててくれ」

「うん。我愛羅が満たされるなら私はいつまでも独占されたいかな。我愛羅の独占欲はどこかあたたかいから好きだよ」


2021/11/23

愛した理由


長編小話(ザクロ)・未来if


「風影サマ」

無視かよ。

ナズナのどこ好きになったの?」

無視かよ、いやでもかなり顔赤くなってンな……。

「どうせ自分を愛してくれたから愛したっていう受動的でくだらない理由かな? 今きみは誰もに必要とされて愛されてるから必ずしも彼女である必要はないよな?」

「違う。無駄口を叩いてる暇があるなら任務に就け」

「はっ、図星だろ」

「……それはきっかけにすぎない。今では彼女でなければオレには意味がない理由がある」

「へぇ、意外だな」

「そうやって聞き出そうとしても無駄だ。これは彼女に直接伝える気持ちであってお前に話すことではない」

「はー……お熱いですね」

残念。

「任務って……あ? 国境警備? しかも今日から? 今さっき任務から帰ってきたばっかなのに、きつすぎないか? 分配下手すぎないかな、寝不足だろお前、おい?」

無視かよ。これは揶揄(からか)った報復か?

2021/11/22

昔と今


長編小話・未来if

「我愛羅、5歳くらいの時のことあまり覚えてない……?」

「覚えてない」

「あんなに可愛かったのに……」

「なぜそこまで覚えているんだ」

「えーと、秘密。……我愛羅のことちゃんと見ていた証拠だよ、だから覚えてるよ?」

「そうか……」

「あの頃の我愛羅は本当に……可愛かった……ねぇ、昔みたいに大好きって言ってほしいな」

「そんなことを言った覚えはない」

「言っ……」

「言ってない」

「即答してそう断言する辺り少しは記憶にあるってことでしょ、我愛羅?」

「っ……探ろうとするな……」

「本当に可愛かった、あの頃の我愛羅に勝る我愛羅はいないと言ってもいいほど、可愛かった。ずっと護っていたくなっちゃうの……」

「もうよしてくれ、無防備だった頃の自分の話をされるのはむず痒いものだな。聞けば聞くほど昔の自分に敵わない気がしてならないな」

「大好きって言ってくれる可愛い我愛羅はどこに……」

「もういない」

「そんな……だけど今でも我愛羅のことは護っていたいって想うよ」

「……オレも、」

「我愛羅?」

「……そう、想っている」
2021/11/22

待ち合わせと我愛羅


「我愛羅、難しい顔をしてるね。何かあったのか?」

「テマリか……。今度恋人と出かけることになったんだがわざわざ待ち合わせをすることになった……同棲しているのだから一緒に出ればいいものを……」

「な、なんだそれ……めちゃくちゃ、かわいいじゃないか! そんな彼女のこと大切にしろよ我愛羅」

「待ち合わせする意図が理解ができない。一緒にいる時間は長いほうがいいに超したことはない」

「待ち合わせデートしたいってことだろっ! 初々しい恋人同士の気分を味わいたいんだよ、かわいいじゃないか!」

「な、なるほどな……」

「こういう、いじらしいところがたまらないね。私もあの子みたいな恋人がほしいよ」

「たとえテマリでもそれは許さない、彼女はテマリとも付き合えると言っていた」

「冗談だ、それに私は女だぞ?」

「………………関係ない……」

「あの子が抱く愛の前では性別も障害にもならないんだね、さすがだね」



2021/11/22

サボテン


長編小話

「あ、サボテンちゃん。買ってきたの? かわいいね」

「目が合ってしまったからな……」

「あ、なんとなく、わかるよ」

「そうか……」

嬉しそうな微笑みを浮かべる弟と弟の恋人である彼女。

「植物と、目が……合う? 意味がわからないじゃん……」

心なしか理解ができなくて慄く。二人には共通する趣味があって、お互い心と心で繋がっていてお似合い……じゃん?

