最近の悩み。
この町で私はなにができるんだろう。

ずっとリムルさんについて回って、ただ、見ているだけ。
カイジンさんたちのように何かに優れているわけでも、ゴブリンたちのようになにかができるわけでも、戦えるわけでもない。

ずっと、ずっと誰かの役に立てるような、そんな何かがしたかった。






「姫」



ソウエイの声に、一緒にいたシュナとともに振り返ってしまって顔を見合わせてしまったことがあった。
”姫”この町の子たちに呼ばれてそんなこともついに慣れてしまっていた。
鬼人の子たちにとってお姫様はシュナだ。恥ずかしい。


「すみません、今後はシュナ様とお呼びします」
「はい、お願いします。今の私たちの姫はネージュ様ですから」
『え…!』


ですよね、ネージュ様。なんてシュナに微笑まれてしまって言葉を返せなかった。
ソウエイの伝言はシュナに対してでカイジンに頼んでいたという織り機が完成した、というものだった。
伝え終わると彼はすぐに森の偵察に戻ってしまった。

…私は姫なんて呼んでもらえるようなこと何もしてないのに。


「ネージュ様、ゴブリナたちからある程度お話は聞いています。
ゴブリン村での牙狼族とリムル様との戦闘時にあった出来事のことも」



2人で町を歩いていた。自然な流れであゆみの方向はカイジンたちのいる工房へと向かい、シュナは道中で足を止めると私に振り返り両手を握られる。
鬼人へと進化したシュナは綺麗だった桃色の髪が少し伸びた。ふわふわとした綺麗な髪は、もともと可愛らしかった顔立ちを引き立てている。
赤色の綺麗な瞳もお兄さんだというベニマルとそっくりなまっすぐな目をしていた。
他の鬼人たちももともと人型にだいぶ近かったけれど名付けの進化の影響でより人に近くなったように思う。


「怯える子供たちに、歌を歌ってくれたと。
あなた自身もひどく震えていたのに、それでも」
『…、あれは』
「確かにリムル様は武力で彼女たちを守ったのでしょうけど、ネージュ様も…姫様もたしかに守ってくれていたと」


そう教えてくださいましたよ、とシュナは笑った。


「リムル様は私たちの主ですし、
あなたは確かにこの町の、私たちの姫です。これからも、ずっと」


柔らかい声なのにとても凛とした声だった。

「ネージュ様は、ただそうあるだけで立派な姫様になれます」

このシュナが保証いたします!と微笑んだ彼女に、向けられる好意の眼差しに胸が暖かくなった。
きっと本物だって思えたから。
私、きっとこの子達のいうような誇れる姫になれるように頑張りたい。
リムルさんのようにできなくても、彼からもらっているものをいつか返せるようになりたい。

あの人の隣にいても胸を張れる自分でありたい。

私も、すこしはリムルさんのようにスキルを使えたら…。うん。練習しよう。
ベニマルもソウエイもハクロウもきっと頼めば指南してくれるだろう。
シオンはちょっと色々と加減のできない様子がたった数日で見えてしまったので。
リムルさんもスキルの使いたとか…教えてくれないかな……。


「私の作る反物ができたら姫様に似合う素敵なお召し物をたくさんお作りさせてくださいね」
『…うん。ありがとうシュナ』



でもそんなにたくさんいらないかも、と顔を合わせて笑い合う。
また少し、シュナと距離が縮んだ気がして、頬が緩んだ。




++



ベニマルとシュナに”リムルさんに戦い方の指南を受けたい”と相談したらちょっと首を傾けてお願いして見たらいいと言われたので、
一回断られたにも関わらず言われたようにお願いをしてみればものすごい顔でいいよ…と呻くように了承されたのだ。
リムルさんの保有するスキルを一部私は共有している。
大賢者さんは共有…というわけにいかないみたいでリムルさんの近くに寄れば声も聞こえるし会話もできる。
彼が捕食した魔物への擬態…完全にはできないけどコウモリの羽を生やすくらいならできてしまった。
どうやってかは知らない。なんかできたし飛べてしまった。

他にも何個か私でも使用できるスキルを発見できたのは幸いだ。
使うことのないことが一番だけれど、もしもはやはりあると思うのだ。
__見た目は人間だけどもはや持ってる力が人間ではない気がしてきた。

ものすごい力を持つリムルさんも、鬼人たちのもつ刀が気になったらしい。
私にスキルの使い方を教えながら、ハクロウに剣技の指南を受けることになった。


「豚頭帝?」


ハクロウはその剣技の才をホブゴブリンたちに剣術を教えることでより発揮していた。
鬼教官だ。文字通りすぎる。


「なんだそりゃ」
「まあ簡単にいうと…化け物です」


ハクロウは多数のホブゴブリンたちとベニマル、リムルさんまでも相手取って余裕の立ち回りをしていた。
そんななかベニマルとリムルさんが、ここ最近ジュラの森で起こしている異変の元凶が…豚頭帝なのではないかと話をしている。
…私はさすがに剣を握る勇気はないので剣術の稽古を近くの木陰で眺めていたのである。


「ってことは今俺たちの目の前にいるハクロウはオークロードか?」
「ああアレも似たようなもんですね」
「ホッホッ言ってくれますな。稽古がしたいと望まれたのはリムル様ですのに」
「俺ちょっと休憩」
「仕方ありませんのう」


稽古を抜けてきたリムルさんが人型を解いてスライムの姿になって地面に座る私の横にはねてきた。
続いてベニマルもその隣に並ぶ。

『あの…その化け物?のオークロードって…』
「数百年に一度生まれるというオークの特殊個体です。なんでも味方の恐怖の感情すらも喰らうため異常に高い統率能力を持つんだとか」


つまり恐怖を感じない兵士を統率する…と。
恐怖の感情を持たないということは死をも恐れないということ。どんな命令をもその命を賭して遂行するのだろう。


「里を襲ったオークどもは仲間の死にまるで怯むことがなかった。あるいは、と思いまして」
「なるほど…」
「まあ可能性でいや非常に低い話です」
「他に何かないのか?里が襲われた理由の心当たり」


どうしよう2人が会話している間にもホブゴブリン達がハクロウに薙ぎ払われていた。
死屍累々である。…死んでないけど。


「…関係あるかわかりませんが、襲撃の少し前にある魔人が里にやってきて”名をやろう”だとか言ってきたんです。
俺を含め全員から突っぱねられて結局悪態つきながら帰っていきましたがね」
「そいつから恨みを買っているかもしれないってことか」
「仕方ありませんよ。主人に見合わなけりゃこっちだって御免だ。
そいつの名前なんだったかな、たしかゲレ…ゲロ…」
「ゲルミュッドだ」
「そうそれだ」


そもそも名前覚えられてないの可哀想。
ベニマルを助けるようにそばに現れたソウエイがその魔人の名前を告げる。
悪態つきながら帰って行ったっていうの、そのひとの程度が知れてしまうというか。
…ソウエイ、すっとあらわれたけどもともと忍者っぽかったのが名付けでさらに強化されている気がする。
ていうか今、私の影から出てこなかった?


「ソウエイか、どうした?」
「報告がございます。リザードマンの一行を目撃しました。湿地帯を拠点とする彼らがこんなところまで出向くのは異常ですので。取り急ぎご報告をと」
「リザードマン?オークじゃなくて?」
「はい。なにやら近くのゴブリン村で交渉に及んでいるようでした。ここにもいずれ来るかもしれません」


「リムル様ー姫様ー!」


町から訓練場に駆けて来るシオンの声に会話が止まる。


「お昼ご飯の用意が整いました。今日は私も手伝ったんですよ」
「おう、ありがとうシオン。お前らも行こう」


その誘いにソウエイがいち早く影に潜って逃げた。やっぱり私の影使ってる……なんかちょっと恥ずかしいからやめてほしい。
ベニマルも首を振って断る。どうしよう。いつもはシュナが一緒にいてくれたから断れていたけど。
リムルさんは特段疑うことなく、シオンに抱えられて食事処に向かおうとするのをベニマルもハクロウも止めなかった。

私も止められなかった…。

 




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