「んー少し顔色が悪いように見えるけど……」

「やはりそう思うか?」

「うん、ハリがない気がする」

「顔色? ハリ? サボテンなんて全部緑色じゃんよ」

二人の視線が射抜くと同時に被るように「カンクロウさん見てわからないの?」「分からないのか?」と、まるでおかしいとでも言うような言葉につまった。

「いや、オレがおかしいか? 二人の会話なんか怖いじゃん」

これは植物を育てる者しか分からない領域だろうと理解した。



2021/11/22

温室


長編小話


「相談があるんだが……」

「どうしたの?」

「温室がほしくてな……」

「個人用? 里の?」

「個人用だ……」

「私もほしい! サボテンのためだよね? 我愛羅がよかったら私もそこで一緒に花とか植物を育ててもいいかな?」

「確かにサボテンのためだがオレとアナタのためにでもある。そう言ってくれると思った」

「私達の子でいっぱいにしようね」

「……わざとなんだろうが、少しは言葉を選んでくれないか」



2021/11/22

褒め言葉


長編小話

 私の瞳を我愛羅が食い入るようにじっと見つめてくるから「どうしたの?」と訊ねると短く私の名前を呼んで「その、ナズナの瞳は……」と静かに大切なことを教えるように囁く。

「うずまきナルトとよく似ているな」

「……え゙、う……うん、ありがとう……?」

「色や眼差しも……綺麗だ、といつも思っている」

「……うん」

 我愛羅の頬が赤い。照れが入り混じって言葉を詰まらせながら必死に伝えてくる姿にこっちまで嬉しさと恥ずかしさで心がくすぐられる。

 真摯な言葉を貰って浮き立つ感情の裏側では、わがままかもしれないけど本心を言うと褒めてくれるなら「綺麗だ」の一言だけでよかった。
 今の私、微妙な表情をしている自覚がある。男性の瞳と似てるって褒め言葉なのかな……と疑問になるけど、我愛羅なりの最大の褒め言葉なんだろう。

 我愛羅にとってナルトくんは大切な人だ。大切に想っている人と似ていると例えて称することは私に対してナルトくんと同等の想いを寄せているという意になるのかな? 嬉しくもなくもない複雑な気持ちが去来(きょらい)してなんか目に沁みる。

 つまり我愛羅はナルトくんの目を綺麗だと思ってみてることになる……ううう。

「なぜ泣いてるんだ」

「嬉しくて……」

 ちがう、けど、この心情を説明するのは難しかった。ただ一重に夜叉丸さん助けて、たぶん我愛羅は女性を褒める才がないです、そこにいない彼に救いを求めた。

「そうか……」

「急に、どうしたの?」

「カンクロウがたまには褒めて見たらどうかと言われてな」

「カンクロウさん、が……」

 これで誰かに目が綺麗だと褒められるたびにナルトくんを思い出すことになる。……たぶんこれはナルトショック。

「喜んでくれてるなら、よかった」

「うん……ありがとう。我愛羅、もし今度褒めるときは感嘆詞だけでいいからね? そっちの方が嬉しいな。また言ってね」

 同じ失敗をさせてはいけない。不思議とそんな使命感からつい助言をしてしまう。きっともう大丈夫ですよね? 夜叉丸さん?
2021/11/21

千年殺しと我愛羅


「ナルトくんがね、『木の葉体術秘伝奥義・千年殺し』の話してくれたんだけど、どういう技なんだろう。私も会得できるかな?」

「……虚を突くような攻撃なのは確かなんだが……あの術は誰もが使用を躊躇う至難の技だ。何より尻込みするような痛さ……いや、なんでもない。それだけだ」

「そうなの? 我愛羅にここまで言わせる秘伝奥義、一体何? どんな技なの?」

「とてもじゃないがオレの口で言うには難しい」

「そっか……ナルトくんに直接聞くしかないのかな? でも秘伝奥義なんて他里の忍びに教えてくれないだろうし……、うーん」

アレがどんな技なのか知った時、彼女ははどんな顔をするんだろうな。


2021/11/21

カメラと我愛羅


※現パロ

「じゃーん機種変した、画質がいいみたい。せっかくだからツーショ撮ろう?」

「なぜ急に……」

「ほら、私がシャッター切るよ。こっちみるんだよ、そうそう」

……

「我愛羅、目瞑ってる……やだ、なんか愛おしい……」

「消せないのか?」

「消さない、宝物にする」


2021/11/20
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